「輝夜」
石のようになった輝夜をなだめるように、リオンは彼女の両頬を手で包んだ。
「ひとつだけ先に謝っておく。――ここからは、途中でやめてやれる自信はない」
うろたえるよりも、リオンが顔を寄せてくるほうが早い。
まずはこうするんだ、と教えるみたいに唇をついばまれ、輝夜は焦って目を閉じた。
初めて味わう男のひとの唇は、予想以上にやわらかく、そして温かかった。
慣れないせいで違和感はあるけれど、リオンの行為がひどく自然で風のようにやさしいせいか、これから陵辱されるはずなのに、予想していたほど嫌悪感がふくらまない。逆に妙な感慨さえ抱いてしまう。
(口づけって、こういうものなのか……)
同じ年頃の少女たちが、好きな人としたのしないのと黄色い声ではしゃいでいたことを思い出し、ふと複雑な気分に陥る。
(……もし、好きな人としていたら、どんな気分だったんだろう?)
わたしの初めては、恋してもいない相手になったけれど、と自虐的に思う。
その間にもリオンは、二度、三度と角度を変えて輝夜の唇を奪っていった。そうしながら頬や首筋を撫ぜる彼の手や、頬をかすめる金髪がくすぐったい。
身じろいだ拍子に瞼を開けると、思いがけないほど近い距離でリオンと視線が絡んで、どきりとした。
双色の瞳に宿る、生々しいような底光りに、輝夜は思わず息をのむ。
男の人にこんなに一途な目で見つめられたことがないから、どう反応すればいいかわからなくて、ただ身を硬くするしかなかった。
「……ここまでは平気か? 輝夜」
ややあって、吐息のまじりあう距離から気遣いがちに訊ねられ、輝夜は返答に迷った。
正直――とてもではないが、平気とは言えない。唇を重ねられるたびに、身が縮む。
けれど、耐え切れないほどつらいとは感じずに済んでいたし、だめだと言ったところで逃げられるとも思えなかったので首肯すると、リオンはこんなことを言いだした。
「それじゃ、ちょっと口を開けろ」
「口……?」
戸惑いながら従うと、リオンは口づけのついでみたいにさりげなく、輝夜の口内に舌を忍びこませてきた。
自分とは熱さも厚みも違う舌に、濡れた粘膜を執拗になぶられて、輝夜は身を硬くする。
(どうしてこの人、こんなに舌が動くの……ッ?)
輝夜の口内のあらゆる箇所が、リオンの巧みに動く舌に嬲られてゆく。
最初は違和感しかなかったはずが、次第にほのかに甘い刺激を感じるようになるのが不思議だった。息が苦しくなって身悶えしても許されない。
じわじわと力を奪われ、ようやく唇が解放されたとき、輝夜は濡れた吐息と一緒にかすれたあえぎがこぼれるのを抑えられなかった。
(……なに、これ)
輝夜が戸惑いながらも、とりあえず嫌悪感や拒絶を示さないのを確かめると、リオンは今度はわざと音を立てて口づけるようになった。ちゅ、という水音が繰り返し耳をうつ。なぜかはわからないが、その音が妙にいやらしいものに思えて、輝夜は頬を火照らせた。
「ん……ふぁ……」
――組み敷いた少女が聞かせる切れ切れのあえぎは、リオンをひどく煽った。
こらえきれずに声が出てしまった、というのが手にとるように伝わるから、余計に昂奮させられる。仕草や反応のひとつひとつが素朴で、儚げで、いとおしい。唇を重ねただけでこんなに強烈な切なさを味わうなんて、生まれて初めてのことだ。
(かなりヤバい……な)
輝夜はどこもかしこも、リオンが今まで抱いてきた女性の誰よりも小さくて華奢だ。
ともすれば子供を相手にしている気にさえなりそうだが、リオンが今彼女に抱いているのは、およそ子供に対しては持ちえない暗い情念である。
――どんなやり方でもいいから手に入れたい。すべてを俺だけのものにして、誰にもふれられないようにしたい。彼女の目に、他の男など目に入らないようにしたい。
濡れた瞳に煽られるまま、リオンがするりと白い衣の襟元から手をすべりこませて素肌を撫でれば、輝夜は怯えた様子で身を縮めた。
なだめるように繊細なキスを繰り返しながら、リオンは硬さの残る乳房を探りあてる。
軽く力をこめて乳房を手で包むと、輝夜が今度はびくりと大きく震えた。
手のひらから伝わるのは、男にとってはたまらない温もりと、吸いつくような感覚。少女が懸命に押し隠そうとしている動揺と緊張が、乱れた鼓動という形でまざまざと伝わってくる。
衣の前をすっかりはだけさせれば、初雪の降りた丘を思わせるふくらみが現れた。女の胸などこれまでに何度も見てきたはずなのに、異常なほど気分が高まるのを感じる。
綺麗だ、と、まるで初めて女の肌を見た少年のような心地になった。
「――あ、あの……そんな、じっと見ないでください」
視線が素肌に突き刺さる感覚が怖くなって、輝夜がおずおずと訴えると、金髪の海賊ははっとしたように顔を上げ、それから不思議そうに眉をひそめた。
「どうして――って、ああ、恥ずかしいのか」
「それもありますけど……わたしのは、その、あまり――」
堂々と見せられるほど豊かではないから、まじまじと観察されると……困る。
恥をこらえて告白したのに、リオンには、なんだそんなことかと苦笑されてしまった。
大きな手に黒髪ごと頭を可愛がるように撫ぜられ、こんなに妖しい状態なのに、輝夜は小さな子供になったみたいな気分を味わう。
「そんなこと言うなよ。おまえのは可愛すぎるくらい可愛いから、安心しろ」
「か、可愛い?」
蹂躙するのに罪悪感を抱くと同時に、欲情を煽られる可愛さだ――というのがリオンの正直な感慨だったが、少女はうろたえたように顔をそむけてしまった。目元がぽうっと赤くなっているのがまた可愛くて、リオンは誘われるまま、そこに唇を押し当てる。
「本当だ。おまえほど可愛い女は、どこの海域にもいない」
輝夜の反応は、今度は微妙だった。
恥ずかしがるというよりは居心地が悪そうで、とリオンは一瞬首をかしげるが、
(……ああ、そうか。自分を犯そうとしてる男に褒められたって困るだけだよな)
すぐに彼女の気持ちに思い当たって、自虐的な嘆息をこぼした。
心の中で詫びながら、愛らしいふくらみに再び手をかける。素肌にふれたことで熱情が加速していて、少女の迷いや怯えを感じていても、先に進まずにはおれなかった。