星が丘ビッグウェーブ
3. うまい話
その日、翌日と、俺はだらだら、ハラダの置いて行った食い物を食べつづけた。
だらだらと汗も出る。 まったく、この部屋は、暑い。 分っちゃいるが、 扇風機を買えと言われても、金が無い。クビになったバイトの給料は、月初めの支給だが、果たして今回貰えるんだか怪しい。 いずれにしろ、まず、金だ。 次のバイトを探さねば。
数日ぶりに髭を剃り、とりあえず学校へ行った。 顔見知りに声かけて、声かけられて、ゼミで眠気と戦って、食堂ではクラスの奴と、食券とノートコピーの商談を成立させた。 飯抜きだけど、出だしは好調。 仕事、後はさくさく働こう。 しかし、それが、見つからない。
成績今一、資格なし、無駄に強面の俺は、カテキョの出来ない不憫な大学生だった。 寂しくなって、彼女に電話をかけてみた。 彼女からは、昏睡中に一度着信があったが、その後、さっぱり捕まらない。 そして今、コール5回で出た声は、なんか、とっても不機嫌だ。
ーーー 俺! 俺だけど
「カノ君、ヤクザに冷麺かけたんでしょ?」
あ、うん、 それで
「バイトもクビになっちゃうし、じゃ、旅行も行けないじゃん」
それは
「カノ君、ここぞで駄目だよね。アタシ、そう云うの結構苛つくし」
あ、あの
「アタシ、シマムラ君に告られたんだ。 夏休み、蓼科に別荘あるから行こうって言われてる。 カノ君と付き合ってても、車無いから近所でお茶して、カノ君ちでエッチして、そんだけじゃん。」
ま、まぁ、うん、そうなんだけど
「だから、もう電話しないで。じゃ。」
ーーー だから、だからもう、お別れですか? ・・・
気分は水色。
ブスだけど、小デブだけど、根性悪かったけど、おっぱいがでかくて、すごいフェラする彼女はもう居ない。 よりによってのシマムラか? あの時俺を見殺しにした、小意地の悪いシマムラ先輩に、彼女はとっとと乗り換えた。
思わず泣きそうな俺は、何者かに膝カックンされ路上の人となる。
『は〜い、カノちゃ〜ん、ひさしぶりぃ〜!!』
ゴージャスな女が手を振っている。
誰?この女、峰 不二子?
そんなこいつは、這いつくばる俺を覗き込む。
『ねぇ、御飯食べよ。』
お、おう。
俺はこの、ビバリーヒルズの高級娼婦みたいな女、ケメ子に従うより他は無いのだろう。 何しろ、腹が減っていた。 微妙に足も、痛かった。
かくして、今、俺はメロン二個分のおっぱい(上 三分の一)を眺めつつ、石焼ビビンバを食べている。
『ビール、お代わりする?』 ケメ子はセンマイを噛み締めている。
『用件先に、言っとくわ。 アンタ、今日から3日 働く気ある?』
そうきたか。
『ゴリチンのトコの仕事なんだけど』
ゴリチン、そいつはケメ子の愛人だ。
真珠が7個埋まってて、ゴリゴリするからゴリチンなのだと、以前ケメ子が言っていた。 土建屋を営むゴリチンは、色々手広く稼いでいるらしい。
『23時から翌5時まで。 途中休憩が二回。 ビルの清掃で日給2万 朝食支給』
ケメ子絡みで日給2万、ソレは微妙に、不吉でもある。
ケメ子と俺は、高校の同級生だ。
もっとも、当時の俺達に、全く接点は無かった。
『深窓の令嬢』 ケメ子は正に、それだった。 さらさらの黒髪に真っ白な肌。 つり気味の大きな瞳、長いまつげ、うす赤い唇。 スラリと優雅な立ち姿。 アメフト三昧、ムサイ、汚い、俺なぞにしたら、 ああ、別世界 と思わずには要られない、平伏したくなる美少女、それが当時のケメ子だ。
親父が外交官、美人のお袋さんは、アンティークの買い付けをして店を持っている。 ケメ子が美大へ進むと聞いても、ハァ、そうですかと納得出来た。 お嬢様には、芸術が似合う。
もう君と出会うことなど無いんだね、サヨナラ、俺の青春。
の、はずだった。
が、去年の暮れ、変わり果てた姿のケメ子は、件の台湾料理屋にやってきた。
ほろ酔いのケメ子に、ドツカれ、怒鳴られ、それでも世話する、ヒナアラレみたいなシャツを着たヒョロヒョロした男、それがハラダだった。 俺らは、再会を祝し、俺のバイトが終わったら次行くぞ、と ケメ子の指令を受ける。 しかし、ケメ子は ピッチを上げ、ハラダは返杯攻撃にナスすべも無く。
かくしてバイト終了とともに、俺は酔っ払い二人の撤収作業に追われる。
真冬に汗して、二人を運び、ケメ子が放った万札でタクシーに乗った。
仕方ないから、俺のアパートに収容。
タクシーを降りて愕然。 畜生、俺んち二階だ。
四苦八苦して、二人を運び、転がる二人を眺めると、深い溜息が出た。
パンツ丸見え、乳はみでそうな、ケメ子がそこに居る・・・が、全く欲情しない俺。
改めて、俺は、青春の終わりを知る。
そして、なんとなく厄介な付き合いが、ここから始まる予感を感じていた。
* ラシン ・・ ラッカー + シンナー の、粋なブレンド。
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