**  a bat in pieces ** 
       
       
       
                           #2.模造公爵夫人イゾルデ.D 
       
       
       
      おやおや、あんたの目玉は蕩けちまいそう!  
       
      ゴミかなんか入ったって? ここが色々澱んでるのは今に始まった事じゃないだろう? 
      ふん、あんたがそう言うんなら、そうなんだろうよ、そう云う事にしておくよ。 
       
      で、どの子だい? あぁ、あれ、あれね。 これはまた、何処の絵本の中から引っ張ってきたのかい? 御覧、あのお嬢ちゃんは背中に羽根でも生やしてるに違いない。 そして、あの坊やの頼りない御上品さったらまぁ、クリスマスのドールハウスに住んでますって、そんなだよ、全く御似合いで、全くこの店には不似合いな二人だこと! 全く不似合いで、全く極めつけのVIP登場って訳さ。 
       
      あぁ、はじめまして、良く来たねぇ、可愛い人! 噂は聞いてるよ、砂糖菓子みたいな二人だってね。 さ、挨拶代わりのプレゼントだ、こっから好きなものをおとり。 ほら、あたしのこの帽子を御覧、葡萄も、チョコバーも姫林檎も、ラズベリィのキャンディも焼き栗も、あんた達に選ばれるのを待っている。 挨拶代わりのプレゼントさ。 ほら、乗っかってる好きな物をとるがいい。  
       
       
      あたしはイゾルデ.D、模造のダチェス、死に損なった泣き女イゾルデが、あたしの名前。  
      覚えておくといい。 これも縁さ、益体ない小銭ほどの、ね。 
       
      おやま! あははは! 坊や、贋物を選んじまったのかい? そら、そこに吐き出しておきな、それはキャラメルなんかじゃなく、ただの蝋細工さ。 残念だったねぇ、けども、いつだって油断は禁物、贋物を見抜いて、本物を選ばなきゃね! でなきゃ、真実の有り難味がわからないだろ? あぁ、お嬢ちゃん、あんたのは当たりだ、そのスモモは甘く熟れている。 さ、坊や今度は慎重に選ぶといい。  
       
      それとも、ここで選ぶのは他にあるって?  
      そりゃ、ご尤もだ、何しろその為に今日はここに来たのだし。  
       
       
      あらら、坊や坊や!! 困り顔をしないでおくれね、からかった訳じゃない。 坊やが可愛いからついねぇ、あはは、いっそあたしにつまみ喰いさせてみたらどうだい? 満更悪い経験じゃあ、ないだろう? お嬢ちゃんはどう思う? 王子探しから王女探しってのもアリなんじゃないかい? え? 坊やの思うようで構わないって? だそうだよ、どうするよ?! そんなつもりじゃないんだってねぇ?! 途方に暮れる糖蜜ちゃん! あはははは!  
       
      嫌だよ、あんまり笑うと面の皮がずれちまう。 何しろあたしときたら造りモンだらけだから、これで苦労は多いのさ。  
       
      ふふふ、御覧、ほら、この左の目玉、よく見て御覧、綺麗だろ? こんな菫色は滅多無い。綺麗で高価な贋物さ! なぁに、物の見分け付けるには、カタッポで全く困りゃしない、贋物はすぐわかる、贋物同士ピンとくんのさ、ココにね、あぁ、模造のあたしが言うのだから、そりゃホントだ。 
       
       
      ―― で、お嬢ちゃんは、この坊やに似合いの王子を探してたって訳なんだねぇ?  
       
      そしてこの男、トリスタンに声を掛けた? あはは、こりゃ、傑作だ! あんたも吃驚したろうねぇ! 真昼間のカフェ、いきなり近づいてきた天使みたいなお嬢ちゃんに、カミングアウトを迫られたとあっては! そう、ふうん、まぁ、確かにこの男はなりが、ちょっと見、いけ好かない気取り屋のソレなのは、まぁ、そうだけれども、それだけでいきなりゲイ扱いするのは、勇ましいお嬢ちゃんだね! 
       
      けど、ソレでなんだい? あんたはなんて答えた? − さぁどうでしょう、試してみますか?マドモアゼル ― かい? あはははは! 図星なんだねぇ! あはははは!! 
       
      え? この男は実際どうかって? この男はあんた達に、なんて言ってるんだい? もう、随分仲良しさんになったんだろう? ― さぁ、どうでしょう − かい? じゃ、仕方ない。 さぁねぇ、あたしはこいつじゃないから、そんな下の都合までわからないねぇ。 けども、ほら、お嬢ちゃん、その夏の海みたいな目玉は、ホントを見る目玉なんだから、今夜じっくり見定めると良い。 そら! トリスタン、お気を付け! ねぇ? あんたの誤魔化しなんざ、このお嬢ちゃんが御見通しって訳さ、あははは!!  
       
      そんで、坊やは、この男を気に入ったのかい? それとも、良さそうなのを見つけたかい? 
      おお恐い! 睨んだよ! なんだいトリスタン、何であんたが睨むのさ、あたしはここに御似合いの質問を必要だからしたんだよ。 あらま! 大事な坊やに失礼だったかねぇ?! ふん、坊や、あんた、この男に大事にされてるねぇ! そう・・・否定しないのねぇ、ふうん、良くして頂いてますって? ふうん・・・ 
       
      え? あぁ、だから、もしもだけども、坊やが気に入ったなら、坊やが決めてこの男を口説けば良いのさ。 この男がゲイなら話は巧く行くだろうし、そうでないなら、ソレまでだ。 まぁ、良い人の縁で、ずっと御友達って手もあるんだけどねぇ。 あぁ、そう、「良い人」ねぇ、ふうん、この男は良い人かい、ふうん、良かったねぇトリスタン!  
       
      ところで、良い人ってのは偽者と相性が良いんだって、知ってかかい?  
      ふん、まぁ、のんびり構えときな坊や、まだ、先は長い。 
      いずれにせよ、始まりは、自分でつくんなきゃなんないんだからさ。  
      自分で作って、自分で始めて、自分で終らすのがスジさ、そうだろ? 
       
       
      ねぇ、坊や、ちなみに今までの王子はどうやって探したのかい?  
      まさか、ピザ屋が持って来たンじゃないだろう?  
      あぁ、ピザ屋が王子だってのも、大有りか、あははは、ソレならば都合が良い。  
       
      御覧、ほらあそこ、入口で喋ってる二人、アレはまぁお薦めだねぇ。  
       
       
      金髪はジュノワ、銀細工を生業にしてる穏やかな男だよ。 何しろ指が良い。 坊やの柔らかい皮膚を、細工ロザリオを作る器用な指で、優しく可愛がるだろうよ。 ん? ほぉう、そうだね、お嬢ちゃん、ははぁん、良く見りゃ髪の色を除いて坊やと感じが似ているねぇ。 並ばしたらば、従兄同士くらいには見えるだろう。 坊や、あんた優男は嫌いかい? ふふふ、困った顔して・・・ならばアッチだ、髭の方。  
       
      あれはワッツ、厳ついなりに合わず、気が良い満腹の熊みたいな男さ。 見たとおりの偉丈夫で一途な所あるからねぇ、坊やが望むなら、どんな無茶でもやってのけるだろうよ。 あの身体、御覧よ! あの、丸太みたいな腕に噛み付いてみるのも悪かないよ、坊や! おや、赤くなってるのかい?・・・ふうん、そう・・・。 
       
      坊や、あんた、アッチはあんまり経験無いんだろ?  
      あんまりどころか、全くなんじゃないかい? 事に男の方はさぁ。 
       
      え? お嬢ちゃん知らなかったのかい?  
       
      この坊やは擦れてないんだよ。  
      もしや、お嬢ちゃん、あんたがしっかりガードしてた賜物かも知れないねぇ、あははは!!  
       
       
      良いんだよ、素敵な王子を夢見るだけでもかまやしない、あぁ、そう云うのが堪らないってのは五万と居るんだからねぇ。 じゃ、坊や、あんたには尚の事あの二人は、お薦めだよ。 二人とも、夢見る御令息が好みだからね。 あはは、そうさ、マンマじゃないか! なんと言ってもね、二人ともアッチが到ってノーマルなんだよ、奇天烈な事はしないのさ。  
       
      なんでもそうだろうけども、最初は思い切り、優しく甘ったるいのが良いに決まってる。 辛味渋味は後から嫌ってほど味わえるもんさ、けども、甘味は最初しか感じない、後になるほど鈍くなる。  
       
      ねぇわかるだろ? お嬢ちゃんにもさ。  
       
      そうそう、トリスタン、あんたもアッチは穏やかな男だったじゃないか!  
       
      あんたがゲイかどうかは知らない事にするけども、仮にあんたが夢見る御令嬢ではなく御令息がお好みなら、坊やはどう思う? 良いじゃないか、全く問題無いんじゃないかねぇ!  
       
      おお嫌だ! 馬鹿言わないどくれよ、この男とあたしはそんなじゃぁないよ、あはは、嫌だよ全く、それはゾッとしないねぇ。 あぁ、そうだよ、そう、この男とあたしはまぁ、そうさね、古い腐れ縁とでも言っておこうかね? まぁ・・・縁なんだよ、良いか悪いかわからないけど、あたし達は出逢っちまったし、そっからずっとつかず離れずさ。 あんたら二人みたいなもんなんだろう? 違うかい?  
       
      あぁ、好きにおし! お二人さん、あっちの奥に御神籤クッキーの魔女が居る、縁起試しでもしてくるが良いよ、ついでにジロジロ品定めしておいで! あはははは! 逆にジロジロ見られどおしだろうけどもねぇ! 
       
       
       
       
      で・・・どうしようって言うのかい?  
       
       
      御親切で良い人のトリスタンさん! あんたがゲイらしいゲイだってのは知ってたけども、ゲイみたいなノーマルだってのは、あたしも初耳だったねぇ! 一体いつ宗旨変えしたんだろう? あはは! 復活祭のタマゴと一緒に、マッサラ生まれ変ったかい? 
       
      まぁ、どうもこうも無いがね、どうにもなりゃしないんだろうねぇ、どうにもならないけど、あんたが終らせなきゃ、ずっと続くんだろうねぇ、ふん、素敵な友情に乾杯だ! ははは!! 止しとくれよ、あたしにあたったってしょうがないだろう? なんだい、癇に障ったのかい? お前が自分でそう始めて、そう繋げた結果なんだろう?  
       
      ほら、手ぇ振っておやりよ、あんたの可愛い坊やがこっちを目で捜してるよ。  
      あらま、なんとも心細い目をして!! あはは、ずいぶん信頼厚い事!  
      ここだよ! 
      そら、坊や、優しいトリスタンさんがここであんたを見ているよ! あはは! 
       
      あたしは模造で在り続けるけども、嘘は一つも混ざっちゃいない。  
      あたしは、嘘、吐かないんだよ、知らなかったかい?  
       
      ほら、お取り、良い按配に熟れている、ふん、安心おし、本物だよ。 疑ってんのかい? 失礼な男だねぇ。美味いだろ? 甘いだろ? アメリカンチェリィは好物だったろう? そう、これは本物だ。 けど、あれはそうじゃない。 あれはそうじゃないんだって、わかっているんだろ?  
       
      わかってるから、お前は自分に嘘を吐くんだろう? くだらない良い人なんかになって、墓場まで心を隠して持ってくつもりの、痩せ我慢してるんだろう? 
       
      馬鹿だね、泣くんじゃないよ、あぁ、そう、泣いてるんじゃなくて笑ってるって言うのねぇ、ふうん、まぁ、あんたが言い張るんならそんでもかまやしないけど。 けども、あれは、諦めた方がいい。  
       
       
      しっかりおし! ちゃんと目玉でホントを見とくんだよ! 
      贋物はあたしだけで充分だ。 
       
       
      その碧眼、あたしに寄越して御覧よ。 素敵な硝子を嵌め込んでやるからさ! 
       
      泣くような恋は、するんじゃないよ、馬鹿だねぇ、肝心な所で、ハズレを引くなんて、ホントにどうしようもない、馬鹿だよ、 
       
       
      どうしようもない 
       
      どうしようもないさぁ、模造になってしまったんだねぇ、 
       
      ・・・・可哀想な、馬鹿な、あたしの息子。  
       
       
       
       
       
             **  A bat in pieces  こなごなコウモリ   **   
       
           January 20, 2003          
       
                
           * VIVALeeROCK 様  頂きネタより 
            ・・・  「ホモなのにホモじゃないと言い張る男と、ホモじゃないのにホモだと言い張る男・悲恋」 
                 して これは続くかもしれないし、今はもう分からない、 
                       
           
            
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