「あなたが汚れてもいいのなら――その条件を、お受けします」
「俺が汚れる……?」
本気でわけがわからないという顔をした異国の海賊に、輝夜は羞恥をこらえて説明しなくてはいけなかった。
輝夜の国では、処女の血は穢れていて不吉だ、処女は面倒だと言われる。嫁入り前に処女の血を払って――違う男に抱かれてから、夫に嫁ぐ慣習が残る地域さえある。処女の血に花婿がふれると、花嫁が子供を孕めなくなるという言い伝えが残っているのだという。
そんな身体でもいいのかと、輝夜としては試す気持ちで告げたのだが、予想に反して、リオンはたじろぎもしなかった。
代わりに少し考えた後で、不意に輝夜の顎をつまんで上を向かせる。色違いの瞳には真摯な光が灯っていて、輝夜は思わずどきりとした。
「おまえもいずれ母国に帰ったら、嫁入りする前にそういうことをするのか?」
「……かも、しれません」
想像もしてこなかったことだから、返事が曖昧になる。
隠し巫女という地位にありながら、自分が女だと意識することを、輝夜は心の奥で拒絶していたような気がする。
女では、兄の役に立てないから。――役に、立てなかったから。
追憶に沈みかけた輝夜を引き戻したのは、リオンの探るような語りかけだった。
「だったら――その穢れとやらを払う役が俺になっても、別にいいんじゃないか?」
「え……」
こちらを見下ろすリオンの表情は奇妙に穏やかで、そう思っておけ、と静かに言い聞かせるかのようだ。そう思っていれば、おまえも楽になるぞと。
輝夜は従順に考えてみた。
乙女の穢れを流してもらうのだと思えば。
いずれ誰かにされることが、少し早まって、相手がこの海賊になっただけだと割り切れば、楽に受け容れられる……?
(……ッ、だ……だめだ)
最初に身体を奪われるのが――素肌をさらす相手が、異国の、しかも今日初めて出会った男だということへの抵抗感と恐怖は、どうしても心から引き剥がせそうになかった。
けれど初対面の男にそんな弱さを見せたくなくて、輝夜は顔をそむけると、最後の意地で、突っぱねるような言い方をした。
「……わかりました。あなたの言うとおりにします」
震えを必死で抑えすぎて平坦になった声で、どうにか告げる。
「ですから、どうか――約束だけは、守ってください」
リオンは少しの間、難しい顔をしていたが、やがて「……いいだろう」と荒々しいため息をついてうなずいた。
取引を持ちかけたのは彼のほうなのに、妙に気の進まなさそうな声音に聞こえたことに、輝夜は内心戸惑う。
おずおずと目線を上げた瞬間、大きな手で肩をつかまれた。
そのまま寝台に押し倒されて、覚悟を決めたはずなのに、あっけなく鼓動が乱れる。