**  ヒストリィ  ** 
       
       
                             家族心中サヴァイバー  
       
             <<  摂食障害。ワーカホリック。そこから動けないその関係。火サスで行倒れ。  >> 
       
       
       
          考えても、わかるでしょ?  
       
      毎日卵を焼いてた人が 『ついでに、味噌汁と焼き魚も用意しなさい。勿論 時間内に同じ人数分ついでにね。』 って言われたらどんなか、なんて。  
       
       
      つまり、そう云う事。 経営方針が変わり、上司が変わり、無茶な人事が強行されて残った人間が残された理由といったら 『ついでに事後処理宜しくね』 って奴だ。 ついでというのは、仕事ではない。  
       
      いわば奉仕、所謂ボランティア。  
      どいつにソレをやらせるんだよ、馬鹿野郎め。 
       
      思うに、病院関係がこうした強攻策に踏み切るに、あんまり躊躇がない理由とは、人質が居るって点だと思う。 そこに、患者が居る。 じゃあな、と背を向けるのにはかなり勇気がいる。 5人でようやくしていた事が、3人に減らされたとしても、その患者にすべき事はするべきであって、残りはまた明日って話にはなるもんか。  
       
      その頃、わたしの毎日は、人質とられて逃げるに逃げれず、泣く泣く犯人に(色々)奉仕する 哀れな銀行の窓口嬢のようだった。  
       
      ふざけんな。 実に、ついてない。 そして不条理。  
       
      ねぇ、こう言っちゃあアレだけど、こんな風に きちがい相手にボランティアかましてる場合じゃぁないのよね。 
       
      のっぴきならない事情はある。  
      まぁ、聞きなさい。  
       
      そうそう ある話でもないんだから、ていうかこないだ、うちのダディってば行き倒れで死んだのよ!!  行き倒れ!! 何それ? それってどうよ? 一般市民的にアリデスカ? 車中にて死す ってアンタ、どこぞのテロリスト? それとも 何か、餅は餅屋に任せろと、目撃*キュンで したり顔の チンピラ芸人に激励して貰っちゃったりしろって事? 
       
      腹立たしい。  
      どこまでもどこまでもどこまでも、私の思うように行かせまいとするのね。  
      ああ、わかったわよ。  
      じゃあ、見てらっしゃい。 
       
       
      まず、手始めに 過食になった。 見やがれ、胃下垂の底力。  
       
      一週間で7キロとか太って、着られる服が4〜5着程度になった後は、見た目も洒落気もなんだかどうでも良くなった。 ならば、やれる所まで肥満して見せようと、負けず嫌いで頑張り屋さんな心積もりも空しく、胃腸が もう勘弁だ と訴え始め 見る見る食欲は落ちて行く。 同時に、しぼむように 痩せゆく身体。 もはや内臓は、消化吸収を放棄した如く、吐くし、下るし、私は深刻な拒食になった。 そして、日々のオーバーワークがコタエル。 
       
      ガタガタだよ、おい、ガタガタだ。 
       
      あるとき、すぅっと真っ暗になり、倒れた。 いきなり血圧が、下降する。 いよいよ心臓が、怠ける気になったらしい。  
       
      それじゃ、どうするよ。 どうもしねぇよ。 そもそも どうにかなるのかよ。   
       
       
      幸い 医者ならそこらにゴロゴロしてる。  
      ちなみに、私も端くれだ。 
       
      あぁ、じゃあ決まりだ、私はすっかり薬漬け。 
       
      不眠に眠剤。鬱に抗鬱。血圧低下に昇圧剤。  
      そして諸々の為の副作用止め。  
      なにがなんだか。 なにがなんだか、身体だってイイ迷惑だろうよ。 
       
      それでも、薬で眠り、薬で内臓を叱咤し、薬で心臓に喝を入れ、喜怒哀楽さえもが薬任せで、イカサマ女医は、今日も元気一杯だ。 あてつけ自殺も、へっちゃらだ。 
       
       
       
      良くも悪くも 『永遠の悪戯ボウズ』 だった父亡き後の家の中、あれこれ口出し かまける対象を失った面々は、自分以外にかまけるものを無くし、腑抜けだったり 自棄だったり、気楽だったりの按配だ。 言ってしまえば、平穏。 けどさ、そこには漠然とした焦燥感と罪悪感が見え隠れ。 
       
      なんだよなぁ、一度は無理心中まで仕出かした癖に、ポックリ逝っちゃえば 憐憫・憧憬・思慕 と来るか?   
       
      笑わせんな 腹かかえちゃう。  
       
      多分、こう云うのはアレだ。  
      長年介護してた身内が死んだとか、悩みの種の引きこもりバカ息子が首つったとか、そういう おおっぴらに出来ない安堵と、それを良しとしない自己嫌悪。 そう云うのと 近い。 
       
       
      そして 私は決意した。 『身体の動くとき、出来る事しかやりません。』  
       
      どのみち、家は、私が看取る。  
      だけども添い遂げる義理など一つも無い。 
      これは、義務だ。 情ではない。  
       
      私の焦燥感は、病んで行く自らに悲鳴をあげんばかりだ。 もしかしちゃって死ぬのかな、と疑問ばかり膨らむ。 かつて死を望んだ馬鹿者だけど、勝手に死が近づくのは、どうにも耐えられそうに無い。しかも、おおかた、血圧低下でぽっくりだ。 薬のオーバードースってのも 在り得無くもないから とても厭。 ならば、来たるべく日に向けて、私は悔いなく生きてゆこう。  
       
      率直な話、欲望に忠実な生活ってとこだ。  
       
      あはは、そいつはいいや。  
      そりゃ、結構結構。  何しろソッチは得意中の得意。 
        
       
      もはや、独壇場でしょ? 上等じゃぁない?  
       
      畜生。  
       
      みんな大嫌い。 
        
       
       
      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 
       
       
      お元気かしら、 カオルちゃん。 
       
      まず、聞いとくけど、インポは治ったの? 
       
      いまさら、おとなに言うのもアレだけども、アンタさ、夢ばっか、見てるんじゃあないの?  
      貧乳が良いとか仏文科が良いとか眼鏡とか色白とかマゾ入ってる系とか  
      色々訳アリで抑圧型ニンフォマニアだのさぁ。 夢見がち。   
       
      やるならやれ。 選ぶな、いちいち。 選んでやらないなら、ごたごた言うな。  
       
      こう云うの、アンタの生き方ッぽいわよね。 
       
      動かなきゃ、どうにもならんのですよ。 
       
      もっとも、アナタ、動いたの、一度きりでしたね。 
       
       
       
      あの手紙、まだ、保管しております。 
       
       
      カグヤマ 
                
                     
           
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