ファンタジスタの人生 《10》 あの頃君はただの犯罪者だったね編
ココで終了ってってこたないだろ? うん、そりゃぁ半端だろう?
バララッと逆行して今、表紙。
ツルリと硬い表紙にはピンクのマッキーで
【ゆう&タツロウ vol.2 トキメキ学園天国編】
…… 編ってのはアレですね、幾つかあるうちの一つってことですよね?
見れば目の前のブックエンドに、同じような背表紙の鍵付きダイアリィが一冊。
表紙には踊るような丸文字大書きの
【ゆう&タツロウ vol.1 嘘っ!これって運命? 編】
嘘ッ!
嘘だと言って欲しいのは俺だよ、小泉。
日記にはやはり鍵が掛かっていた。
がしかし、今さっきまで読んでた色違いの一冊と、その側に放置されたドラクエっぽい鍵。
試しにそれを差し込んでみる。
開いた。
なぁ、量産だからしょうがないっちゃしょうがねぇけども、全部が同じ鍵で開くって、鍵付きならではの秘密保持力に全然期待出来ないっていうかさ、どうなの?
とりあえず、前作に当たる日記を、後ろから読んだ。
ちゃんと繋がっていた。
8月、引越しの辺りからだった。
既に企みの実は熟し、色々の手筈は整った状態のようだった。
* **
8月23日 土曜日
麻生家、引越し開始
* 初日の配役について原と相談 → 岸、伊藤 は、快諾
* 幼児エキストラ六人の選考完了
* 老人役に庭師の桂を起用してはどうか?→本人に打診
* 松方の説得・・移動店舗のレンタルOK
8月18日 月曜日
麻生君の制服姿は、なんて素敵なんだろう! 早く一緒に歩きたい。 友達になりたい。
試験が終ってほっとしたのか、今日はTUTAYAで三本借りていた(ホラー二作、コメディ)。
* 制服採寸。及び各種書類上の手続き完了。
* 詳細なサイズ入手 → トルソーをオーダー
8月17日 日曜日
麻生家、住宅下見。
実のなる木はあるのかと聞いていたとのこと。
実りの早さでいえば桃か栗?
* → 手配可能ならば植樹も
* **
案の定、この頃既に計画は周到に進められていたらしい。
多分もっと、ずっと以前から。
そんな内情が記されているだろう日記のこの先は 当然、【出会う前】 の事だ。
小泉と俺と、直接のエピソードはない。 内容も個人的な覚書のような感じで、一人称も 【ゆう】 から 【自分】 で綴られている。
文字も丸くはない。
インクは緑のままだが二冊目に比べ乙女度の低い、どちらかというと普段の小泉に近い文章だった。
けれど、どこもかしこも俺中心なのは変わらない。
つまり、素でこんなだ。
そして、こっちには写真があった。
いずれも盗撮。
それらの撮影日時や場所は、今なら思い当たるところばかりで、だったら一体誰が? と疑わしい気持ちにならないといえば嘘になる。
何しろ心当たりが大有りなのだから。
だが、俺は。
それでも、俺は。
***
8月15日 金曜日
無事、編入試験通過。 良かった。
学長報告 → 成績はAランクの下もしくはBランクの上。 まずまずだったとのこと。
8月10日 日曜日
麻生君、振られる。
酷いふられかただった。 こちらまで胸が苦しい。 あの女は酷い。
確かに麻生君にも配慮の足りないところはあったかも知れない。 でも、その協調性の無さこそが、彼そのものだと思う。
或いは、あの女の方が麻生に協調出来なかったのだとも言える。
麻生君はもっと、麻生君の事を理解してくれる人と付き合ったほうが良い。
例えば自分のような。
決意も新たに墨を磨った。 麻生君への初めてのメッセージだから、良い加減なものではいけない。
クラゲは気にいって貰えただろうか?
* 『オタク』とは非常に興味深かった。 自分が麻生に感じている事、これ即ち『萌え』かも知れない。
それが成就するならば、理想の恋愛なのだろう。
* ツンデレなるものは、実に素晴らしい。
8月7日 木曜日
朝から彼女と他一組のカップルと、麻生君は海に行く。 麻生君は水泳が上手い。
クロールで沖までを、何往復もしていた。 途中、砂浜に寝そべっていた彼女を首まで埋めて怒られている。
お茶目な麻生君が好きだ。 夕方、そのままどこかに行くのかと思ったら、麻生君だけ抜けて帰った。
彼女は怒っていた。 帰り道、いつものスーパーでガチャポン1回。 クラゲは出なかった様子
原曰く、麻生は 『オタク』 と云うカテゴリーに分類されるのではないかと。
良くも悪くも、それ故に理解され難い面があるのかも知れない。 でも、自分ならば理解出来る。 出切る筈。
何故なら、例えばこうして眺めるだけにしろ、何一つ厭なところが見つからないから。
ただただ、愛しく、好ましいのだから。
* S学園への対応は完了。 麻生の心さえ決まれば即入試可能と。
→ 特典(制服支給、授業料半額免除・・他 各種負担分を口座からの引き落としで)
* 原がネットオークションでクラゲを落としたらしい。 問題はいつ渡すかだ。
* 後学の為 『オタク』について調べる。
8月2日土曜日
着々と進んでいるのに、麻生君の心はまだまだ遠い。
* 隣家の立ち退き快諾 ・・ 早速、業者にリフォーム依頼 二階の二部屋を潰し、八畳・四畳半納戸へ分割
→ 二階洋間八畳・・恐らくこれが麻生の部屋になるだろう ・・ 窓の位置東南寄りに大きく(重要)
* 両親へのアプローチは西園寺に一任 →好条件を提示も転校には麻生本人が難色を示しているらしい 直接訪問も試みると
7月30日 水曜日
ようやく模試終了。 午前中の動きは無しと原より。 午後から見守りに行った。
夕方、男友達数人とカラオケボックスに入る。
白地に真っ赤な達磨のイラストの入ったTシャツ、ゆるめのカーゴにサンダルの麻生君は、髪が寝起きみたいに跳ねてて可愛い。
あんなに可愛い麻生君と強屈な男たちが密室だなんて、中でどうしているか気が気ではなかった。
三時間後、両脇を大柄な友人に抱えられて麻生君が出てきた。 ヘッチャラ〜とか、ご機嫌で唄っている。
そのまま皆と駅前のスーパーへ。
ガチャポン立て続けに七回挑戦。 クラゲ出ず。 あからさまにガッカリした麻生君は、体格の良い茶髪に頭を撫でられていた。
悔しい。 何故、自分では無いのか。 あれが自分だったら。
* 見ているだけでは駄目だ。 よりアグレッシブな計画に一部変更。
* 麻生父の勤務移動は可能か? → 本社サイドの西園寺から打診も
* 製造元は職人気質の頑固者だった。 クラゲの直接入手は断念 → 直ちに別ルートを!
7月21日 月曜日
夏休み到来。 朝から麻生君を待ち伏せ。 だけど、盲点だった。
学校が無いということは、いつものようには家から出ないと言うこと。
半日張り込んだが、麻生君は出て来なかった。 来週から夏期講習が始まり、模試を含め午前中が潰れてしまう。
理事との付き合いとはいえ、あんなもの申し込まなければ良かった。 せっかく麻生君を見守れるチャンスなのに。
*クラゲとは、同シリーズで希少とされている 【エチゼンクラゲ】 の事ではないかと原より。 → その方向で入手を検討
7月16日 水曜日
学校帰りにガチャポンをする麻生君。 悔しそうな顔をしている。
画像がぶれてるのは、急にこっちを見たからだと伊藤は言い訳をしていたが。
* 伊藤からの報告 → 麻生君はガチャポン(アレはそういうらしい)に嵌っている。
クラゲがどうのと呟いているらしいが詳細不明 クラゲも動物にはいるのか?
* 伊藤が勘付かれた? → 念のために当分、伊藤を外す
7月9日 水曜日
彼女と買い物に出掛ける麻生君。 彼女はたくさん買ったが、麻生君は何も買わなかった。 欲がない。
そのかわり、帰り道のスーパーで遊んでいた。 遊ぶというよりは、くじ?
小さな箱にコインを入れ、ランダムに出てくる中の景品を手に入れるらしい。
麻生君は三回やっていた。 出てきたカプセルの中味は動物の模型らしい。
麻生君は、いちいち喜んだりガッカリしたりしていたけど、彼女はつまらなそうに携帯を弄っていた。
自分なら、一緒に楽しめると思う。 喜んだり、ガッカリしたり、笑ったり出来ると思う。
* あの、箱型の玩具について調べる。
7月3日 木曜日
試験期間になり、時間に余裕が出来た。
登校時は原と伊藤に任せるが、下校時は存分に麻生君を眺める事が出来る。 嬉しい。
* **
そうだ、この辺りからなのだ、ストーカーの鏡、第三の男が登場し始めたのは。
そしてその正体見たりというのが、今な訳だが。
当時の俺が感じた通りに、無駄に熱く、一筋で、盲目的で…… あぁなんだ、やっぱそれってまんま小泉じゃないか。
あいつそのままだったじゃないか。
変質者から、トモダチへ。
ありえない変換なのに戸惑っている。
嫌悪感の無さに、戸惑っている。
* **
6月27日 金曜日
麻生君は電車の中、立ったまま眠ってしまったらしく、ガクンとなったところを寸でで支える事ができた。
『ども』 って言われた。
麻生君からの初めての言葉。 眠いのか、いつもより声が掠れてて、いつもより目がトロンとしていたのがドキドキした。
このままずっと、電車が停まらなければいいのに。 ずっと、見ていたいのに。
だけど、もうサボる事は出来ない。 来週なら試験期間だから、せめて帰りだけでも。
* 麻生君の借りたDVD『えびボクサー』観賞 → 荒唐無稽過ぎてよくわからなかった。
だが芸術肌が好むものとは、得てしてそんなものかも知れない。 ならば、『かにゴールキーパー』もこの路線だろうか?
感性を共有出来ないもどかしさ、歯痒さ。 自分もまだまだだ。
6月21日 土曜日
今日も、ここまで来てしまった。 歯止めが効かない自分が恐ろしい。
麻生君は、同級生らしき男子二人と歓談。 一人は『麻生』 と呼び、もう一人は 『タッちゃん』 と呼んでいる。
自分なら、 「麻生君」 だろうな。 その内、もっと親しくなれればもっと……
ふたりとも、やけに麻生君に触るから苛々する。 馴れ馴れしい。
* 麻生の交友関係に不審者は居ないかチェック 愛する人を守る為ならば、手段は選ばない。
6月16日 月曜日
来てしまった。 二時間早く起きて麻生君の通学路線を張り込む。
遅刻は必須だが、生の麻生君を間近で見る事が出来て幸せだ。
麻生君は意外に背が高い。 だけど頭も顔も小さくて白くてほっそりしてるから、どこか儚い感じがする。
そんな麻生君が、こんな混んだ電車で通学するのは心配だ。
すぐに眠ってしまうのも、平気で隣りの男により掛かってしまうのも心配だ。
乗り過ごしてしまったら? 悪さをされてしまったら?
想像するだけで泣きたい。
自分にもっと力があれば、リクライニング及びフットレスト完備の麻生専用車両を作れるのに。
*車内警護強化 女性スタッフの導入も(母親世代の熟年層を主に)
6月12日 木曜日
横断歩道で、お婆さん二人に荷物持ちをさせられてる麻生君。 参ったなぁって顔が可愛い!
麻生君は、お婆ちゃん子だったようだ。
お婆ちゃんのお葬式の時 「燃やしちゃヤだ、連れて帰るんだ!」 って棺桶にしがみ付いて泣いたのだと近所の老人からの情報あり。
優しい麻生君。
六才の麻生君は、天使みたいに可愛かっただろうな。
* 麻生情報、思いのほか近隣老人から多く集まる。
* 初恋は四歳の時、三軒隣りのピアノ教師(藤原某似 既婚・一男一女アリ)。
オヤツのドーナツを差し出し 『幸せになろう』 とプロポーズしたとか。 ・・・自分なら即答でYESだが・・・
5月30日 金曜日
麻生君は友達が多い。
密かに 【TUTAYAのひと】 と言われていて、通学エリア内の学校にはこっそりファンクラブもあるらしい。
一方で変わり者だという評判もきく。 それだからか、女の子とは長続きしないらしい。 酷い。
せっかく麻生君と付き合えたのに、皆は麻生君の良さがわからないのだろうか?
見た目ばかりで付き合うから、麻生君の良さを知る事が出来ないのだと思う。
自分だったら、絶対別れたりしない。 麻生君の中身をきっと好きになる。
今はあんまり知らないけども、でも、そういう自信があるから。
だが、同性からは圧倒的な支持を集めているのが気になる。 そこは用心に越した事はない。
異性の誘惑に靡くのは生き物の本能であるから、例え清廉な麻生くんとて抗い難いものだろう。
断腸の思いだが、自分も納得せざるを得ない。
だが同性のそれは許せない。 連中の邪な妄想からは、何が何でも守らねば。
* 週に1〜2回 TUTAYA、Rが丘店にてDVD1〜2枚レンタル
→ 傾向 ・・ホラー 不条理コメディ 海外ドラマ(24はファーストシーズンのみ。 恋愛ものは苦手な様子)
* TUTAYAスタッフからの情報が、異様に細かいのが気掛かりではある(特に男性スタッフ)
→ 悪い虫は早期排除を!
* 原より電車内に不穏な数人アリとのこと(男・学生風〜40代後半) いざという時の為に次週より伊藤投入。
夏期休暇になれば自分も彼を守れるのに
* 最初の彼女は中2の時、同じ学習塾に通う一学年上の他校の女子
→ 大事なのは最初の恋人であったという事よりも、最後の恋人であると言う事!!
5月21日 水曜日
放課後の麻生君は、女の子とビデオ屋かファーストフードにいるらしい。 彼女?
いないとは思わなかったけれど、実際見聞きするとショック。 だが、原によると女の子は三ヶ月くらいで替わるらしい。
まさか麻生君は、相当なプレイボーイか?
以下 原ファイルより
* 麻生タツロウ 17才 高2 B型 8月18日生 県立Rが丘高校在学中 テニス部(幽霊部員)
* 趣味: DVD観賞・マンガ・ゲーム → 駅前ビッグカメラ、書店ブックスUNO 及び TUTAYA Rが丘店での目撃情報多し。
* AM7:10自宅出発(徒歩) 7:32発JR T線 M島経由乗車(進行方向三両目付近) 7:48 Rが丘着 徒歩にて現地まで
* 週三回(月・水・金 17:30〜20:30 )三ツ谷大原R沢駅前校 国立文系コース
* 身辺警護、及び情報収集(画像関連 )に原を投入 (臨時で伊藤の起用も検討)
* **
そうして、日記は、最後の一ページとなった。
つまり、そもそもの始まりを俺は見る事になる。
*ファンタジスタの人生*10. 第11話に続く