be in clouds 16



 病室を出て行くシャマルに一礼をすると、再びベットの脇の椅子に座り手を握り締めた。
路地裏で一度だけを見上げた異なる双の瞳は、いまだ開かれない。


 意識を失っている原因がシャマルにも解らず、意識さえ戻ればと言う裏側には、意思が戻らなければと言う言葉が隠されている。
急変したら知らせて欲しいと言って立ち去ったシャマルの背中は、他の者たちの元へ向かうと告げていた。
 霧の守護者として他を圧倒する幻術を持つ骸が、これほどのダメージを受ける戦い。





―――― 雲雀とて楽な戦いではないはず・・・・




 そんな思考を振り切るかのようにぶんぶんと頭を振ると、祈るように握った手に頭を伏せた。
今は、ボンゴレファミリーの一員として、雲の守護者、雲雀恭弥のパートナーとして、その名に恥じぬように、自分に出来る事をするだけだと言い聞かせて。










 骸が目覚めたのは、空が明るくなり始めた頃。
いつの間にか寝てしまっていたの頬に、冷たい指先が触れた。
はっとして顔を上げると、心配そうに見つめる異双色の瞳だった。
安堵と喜びの表情を満面に浮かべたの笑顔に、骸も少しだけ瞳を揺らした。


「心配させてしまいましたね」
「いいえ、私は大丈夫です。骸さんこそ、大丈夫ですか?」

「ええ。 小賢しい幻術に少し付き合っただけですから。
 ・・・・ ずっとついていてくれたのですか?」

「・・・ なんにも出来ないんですけど」


 少し淋しげに答えるの握ったままの手に、骸は少し力をこめると偽りのない微笑を浮かべた。



「そんな事はありませんよ。貴方を辿ってこうして戻ってこられたのですから ・・・」


 こんな弱々しい骸も初めてならば、こんな柔らかい笑顔を見るのも初めてだった。


「すみません、大切な貴方を、引き止めてしまって ・・・」
「?! ・・・・ あっあの ・・・」


 骸の笑顔に見惚れてしまっていた事に気づき、ぽっと頬に紅が射す。しかし、すぐに骸の言葉の意図に気づき、表情が硬くなった。



 雲雀はに、家で待つようにと言い残していたのだ。





「僕はもう、大丈夫です。早く彼の元へ言ってあげて下さい」
「はい。 ありがとうございます。 骸さんもお大事に」


 は、骸に一礼をして、足早に病室を出た。
そして、襲い来る不安を振り払うように、振り返る事無く雲雀が待つようにと言った二人の家へ走った。


「さあ、どう出ますか? 壊す事しか知らない君は」

 幻術の解かれた部屋の窓から、走り去るの背を見送りながら、骸は呟いた。
そして、皮肉な笑顔を浮かべながらクフフと喉で笑った。













 


  見上げた窓の明かりに、ほっと胸をなでおろす


「恭弥?! 大丈夫? 怪我は? ・・・・ ?!」
「何してたの? 僕は、先に帰る様に言ったはずだけど?」

 急いでドアを開け、リビングへと飛び込んだを迎えたのは、冷たく揺れた雲雀の眼差しだった。

 ほっとしたは、ぺたりと床に座り込んだ。



「だって ・・・ 骸さん、すごい怪我で あっ?!!」

「君が誰のモノか、ちゃんと教えておく必要がありそうだね。
 もう少し利口だと思っていたんだけど、まあ、いい。
 どちらにしても、同じだからね」

 の腕を引張り立たせると、寝室へと連れて行き、ベットの上へ投げ捨てた。

「どうして? 私は、骸さんの ・・・ やっやめ !!!」

 雲雀にとって理由などどうでも良かった。
が自分以外の男と居たと言う事実は、雲雀を苛立たせるのには十分過ぎる理由だった。

 の服を引き裂く音が、BGMのように雲雀の頭を流れていた。
ただ一つの思考だけが、雲雀を動かしている。
を、自分の、自分だけのモノにしたいという願いのみが。






2009/7/20
執筆者 天川 ちひろ