** ヒストリィ **
<< アバズレ*シンドバッド//深夜の攻防と駄目心臓 >>
病は気からと申しますけど、気のせいじゃねぇよ、馬鹿野郎。
アー駄目だ、駄目だ駄目だ、メシ喰う前だの後だのうるせえ、黙れ。で、食間ってのはどの辺りだよ、あー駄目だ、全く覚えられやしない。 朝昼晩就寝前、畜生、ひっきりなしに薬の時間だ。 なんだよコリャ。 支配されてるかの如く。 ひっきりなしに水飲むのも飽きたので、まァ、ちょっとな、と 酒に手を出したのが大失敗。
クルなぁ、くるくる、どうでも良さ 当社比、5割増。 見る間にアル中の出来上がり。 常にほろ酔い、いい按配だ、けど、クルなぁ。 が、考え様に拠っちゃあ、規則正しい生活とも言えなくもない。
そんな風に、やっていた。
まるで屍の、私。
そこらの廃人の、ありがちな日常。
しかし皮肉だ、納得出来ない事実が此処に。 屍女は、モテモテだった。
モテモテ三昧、カモン、ベイベェ、もお、大変。 生理が止まってて幸いだ。
16歳から60代(推定)迄、こだわりの無いコレクションの数々に、ますます身体はぼろぼろだ。惜しむらくは、そこに『愛』は無い。 愛どころか、金魚を飼うほどの情も無い。 こっちは、余裕も時間もねぇんだよ。 いちいち、手前らの頭ん中、覗いてられるか馬鹿野郎。 優しくされたきゃ、客になんな。 他人の癖に人の善意をねだるな、腰抜けめ。
ああでもさ、大丈夫だよ、アンタならすぐに、うちの病院の御得意さんだ。
知らないだろうけど、アタシはいい仕事するよ。 アンタ、きっとアタシに嵌る、嵌るったって身体じゃぁ無い。 ソッチもアレだけど、心の方。 アンタはね、アタシに一番汚くて弱いところを見せたくなるんだよ。 憮然としたってそうなるんだよ、もう、確実。 仕事がらみのアタシは優しいからね、存分に依存するといい。
・・・・・・・ ま、そーゆう仕事なんだけどね。
セックスの効能とは、適当に代謝があがって薬がまわり易くなる事、即ち、その後のしかるべき睡眠と休息が、オオムネ約束されている事。 時間つぶしになる事。 外泊先が用意されている事。何よりイイのは、頭使わなくて良いって事。 清潔で、うまけりゃ、白痴とだってアタシはヤれる。
実際ソレは、あった。
下北沢で拾ったソレは、ラリってるんだかまともな会話すら おまえ外人? レベルの癖に、御自慢の種馬スピリッツで相当無茶をしてくれた。 カオスのような、チンケな連れ込みで、折り曲げられたりひっくり返されたり立たされたり、病人相手に加減しろよと言いたいけれども、相手も負けずに病人らしいから、4回目までは数えてたけど、揺すられてる内 血圧が下がる厭な感じがして来て、『止めなきゃまずいかも』 と思ったけれど、やめろと言っても状況的に、それは してしてしてぇ〜ん に相当するだろう、きっと。
じゃ、駄目だよ この馬鹿、喜ぶばっかりじゃん。
あぁ、ついてねぇ、きちがいにヤリ殺されるのが人生だとは。
悲しくなりつつ意識を飛ばしたそのあとで、覚醒した私が見たのは
『ねェねェ、俺、すごかった?』 と、御満悦のきちがいだった。
ほら見ろ、生きてるって、腹立たしく空しいじゃん。
でもまァ、それだって、過ぎてしまえば笑いネタにはなるわけで。 厭だね、慣れって。
6月終わりの頃だったか、大久保の路地で、やってたら、ヒスパニック系の立ちんぼに ビッチ と一言吐き捨てられた。
モツ屋で拾った、ガタイのイイ労務者風の若い男とやってた時だ。 男のソレは 傘の広がり具合と竿の長さが絶妙で、アパートの6畳まで我慢出来ずにこんな所に連れ込みやがった馬鹿を罵る事もせず、高価なワンピースの背が薄汚れた雑ビルの壁に擦れるのにも構わず、私を半ば抱え挙げている男の腰に足を絡め、硬い二の腕に噛み付いてやりつつあんあん言ってたそんな時だ。
女は、射るような目をしていた。 ショバ荒らしとでも思われたか。
いや、ただでヤらせるんじゃソレ以下だ。
立ちんぼ如きに蔑まされるって、コレ、どうよ。
やりながら、笑いが止まらなかった。 さすがネイティブ、いい発音。 そして、まさしく、アタシはビッチ。 あ〜全くだ。 全くだ。 純粋に、愉しいって言うのは、久しぶりかも知れない。
可笑しなところで、幸せを意識した。 ところで、ヤリながら大笑いされた場合、入れてるほうの按配はとっても良いらしい。
良かったじゃん、お互いハッピィで。
実際、ハッピィだね、病気も貰わず、刺されもせず、心無く嘘八百を並べる癖に、ちやりほやりと人気者だよ。 だけども、イササカ無理が祟って来ていた。 無軌道な生活はそのままに、キチリと内服してキチリと仕事をこなすには、もう、相当無理が出ていた。
じゃ、悔い改めよう清らかに、とは思わない。
身体に障るから、休職する事にした。 期限はとりあえず4ヶ月。
ソレは、所謂『癒し系』だったと言える。
新宿のドーナツ屋で時間潰しをしていたら 『もう、終電行っちゃうけど』と 隣のスツールにソレは座った。 ああ珍しく、ジャニー系の若造だよと、口説きに応じてみれば、そいつはバリタチのビアンだった。 ビアンか、そうか、まァいいか、可愛い奴め。
ガタガタの身体に、そのセックスはとても優しく心地良かったから、次の約束まで交わす異例を作ってしまっていた。 間を置かず 二週間足らずの間に4回逢瀬を重ねた。 しかし、終わらせるのは、私だ。
ソレの元彼女とやらと、私は寝た。
別にたいした理由ではなく、単に、ネコでなく、タチでやってみたかっただけ。 そしてたまたま、元彼女がそこに居て、試しに口説いて試しにイかせた。そういう按配だ。 尻も軽けりゃ口も軽い女だったので、速攻、ばれた。
見ろよ、奴はカンカンだ。
久方ぶりの修羅場を、ビアン相手に遣って退けるとは、我ながらヤルナと、自慢げに思ってしまったが、余裕はそこまでだ。 怒鳴られ、泣かれ、頬を張られ、二発目をへらへら待ってたけどソレは来なくて、代わりに押し倒され、イかされた。
恐るべし、ゴールドフィンガー。
めそめそしながら 恨み辛みを囁くビアンに、やられまくってるってのはシュールだよ。ついてない時はそう云うもので、あまりの展開振りに、薬の時間を忘れた私に襲い掛かる異変。 不整脈が出た。
すうっと暗くなるあの感じが近づいた。胃が痙攣しようと振るえてる。 『薬、とってよ』 頼んだんだけど、どうしたやら。 それきり翌日昼過ぎまでの 11時間、私は意識を失っていた。
見守ってくれるよりは 医者、連れてけよ、なぁ。
それきりだ。 終わり。
毎日、うんざり暑かった。 夏も真っ盛りになっていた。
誰もがサカル、そんな時期。 何も今更禁欲生活しなくても。 全くだ。 けど、しょうがねぇだろう、畜生、仕方がねぇんだよ、ああ、全く不本意だけど、セックスに心臓が耐えられないんだとよ。
この、役立たずが、畜生。
身体は休まったのかと云えば、そうは行くまい。
アルコールによる、抑鬱が、深刻になりつつあった。
世界中が、鬱陶しかった。
流れ弾なぞ、待ってられるか。
積極的に、死にたい毎日が始まっていた。
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