雲雀との生活は、コレといった進展もなくの予想よりも、普通に過ぎていく。
過激なイメージがある雲雀なのだが、プライベートの時間は以外にまったりと過ごしている。
その姿は、孤高の浮雲そのままで、本のページをめくる指先や、紅茶のカップを口元に運ぶ優雅な仕草に、気づけば見惚れてしまっている。
目が合うと雲雀は、視線だけだけれど微笑みを返してくれる。
たったそれだけなのに、とても嬉しくて気付けばの視線は雲雀を追っていた。
学校での生活もこれと言った変化はなく、校長室で雲雀に言われた仕事をこなす日々。
相変わらず雲雀は不意にいなくなったり、返り血を浴びて帰ってきたり。
ただ、昼寝の時は必ずを連れて行くようになった。
そんな日々が続く中、ふと射すような視線を感じる事が多くなった。
それが、雲雀からだと気付いたのは、放課後、クラスメートの男子の一人と話をしていた時。
なぜ雲雀が不機嫌なのか、最初は解らなかった。
でも、もしかしたら少しは妬いてくれたのかも、などと都合の良い考えもうかんだりしたのだった。
しかし、あの雲雀恭弥の事、そんな生やさしいものではない事を思い知る事となる。
その日も、いつもの様に雲雀からの仕事を片付けていた。
「今日は、先に帰ってて」
「えっ? うん、良いけど ・・・」
また、何か危ない事でもするのかも、そんな不安がの言葉を濁らせた。
最強と言われる雲雀の事だから、心配ないと思っていても、最近少しマフィアとしての彼の顔を垣間見るようになっていて、好きになればなるほど、不安も大きくなっていた。
「そんなに心配なら、僕を見張ってたら? 君なら出来るんだろう」
「そんな事、しません!」
からかうよな口調に、顔を赤くする。
相変わらず皮肉たっぷりの雲雀なのだけれど、優しさを感じてしまうのはけっして気のせいではないはずとは思った。
「じゃぁ、大人しく待ってて」
「うん、解った 」
学ランを羽織るり歩き出した雲雀に、は思わず声をかけた。
「・・・・ 恭弥 ・・」
「なに?」
切れ長の瞳で少しだけ振り返る雲雀に、不安をかくして精一杯微笑みながら。
「行ってらっしゃい。 ・・・ 気をつけてね 」
「なに言ってるの? 当然だよ」
さも当たり前と言わんばかりに口の端を歪めながらも、の不安をぬぐう様にしっかりと答える。
そんな彼なりの優しさにの想いも深くなっていった。
仕事を片付けて帰り道についたのは、もう、夕日が傾き始めた頃だった。
綺麗な夕日がいつもより少し濃く感じるのは、雲雀を重ねて見上げるからだろうか?
己の運命(さだめ)なのだからと、裏の社会に関わる事を受け入れてきたつもりだった。
しかし、雲雀に出会って改めて『無くす』と言う事が常に背中合わせなのだと知った。
『リングの花嫁』となるのを拒んだ先人達は、この痛みに耐えられなかったからかも知れない。
ふとそんな事を思っていると、横道のビルの隙間に気配を感じた。
わずかな血の匂いが、獣のように身を潜める事を許さぬかの様に。
自分が知っている気配の一つだと直感したは、周りに悟られぬように血の匂いを辿った。
「?!!!・・・・・・・」
闇へとその姿を変える空の最後の光を浴びて、そのリングは白く鈍く光を放っていた。
2009/6/14
執筆者 天川 ちひろ