目次 




(助けて――こ……壊れる……ッ)
 それでも輝夜の怯えに反して、彼女の身体は柔軟だった。
 薄紅色に咲いた淫らな花はリオンの楔に限界まで押し広げられ、豊かな弾力で律動を受けとめる。胎内の複雑に重なりあった襞も同様で、熱いものでこすられるたびに淫蜜をあふれさせて交わりを助けた。

「ッう……」
 ――張り出した先端が柔襞に引っかかったと錯覚するほど喰いつかれて、リオンは思わず声を漏らす。
 苦しいまでの心地よさだ。開いたばかりの少女の胎内を行き来するたび、背筋を鮮烈な快楽が駆け抜け、リオンの息はどんどんはずんでいく。
 輝夜があふれさせた蜜とリオンの先走りが混じり合い、律動がますますなめらかになると、混乱して泣き崩れていた少女の反応が変わった。
 内股がびくびくと痙攣を始め、瞳は夢みるように蕩けていく。だめ、ゆるしてとあえぐ声にも明らかに官能の色が現れていた。
「輝夜……気持ちいいのか?」

 あまりに直截的な問いかけに輝夜は耳まで真っ赤になったが、否定はできなかった。
 リオンの楔で蹂躙されている部分が蕩けそうで、強烈に疼いていて、まるで自分の身体ではなくなったみたいに制御がきかない。輝夜の戸惑いや怖さを無視して、中は欲深く彼の熱を食い締め、息が止まるほどの激しさで抜き差しされるたびに甘い刺激を引き出す。
 律動をゆるめてほしいのか、もっと激しくしてほしいのか、もう自分でもわからない。
 兄のことも隠し巫女の立場も聖玉のことも、初めて味わわされる快楽で白熱した思考の向こうにかき消えていく。
「や――ぁ……んんッ!?」

 そのまま遠のきかけた意識が、唇を奪われたことで強引に引き戻された。
 これ以上ないほどの至近距離でリオンと視線が絡みあう。双色の瞳は熱に浮かされたように濡れていて、眉は何かに耐えるように深く寄せられている。その表情はどきりとするほど色っぽく、ただでさえ激しい昂奮がさらに煽られるのを感じた。
 秘部を貫く楔の動きのように、彼の舌で荒々しく口内を蹂躙される感覚が狂おしい。
 空いた手で乳房をこねながら、楔の先端で最奥をさらに押し広げるように腰を使われたとき、とうとう極みが来た。
「! あ、あぁんッ……あ、はぁ……!」
 あまりに突然のことで、こらえられなかった。口づけの合間に切なく鳴いてしまう。
 頭の中が真っ白になって、びくりと腰が跳ね、内股が激しく痙攣する。ひどくはしたない反応だと思うのに身体が抑えられないのが怖くて、助けを求めるように輝夜はリオンの背にしがみついた。いきおい彼に腰を押しつける格好になるが、恥らう余裕などない。

「……ッ……!」
 耳のそばで、リオンが息を詰める音がする。
 引きしぼった矢が放たれるのに似て、熱いほとばしりが輝夜の胎内ではじけた。飛沫が一番奥に放たれる、その感覚さえ狂おしい。感度を高められた内壁は、火傷しそうな奔流で満たされる感覚にさえ悦んでしまう。
 輝夜はあまりの混乱に、リオンの腕の中で震えながら、はらはらと涙を流した。




 ……荒々しい呼吸が重なる音だけが、暗く熱い空間をしばらく支配していた。
 リオンの重みと温もりの中で、彼が放った熱がじわじわと、さらに深い場所にまでしみこむのを感じる。輝夜は大きく胸を上下させながら、茫然と瞬きを繰り返した。
(終わった……の?)
 気が狂いそうなほどの嵐は去ったし、秘められた場所の痙攣はおさまりつつある。
 だが、まだ身体のあちこちに気だるい甘さがくすぶっていて……奇妙に落ち着かない。

 ようやく夜の波の音が耳に入るようになった頃、輝夜はおずおずと視線を上げた。
 彼女を見ていたリオンと目が合うと、彼は妙に決まり悪げに目を伏せた。
「……ごめんな」
 何に対しての謝罪だろう、と輝夜は戸惑う。
 身体を奪ったこと?
 兄を思い出すなと命じたこと?
 輝夜の哀願を無視して、激しい交わりを強要したこと?
 それとも……何?
 あまりにいろいろなことをされすぎたせいで、ぴんとこない。
 戸惑う彼女の頭を慈しむように撫ぜると、リオンはそれとなく話を変えた。

「ひとつだけ確かめてもいいか」
「……何をですか?」
「……痛いだけじゃなかっただろ?」
 快楽を感じていただろうと暗に確認されているのはわかるが、輝夜にはとてもうなずけなかった。しかし顔を真っ赤にして目をそらすという反応そのものが、リオンの指摘を認めているのと同じだということを、こうした機微に疎い輝夜は気づけなくて。

(ったく……可愛すぎるだろ)
 リオンは口には出さずに思い、自分の中で再び欲情の火が疼きだしたのを感じる。
 貪り尽くしたという言葉がふさわしい行為を、日没前までは口づけもろくに知らなかった彼女に強いたはずなのに、魂を突き動かす飢えがおさまった気がまるでしない。少女を手に入れた気もせず、逆に「足りない」とすら感じているのはなぜだろう……?
 少し考えたが――自分を不思議そうに見つめる少女の瞳の奥にも、自分と同じ熾火のような情欲の名残りを見つけたら、後で考えればいいとしか思えなくなった。

「輝夜。……悪いけど、もう少しだけ俺に付き合えるか?」
 熱いささやきに、輝夜が「え?」とびくついたときには、男の腕が再び背に回っている。腰の下に枕を置かれるが、彼女がその意味を察するのは少し後のことで。
 動いた拍子に、かろうじて腕に絡んでいた白小袖が桃の皮でも剥くようにするりと抜け落ちたせいで、輝夜はとうとう一糸まとわぬ姿にされてしまう。
 だが輝夜はそのことに恥らうよりも、リオンと結び合わされたままだった胎内で、彼の楔が再び熱さと硬さを取り戻していくのに気をとられていた。狭隘を押し広げられる感覚の再来に、うろたえてリオンを見上げると――
「おまえが可愛すぎて、一回だけじゃ止まれそうにない」
 金髪の海賊は、決まり悪そうに微笑んだ。  だめか? と甘えるように問われた輝夜は、陵辱されていることを一瞬忘れ、年上の男に妙な可愛さを感じてしまう。もちろんすぐに我に返ったが……気の迷いにも、程がある。

 男の求めに、輝夜は大きくため息をついた。
 貞操を穢され、夫でもない男の子種まで受け入れるという罪を犯してしまったことで、もう、抵抗する意味を見失っている。

「わたしは……もう、あなたのものなのでしょう?」
 好きにすればいい、と突き放すように答えるが、物好きな海賊は怒るでもない。ただ、少し寂しそうに笑いながら、何度目かの口づけを仕掛けてくる。
 自分で許した以上は拒めず、輝夜は観念して唇を開いた。
 互いの口内の蜜を交換するかの如き激しさで舌を絡める口づけとともに、乱れた黒髪にはリオンの指がさしこまれ、狂おしくかき乱される。
 全部俺のものだとでも言うかのような、熱っぽい仕草。

(どうしてこの人は……こんな――)
 陶然とした感覚に襲われる輝夜の中で、リオンの楔がじりじりと動きを再開しだした。
 枕を敷いたお陰で腰を浮かせられる不安感とつらさが緩和され、先刻よりも快楽に意識が集中しやすくなっていることに、輝夜は程なくして気づく。それが気遣いなのか、単に彼が愉しみやすいようにしただけなのかはわからないが……。
 ――おまえが欲しい。
 その言葉の熱を、いやというほど思い知らされる予感がした。



2010.09.01 up.

 目次 

Designed by TENKIYA