ジェリィビィンズ*スウィーパー 
       
       
               レディ〜ス&ジェントルメ〜ン!! 
                                   ご機嫌いかが?   ナア〜イス・ミィ・チュゥ〜!! 
       
       
       
      緑とピンクと金ぴかラメの、三角帽子のご機嫌野郎がドカァッとドアを蹴飛ばし乱入。 すかさず鳴らすクラッカー2発、紙吹雪の中ハートのメガネ、バニラがにっこり口上述べる。 こざっぱりしたダイニングには、表情無くした親子が三人。 テーブルの上にチキンとポテト、小洒落たサラダに大きなケーキ。 冷えたシャンパン、弾けて零れた。 
       
      おやま、お嬢ちゃんハピバスデイ?  
       
      俺はひらひらワンピの娘に極上スマイル、王子の如くに膝曲げお辞儀。 抱き上げ声無き、くちびる薔薇色、接吻するのは王子の嗜み。  
       
      オヤスミ、可愛い眠り姫。 
       
      そっと左の手袋外し、小さな頭にそぉっと触れた。  
      次に目覚めて、みぃんな忘れて、どっかで多分、幸せに!! 
       
       
       
      『それでは奥様、ダンスは如何?』 
       
      バニラが若くて美人のママの、腰を引き寄せ優雅にターン。 既に左手、手袋外し、ママのブロンド、バニラが触れる。 なんだよ畜生、また俺がパパ? バニラとママのキスシーン横目、棒立ちのパパにウィンク一つ、 
      良く見りゃ結構好みのタイプ、たくましい首に腕を巻きつけ 
       
      『失礼、ミスター』 
       
      舌を絡める。 
      男の瞳がゆっくり瞬き、次第に其れは夢見る虚ろ。 
       
       
      僕らのキスは混沌を誘い、僕らの左手、記憶を盗む。 
       
       
      最早、眠れる親子が3人。  
      バニラが硝子の小壜を取り出し、極彩色の中身を取り出す。 それは一見ジェリィビィンズ。 ポップでキュートでスウィートな菓子。 バニラはママに、俺はパパに、それぞれ一つを指先で摘み、夢見る二人の口腔に入れた。 ゆっくり蕩けるその頃迄に、二人は生ける屍となる。  
      夢見たままで、虚無の世界で回収人を漂って待つ。 
       
       
       
      『なぁ、なぁ、ショコラ。 これって美味いか?』 
       
      バニラが小壜を、青空に透かす。 安っぽくって、魅惑の彩色。 
       
      『てめぇで試せよ、知るモンか』 
       
       
       
      豪快、斜めに路肩に停めた、マリンブルーのキャデラック。  
      黒のスーツにパーティーグッズの、バニラと俺の可愛い愛車。 エンジン唸れば瞬時に光る、水草色のナビ画面。 画面右上、お次のナンバー、今度は一人か? まぁ楽そうだ。 俺達二人の左の手袋、手首に接続二本のコード。 コードの先は小箱に繋がり、さっきの二人のデータを保存。 
       
       
      難しいこた、わかんねぇけど、気付けば俺たち、これが生業。  
       
       
      たいしたモンだろ、公務員だぜ。 色々あったし世界も変わった、今じゃぁ人類、二十歳を超えれば回収対象、ランダムに弾く登録ナンバー、身体もオツムも余す事無く、何やら色々有効利用。 そこで役立つ俺らの能力、けどもそれすら、科学の産物。 気付けばこうだ、こうなっていた、俺がショコラでアイツがバニラ、ふざけた名前も貰ってた。 
       
       
       
      『くらくらしやがる、脳みそ痒い!』 
       
       
      バニラが手首のコードを外す。 パパのデータはママより長くて、俺はも少しかかりそう。 データ保存で流しの作業、そん時、兎に角、クラクラしやがる、もしやちょっぴり俺のデータも、流れてるのかと密かに疑う。 そんで何故だか終わった後に、頭の中がむずむず痒い。  
      痒くて疼いて、その内それって、欲情するのと似た感じ。 
       
       
      漸く終わってコードを引き抜き、斜めに停車のキャデラックの中、俺とバニラは暫し縺れる。 それはいわゆる習慣みたいで、一仕事したら、互いを貪る。 でないとどうにも、身体が溶けそう!
      バニラの身体は蕩けて甘くて、俺は捩れてむず痒い脳を、強烈な刺激、快楽で満たす。 多分それは、バニラも同じ。  
       
      俺たち二人はヤルのも好きだし、ヤラれて締めつけ擦れるのも好き。  
      快感、それは確かな真実。 
       
       
       
      『ショコラ、俺達、ずっとこうかな?』 
       
      バニラが呟く。 彷徨う指が、俺の背骨をまどろこしく這う。  
      捲くれ上がったシャツ、狭間で波打つ魚みたいな白い腹。 
       
      『さぁどうだろう、他に俺達、何出来るだろ?』 
       
      絡まるバニラの足を支えて、狭い車内で揺すり上げる俺。  
      チカチカしている眼球の裏に、光に透かしたジェリィビィンズ。  
       
       
       
      そもそも俺達どっから生まれて、どうして生きたか、時間の流れも記憶も無いし、そう云う風に創られ生まれた、そう云うもんだと諦めている。  
       
      最初の記憶は、白衣のジジイ。  
      俺とバニラは、二人でキオツケ 『役目を果たせ』 とジジイに言われた。  
      ふざけた名前もそん時、貰う。 それが始まり、終りはまだ無い。  
       
      終わらないなら、続けるんだろ? 
       
       
       
      閑静な町、玩具みたいな出来すぎの町を、べたつく身体で僕らは進む。  
      マリンブルーのキャデラック走る、ナビに従い、バニラが運転、スリル有り過ぎ激しい蛇行。 緩めたシャツの首筋に赤、悪かぁないなと、余韻を愉しむ。 回収対象、頭にW、末尾がY・・つまり病人、そして男。 
       
       
      『対象、病人、珍しいよな』  余所見運転、バニラのハミング。 
       
      『学者か要人、データ狙いか?』  街路樹越しの、陽射しに眩む。  
       
      厄介かもなと、咥えた煙草を、バニラが取り上げ、かったるそうに紫煙を吐いた。 
       
       
       
      ドールハウスの並びの外れ、なんだか場違い、廃屋もどき。元を正せば豪邸らしいが、凝った造りの門柱、窓枠、絡まる蔦は陰鬱効果でどこから見ても幽霊屋敷。 荒れ果てた庭に咲乱れている、やたら豪華な大輪の薔薇。  
      雑然としてる禍々しい美は、僕らのやる気をミルミル削いでく。 
       
       
       
      『なぁ、ホンと、ここか?』   タイを結びつ、嫌そうなバニラ。 
       
      『ナビが言うなら、ここなんだろう?』 シャボン玉飛ばし、ウンザリの俺。 
       
       
      どうも勢いつかない俺達、これも仕事と屋敷に踏み込む。 蹴飛ばす事せず、そっと押すドア。 すんなり開いて、かえって驚く。 驚いたのは中の荒れ方。  
      人の住んでる気配、無し。 一階部分に部屋は三つ。 綿埃舞う、廃屋モード。  
      俺のシャボンが埃と踊って、足を踏まれてぱちんと消えた。 
       
       
      渋るバニラは、俺を先に行かせ、朽ちた階段昇って二階。  
      一つ目、どうやら書斎の跡で、二つ目の部屋はガランとしてる。 最後に最奥、三つ目の部屋。 ミイラ男が、座して居た。 仰天僕等に、指立てハロゥ!  
       
      男の四肢にはチューブとコード、座ってるようで繋がれている。  
      椅子に似ている、ケアカプセルに。 
       
       
      『来たか、漸く! ほら、持って行け。』 
       
       
      ボイスマシンが、言葉を伝える。  
      男は背後の機械を示し、直接繋げとコードを掴む。  
      屈み、覗き込むバニラを制し、男はカオスの接吻を拒む。 
       
       
      『奴らが要るのは、データ。  それだけ。』 
       
      ボイスマシンが哄笑を放つ。 座する男は無表情のまま。  
       
       
      オレはコードを直接繋ぎ、データの多さにバニラにも繋ぐ。  
      膨大なデータ、思考の奔流、酩酊感にしゃがみ込み、唸る。バニラは激しい頭痛を訴え、床に転がり頭を抱える。 ボイスマシンの哄笑だけが、遥か遠くで鼓膜を震わす。  
       
       
      『 あぁ、お前達に、教えてやろう。  スウィーパー達の始まりは私。 私のデータと遺伝子が元。 いわば私は、父であり母だ。 因果なものだな、螺旋の息子よ。 出会ったその場で親殺しとは。  』 
       
       
      そして混沌、混迷の中で、俺達二人は意識を手放す。 
       
       
      『なぁ、こいつ、なぁ、』  
       
      ふらつく身体を、抱き締めるように、バニラが男の屍を指す。 
       
      『あぁ、多分、な。』 俺は男の歯の無い口に、緑のビィンズ押し込める。 
       
       
       
      変わり果ててはいるけど、こいつは、あの時俺らに、成すべき命じた、ラボのブレイン、白衣のジジイだ。 そんで俺らは、やっぱりそうか。 
       
      予想はしてたが、やっぱマガイモン。  人では在るけど、ヒトデナシ。  
       
       
      『俺ら、こう云う、ジジイになるかな?』  俺はジジイをまじまじ眺める。 
       
      『俺と、お前、似てないのにな。』   バニラは解せない顔して、眺める。 
       
       
      別に躊躇も、戸惑いも無いが、何だかスッキリしねぇ仕事。 キャデラックのでかい座席をフラット、どえらくかかる、データ流し。 頭痛も、痒みも、吐き気も酷い。 実際バニラは二度ほど吐いた。 俺も苦痛に、海老みたいになる。 そして保存が完了して尚、俺たちはそこで惰眠に沈む。  
       
      セックス無しの仕事明けなど、俺達としては初めてだったが、それほどに酷く疲弊を感じた。  
       
       
      身体をゆるゆる起せば既に、傾く陽光、西日が眼を射る。  
      バニラが煙草を怠惰に燻らす。 俺もそいつを一口戴く。  
       
       
      キャデラック唸る、エンジン音が、丁度鼓動と重なり引き摺る。  
      ぼんやり光る水草色に、二つのナンバー並んで待機。  
      頭がFで、終りがY。 頭がFF、終りがY、 
       
      あぁつまり、そう、こいつらゲイのカップルって事。 
       
       
      『最近多いな、カップル回収。』  バニラに尋ねた、声がしゃがれた。  
       
      『足りねぇんじゃねぇ? なんかさ、色々。』  
       
      吐き捨てるよう呟くバニラが、凭れるようにハンドルを斬る。 
       
       
       
      町二つ越えて素敵な黄昏、ライトUPの小洒落た町で、僕らは静かに車を停める。 ヴェネチア風の仮面を着けて、僕らは煉瓦の石段昇る。 物憂いバニラと気だるい俺は、ブラックフォーマル崩れた着こなし、自堕落、有閑、パーティー疲れの絵に描いたような貴族の御子息。 
       
       
      あぁきっと、ここは金持ちどもが、喰ったり飲んだりする店だろうな。  
      俺らにゃ接点無い店だけども、ひらりと翳した左の手袋、それは何処でもフリーパスで、足音のしないバニラの後から煙草を燻らし、俺は続く。 
       
      ヘロウ!ヘロウ! そこのけそこのけ俺らが通る! 
       
      店員も、客も、時間が凍る。  
       
      物憂く、優雅に、目的へ進む、俺達だけが唯一の時間。  
      そして俺は、紫煙を吐き出し、もう二人の為、時間を解凍。 
       
       
       
      『お迎えですよ。 最後に御二人、ワインは如何?』 
       
      初老の男が大きく目を剥き、どうしてなのか? と、声を荒げる。 何やら名のあるオエライらしいが、それは俺らにゃ関係無い事。 俺は震えるジジィの頭を、優しく左の掌で撫でる。 ジジィは開いた口元そのまま、ゆっくり瞳の力を失ってゆき、乙女の如くに接吻を受ける。  
       
       
      『・・・・・ こんな事って、』 
       
      連れの男はまだまだ若いが、諦め、困惑、自嘲の笑みで、自らバニラにその腕を回し絵画の如くに接吻をする。 後ろ頭にバニラの左手、それも幾分官能的に、髪を弄り頭蓋を包む。  
       
       
      崩れ落ちるのを、向き合い座らせ、デートの途中で居眠りする図。  
      俺は、小壜を取り出し摘む。  
       
      二人揃ってピンクの昏睡。 口腔内にちらりと覗く。 
       
       
       
           それでは皆様、ごきげんよう! 
           まだパーティーは、ホンノ序の口!! 素敵な夜を! グッ・ナァ〜〜イッ!! 
       
       
       
      やけに明るくバニラが口上、俺はナイトの会釈を披露。  
       
       
      倒れ込みたい疲労を隠して、俺らは仮面の有り難さを知る。  
      奴ら二人は、イレギュラーだ。 ランダムリストで無い、別口だ。  
      何か動く。 何か起こる。 何かとっても嫌な動きが、二人を通して脳内を跳ねる。 
       
       
      車に戻れば座席に埋もれ、もう動けないと二人で溜息。  
      とても流しは、此処ではもたない。 俺は指先、震えを感じつ、帰らなければとキィをまわす。 バニラ、目を伏せ言葉も発せず、タイを緩めるその指先は、俺と同様幽かに震える。 作業は自宅で眠りながら。そうするより無く、それ程に今日はきつかった。 
       
       
      クラシックなアパルトメント、場違いに派手な車は停まる。  
      御仕事道具、小振りのトランク、バニラが抱えて路上に降り立つ。  
      一足遅れでエンジンを切る、その瞬間に点滅を見た。  
       
      水草色に、ナンバー二つ。  
      オルゴールに似た警告音が、可愛く月夜に、囀り流れる。  
       
       
       
      『夜の仕事は、普通じゃないだろ?』   警告音に、バニラが振り向く。 
       
      『普通じゃないから、夜なんだろう?』   俺はバニラに、ナンバーを示す。 
       
       
      点滅ナンバー、並んで二つ。 頭AA、終りもAA、全く同じのナンバー並ぶ。 
      人であって、ヒトデナシのA。  
       
      なぁ、こんなのはそうそう居ない。 
       
       
       
      『イキナリ、終りか、』 
       
      『始まりも、そう。』 
       
       
      俺は、バニラにオレンジの欠片。 バニラは俺に、緑の欠片。  
       
      口に含んで、キスで伝える。 互いの左手、右手が包み、厄介なソレをつるりと脱がす。融け合うキスは混沌を誘い、互いの思考が互いに流れ、不確かな俺とバニラは確かに、生きて、思考し、何かを感じた。 
      その当たり前を今、漸く知る。 流れ込む、それ。 多分、愛。  
       
       
      確信したよ、俺はバニラを、愛していたんだ。  
      バニラが俺を、愛したように。  
       
      蕩け合うものは愛ばかりでなく、夢心地の中バニラが囁く。 
       
       
      『なぁ、これ、激マズ』    オレンジの色はやたらと甘く、やたらと不味い。 
       
      『最後に、分かって安心したろ?』  
       
      緑のそれはやたらと酸っぱく、やたらと不味い。 
       
       
       
      そして俺たち二人は重なり、イキナリ始まり、イキナリ終わる。  
      色々遣らかし、色々あって、何にも変わらぬ、その夜に消える。  
       
       
      悪かぁないな、この人生。 
       
       
       
       
       
       
      男は義足の片足を折り、重なる二人の左手の手首とナンバリングを確認した後 「此処に繋げ」 と、後ろを振り向き、影のように立つ二人を呼び寄せ、コード片手にボックスを示す。 
       
      キャデラックの中、眠るが如くの青年二人はボックス右に連結される。 
      そして新たな青年二人は、その左手をボックス左の連結盤より、胎児の如くコードで繋がる。 
       
       
       
       
             第一期、 スィーパー終了。 
       
             そして、始まる。 
       
       
       
      『さぁ、始めなさい、お前達。 今日より、お前の名前はショコラ。そしてお前は、バニラがその名。』 
       
       
       
      俺達二人は、ショコラでバニラ。  
       
      今宵、イキナリ、ジジィに言われて、スウィーパーを生業にする。 
       
       
      始まりは今。 終りは、まだ来ず。 
       
      他にはなんにも。  
       
      知りは、しない。 
       
       
       
       
      August 23, 2002 
       
           
           
       
            
      * Sai 様  リク 「POP IS DEAD」  
              可愛い路線を狙ってたのだが・・あれれ? 密かにシリーズ化しようとしてます。  
              『チェリィコーク・・』とかと一連の。 
       
         
        
                        
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