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「うお〜東方人? 東方人?」
「男すか女すか?」
「というか生きてるんですかー」
「いっぺんに喋るんじゃねえ野郎ども!」
 漂流者を肩に担いで甲板に上がった途端、船員たちに野次馬根性まるだしの集中砲火を浴びせられたので、リオンは開口一番そう叫んでおいた。こうでもしないと、遠慮を知らない船員たちはいつまでだって騒ぎつづける。
とはいえ、リオンは地位に伴う威厳を振りかざすだけで片付ける船長ではない。

「――だが、御苦労だった。樽やロープを回収したら仕事に戻っていい。この漂流者のことは、あとでまとめて説明する。いいな?」
「そうゆうことなら、あいよ〜船長」
「おいっす!」
「アイ・キャプテン!」
 きっちり威儀を正して告げれば、船員たちは素直に秩序を取り戻して、それぞれの持ち場に散っていった。

 落ち着いたところで、リオンは斜め後ろに控えていた黒髪のランディを流し見る。
「後を任せていいか」
「わかっとる。さ、急いで手当てしてやんな」
 つんと釣竿で肩をつつかれた。
 余計な詮索をしない主義の補佐役で、正直助かる。

 人工呼吸の必要がない程度には息のしっかりしている漂流者を抱え、下層甲板に降りたリオンは、狭い通路の途中でふと違和感を覚えた。何かが妙だと思った。しかしその正体がわかる前に、医務室にたどりついた。
「おい先生――って、いねえのか」

 船医は、隔離かくり用の病室――風邪などの感染の可能性がある病人を押しこめておく船室に様子見にでも行っているのか、医務室は無人だった。殺風景に感じるほど整理整頓が行き届いた部屋に、呼びかけた声が虚しく響く。
(こいつはここに置いて、先生を探しに――いや)
 思い直し、リオンは船長室へときびすを返した。船長室のほうが機密が保てる。




 リオンの性格を反映して、船長室は雑然としていた。
 扉に鍵を下ろす。
 念を入れて二つ。
 今朝洗いたてのものに替えたばかりのシーツを汚すのはやや不本意だったが、潔くあきらめて、漂流者をベッドに横たえる。
 その拍子に黒髪がさらりと流れ、初めて漂流者の顔をまともに拝むことになった。

 細い雨で紅くうちしおれた花のように可憐な美貌に、目を奪われる。
 東方人を見たのは初めてではないし、彼らの西方人とは異なるおもむきの美しさも知ってはいたのだが、この漂流者の繊細な美しさは白眉はくびだった。海中から稀少な黒真珠を拾い上げたような気分になる。
 そして、つと視線を下にずらせば、白い衣を重ねた胸元はほんのりふくらんでいた。

(やっぱり女だったか)
 自分より十は年下に見えるのが残念だけどな、と不埒ふらちな冗談を頭に浮かべ、そんなことを言ってる場合かと自分で突っ込んでおく。そういう下心で拾ったわけではないのだ。
 とりあえず、自分も彼女も着替えねば――と思ったところで、リオンは先刻の違和感の正体に気づいた。

「って……嘘だろ?」



2010.09.01 up.

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