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 痛みや恥辱を越えて――不思議としか言いようのない気分に、輝夜は支配されていた。
 欲望の芯をのみこまされた部分は溶けそうなほど熱くて、二人とも同じくらい激しく脈打っていて。
 どこまでが女の自分でどこからが男の肉体なのか判断がつかなくなるほどの一体感が、熱とともに全身にしみこんでくる。自分となんの共通点もないはずの異国の男と、今まで経験したこともない一体感で結ばれていることが、ひたすらに不思議だった。

「……輝夜。動いてみてもいいか?」
 うかがうようにささやかれ、靄のかかった物思いの淵から引き上げられる。
「なるべくゆっくり、痛くないようにするから。な?」
 正直「少し」で止まれそうな状態ではないが、リオンは少女のために抑制するつもりではいた。
 それが伝わったのか、輝夜は不安げに瞳を揺らしながらも、こくんとうなずいてくれる。そのいたいけな表情に、リオンはまたしても罪悪感と欲望を同時に煽られた。

 すぐにぐちゃぐちゃにしてしまいたい衝動をねじ伏せて、息も絶え絶えな彼女にこれ以上の苦痛を与えないよう、リオンはゆっくりと腰を引いた。男の存在感を教えられたばかりの内壁を逆撫でされた少女は、びくびくと痛々しげに身を震わせる。
「ッ……あ、んん――」
 とりたてて豊かではないが男を魅了するには十分な大きさの胸が、彼女の身悶えを反映して、ふるふると震えた。
 輝夜の強張りが少しでもやわらぐよう、その愛らしい乳房や鎖骨の上を甘噛みしながら、リオンは抜け落ちる寸前まで引いた腰を再び押し進める。
 張りつめた楔は、破華のときよりはやわらかに、少女の狭い胎内に迎え入れられた。濡れた媚肉の襞のひとつひとつに、痛いほど強く絡みつかれる感覚がたまらない。
 そうして再び深奥までたどりついた瞬間、リオンの首に急に何かが巻きついてきた。
 少女の細い腕だった。
 驚いて顔を上げれば、涙のたまった大きな瞳と出逢う。

「あ……ご、ごめんなさいッ」
 リオンの顔を見て初めて、輝夜は自分が縋りついているのに気づいたらしい。
 はっとして身を離そうとする彼女の腕を慌てて捕まえたリオンは、謝罪の言葉を紡ぐ小さな唇を自らのそれでふさいだ。密着した胸から伝わる鼓動は、リオンと同じくらい速い。
 動揺した少女と、ある意味ではそれ以上に動揺している自分を、長く深い口づけでなだめすかす。
 腕の中の輝夜が落ち着くのを待ってキスをほどくと、リオンはできるだけやさしい声でささやいた。
「輝夜、いいか? ……こういうときはな、しがみつきたくなったら、遠慮せずに俺にしがみつけ。なんなら爪を立てても、咬みついてもいい」

 咬みつく――?
 輝夜は男の過激な言葉に驚き、何度も瞬きをした。
「でも……そんなことをしたら、あなたが痛いんじゃ」
「そのくらい構うかよ。……俺のほうが、おまえにつらい想いをさせてるんだし」
 気遣う声の響きに、今まさに彼に貫かれている部分を意識させられて、輝夜は恥ずかしさにまつげを伏せる。
「悪かった。結局、痛くしちまって」
「それ……は」
 破華は確かに身を裂かれるように痛かった。今も、内側から壊れてしまいそうな圧迫感がつながった場所からじくじくと感覚を犯し、輝夜の下肢全体を支配している。
 ――なのに、輝夜はうなずくのをためらった。
 彼女の苦痛を予想し、それを和らげるためにリオンが献身的とも言える愛撫をほどこしてくれたことを知っているせいで。
 陵辱されているのだから感謝などしたくない。だが、輝夜を欲望のはけ口にしたいだけなら、リオンはもっと手荒に彼女を蹂躙することだってできたのだ。
 そうせず、ずっとやさしかった彼をなじる言葉は、どうしても口にできなくて。

「でも……だんだん、痛くなくなってきた気もします」
「……本当か?」
 確かめるように、リオンが輝夜の赤く染まった顔を見つめたまま、ゆっくりと動く。
 濡れた花びらを絡みつかせながら、リオンの楔がじわりと肉の狭隘から抜けていく。それで輝夜がほっと息をつけば、熱く硬いものはまたすぐに胎内を一杯にする。
 単調なようでいて微妙にリズムの違う抜き差しの間に、リオンの手は輝夜の肌をいとおしみ、唇は何度もやさしい口づけを落としてきた。その穏やかな愛撫が、破華の衝撃でいったん消えていた恍惚感を復活させ、再び輝夜の身体をあぶりはじめる。

 苦痛から逃れたくて、輝夜は自然と、肉体を蕩けさせる感覚を追っていた。
 熱を帯びたリオンのまなざしに、どうしてか、秘めた部分がきゅっとひくついて。
 このまま与えられる感覚に酔ってしまいたい、と……そんなふうに思ってしまう。
「あ……ん、ふぁ……」
 そのとき、涙でぼやけた視界の隅に、船外の景色をまるく切りとる舷窓を見つけた。
 窓の向こうには、完全に夜の帳が下りている。水平線の上で白く輝く月が目を射た。



2010.09.01 up.

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