目次 




「大丈夫だ、力を抜けって。……痛くはないだろ?」
 輝夜はみっともなく呼吸を乱しながらうなずいた。熱いぬかるみの浅瀬でリオンの指が複雑な動きをするのに、いやでも全神経が集中してしまう。ただでさえ敏感な花びらはさらなる火照りを帯び、恥丘の裏側にもねっとりとした熱が溜まった。
「……は、ぁ……んッ、だめ……!」
 輝夜の胎内は熱く蕩けて、自らリオンの指先に絡まり、蜜と気の遠くなるような喜悦を生みつづけた。リオンの指先は輝夜の中に痛めない程度にもぐりこんでは抜け出し、花びらやその上で息づく花芯に、内壁からかき出した蜜を塗りたくっていく。
 それでますます指の動きがなめらかになり、未開の花園を散々に辱められる輝夜は、男の腕に爪を立てながら切ない悲鳴を上げるしかなくなった。

「……そろそろか?」
 意味ありげに呟いた直後に、リオンが手の動きを激しくした。中指を浅く埋めこんだまま、残りの指と手のひら全体で秘所をくまなく蹂躙する愛撫は刺激的すぎた。これまでに倍する強烈な刺激に襲われた輝夜は、喉を引きつらせ、ぬばたまの黒髪を振り乱す。
「あぁ……! や、だ、抜いて……」
「痛いか……?」
「痛いんじゃない、ですけど……と、とにかくだめです、いや、あぁあ……!」
 もう、意味のある言葉がつむげない。絶えず潤みを生む内壁、花芯、花びら。感じる部分を同時にぐじゅぐじゅと蹂躙されて、意識があっという間に白熱した。下腹を起点として身体が痙攣し、反ったつま先は敷布を狂おしくかき乱す。
 乳房を執拗になぶられたときと同じ――否、それを上回る強烈な感覚だった。
 高みを味わわされたせいで消耗した輝夜は、頬に貼りついた黒髪を払う力もなく、ぐったりと男に身体をあずけた。
 リオンが黒髪をさわさわと撫でる手つきにすら、肌が震えてしまうのが恥ずかしい。

 荒んだ呼吸を繰り返し、もはや素肌を隠す気力すら残っていない輝夜の上で、リオンが自分の衣服を手早く脱ぎ去っていく。
 輝夜はそれを、潤んだ瞳で見上げた。
 古傷があちこちについた海の男らしい肉体の威圧感よりも、自分の無防備な身体にそそがれる、リオンの視線の熱のほうが恐ろしいと感じる。
 輝夜の手にリオンの手が重ねられ、心強くさせるように、ぎゅっと握られた。
 ああ来るんだと、具体的に何が来るのかはわからないなりに輝夜は感じとる。
「輝夜」
 名を呼び、改めてのしかかってきたリオンを、輝夜は不思議な気持ちで見上げた。
 ――この人が、わたしに初めてふれた男。初めてわたしを求めた男。
 今日初めて逢った男に裸に剥かれ、誰にもふれられたことのない場所を好き勝手に蹂躙されているというのに、今心を占めているのは嫌悪感でも憎しみでもない。それが不思議だった。言葉を失っていると、汗ばんだ額にリオンの唇がやさしく押しつけられた。

「……ごめんな」
 少し切なそうに言われて、はっとした刹那――それが来た。
 腰を引き寄せられて、蕩けきった秘所に、熱いものの先端がそえられた。
 と輝夜が気づいた直後、潤んだ花びらの奥にずくりと入りこまれる。そこは十分すぎるほど濡れそぼっていて、彼女の激しい動揺をよそに、素直に口をあけてリオンを迎え入れてしまう。
 熱く硬い男の欲望に貫かれ、薄紅色をした淫らな花はゆるやかにほころんでいった。
「あぅ……いやッ……」
 身体を内側からぐいぐいと押し広げられるという、初めての感覚が混乱を呼び、輝夜は哀願じみたあえぎをもらした。やがて突然裂けるような痛みが走ったと思ったら、息もできなくなるほどの圧迫感と異物感の嵐が指先にまで突き抜けた。
「……ッ……ひぅ……!?」
 処女の穢れを払われるというのは、こんなにつらいことだったのか。血を、輝夜は意識した。今の脳天まで突き抜けるような痛みはきっと、血の流れる痛みだ……。

 痛みとともに全身に響く男の存在感に、輝夜はあっけなく心を乱される。
(ど……どこまで入ってくるの?)
 リオンの愛撫で丹念にやわらげられた狭隘をじわじわとこじ開けながら、灼けるような熱を帯びた硬いものが、確かな意思をもって輝夜を貫いていく。支配していく。
 ぎゅっと閉じた目の端からは切ない涙の雫が伝い落ちた。
 その間にも、閉ざされていた場所は濡れた音とともに割り開かれ、感覚という感覚がリオンに集中してしまう。
「ッ、だめ……も、むり、はいらない……」
「――輝夜。もう少し……深く呼吸できないか?」
 乱れた思考回路に、諭すような声が忍び入る。
 もうろうとしながらも言うとおりにすると、異物の侵入で張り詰めていた身体がわずかにほどけ、痛みが少しマシになった。

「そうだ、それでいい。……ちょっとだけ、こらえてくれよ」
 懸命に深呼吸を繰り返す少女を、何度もキスを落としてあやしながら、リオンはできるだけゆっくりと身体を進めた。初めて男を迎える場所はやはり狭く硬く、深みに向かうにつれて、華奢な肢体に無理を強いていることを痛感させられる。
 無我夢中で食い締められれば快楽よりも痛みが勝るが、つらいのはそれよりも、彼の下で必死に呼吸を繰り返す少女の表情だ。

「んッ……や、痛ぃ……まって……抜いて」
 冷めた印象のある淡い無表情や、リオンを魅了した微笑みとはかけ離れた――ふれただけで崩れ落ちそうな泣き顔がそこにある。
 藍色をした大きな瞳はリオンが無理やり引きずり出した官能と、それをかき消すほどの痛みで潤んでいて、儚い表情には、戸惑いや恐れがないまぜになっていた。
 胸を刺す痛々しさ。
 なのにリオンの身体は、罪悪感を越えて、欲情と支配欲で燃え立ってしまっている。どうしようもなく獣になっていて――引き返せない。
「輝夜……もう少しだから、な?」
 許しを乞うように少女の名を繰り返しながら、彼女をしっかりと抱きしめて、リオンはもっとも深い場所にまで彼の熱の形を教えこませた。

 好きでもない男に純潔を穢される残酷な痛みに襲われながらも、リオンの言葉に従って彼を根元まで迎え入れた輝夜は、やがて、押し広げられる動きが止まったことに気づいたらしい。こわごわと視線をさまよわせはじめる。
「俺が入ったの……わかるか?」
 なだめるつもりで発した言葉のひどさに気づき、リオンは後悔で表情をゆがめる。
 だが幸いなことに輝夜は、彼の言葉に傷ついた様子もなく、ただ茫然とリオンを見上げていた。苦痛のあまり意識が飛んでいるのかと心配になるが、そうではないらしい。

「どうした? 気分が悪いのか」
 本当に心配そうな言葉に、いえ……と弁明しかけたものの、胸の内をなんと表現したらいいか迷ってしまい、輝夜は口ごもった。



2010.09.01 up.

 目次 

Designed by TENKIYA