お天気の良い土曜の昼下がり。
こんなに良いお天気だと学校の応接室でつぶれた半日が、とても勿体なく感じてしまう。
雲雀に言いつけられた仕事を片付けて、ぶらぶらとウィンドウショッピングでもと通りを歩いていたの前に、一台のバイクが止まった。
もちろん乗っていたのは雲雀恭弥。
に流し目で乗ってと告げる。
制服にバイクなんて校則違反だよ、なんて、とても言える勇気はない。
一応校則に違反はしていなくても、今風の高校生なのスカートは短めで、跨るには少し恥かしい。
なので、横座りでバイクの後へと座ったが、動く気配はない。
「振り落とされたいの?」
少しして不機嫌な雲雀の言葉になぜ動かないか理解したは、仕方なく雲雀の背中にしがみついた。
同じ部屋で暮らし始めてから、出来るだけ接触を避けていた。
それでなくても、艶のある雲雀の仕草にドキドキする毎日なのだ。
なのに、その努力も虚しく本日は背中と胸が密着する事となった。
思ったより広く温かい雲雀の背中。
でも、それ以上に自分の胸が雲雀の背中を押す感触がには恥かしすぎた。
きっと意識しているのは自分だけなのだからと言い聞かせながら、風を切る爽快感を楽しむよう心掛けていた。
少しでも、早く目的地に着くようにと祈りながら。
でないと、早くなったの心臓は、壊れてしまいそうだったから。
「うわぁ 素敵 ・・・・・」
の第一声に、雲雀は少しだけ微笑んだ。
「当たり前さ。 僕が一番気に入ってる場所なんだから」
並盛が一望に見渡せる小高い山。
見下ろす建物から推察すると並盛の南らしい。
「こんな山なんてあったっけ?」
「あるから、居るんだけど?」
素っ気無い言葉だけど柔らかい口調なのは、きっと雲雀のお気に入りの場所だからだろう。
隣に並んだ雲雀の横顔は、とても優しく感じた。
並盛の景色から上へと視線を移したに続いて雲雀も空を仰ぐ。
秋色に移り始めた空に、気持ち良さそうに雲が一つ浮かんでいた。
「本当に恭弥さんて、雲みたい」
「『さん』はいらない」
「へっ?」
意外な返事に驚いたが、それ以上に、嬉しかった。
雲雀の部屋で共に過ごした時間は、二人の間に何もないのだけれど、少しずつ距離が近くなっている気がしていた。
きっと雲雀も、同じように感じていてくれていたのだろう。
「僕が雲の守護者らしいけど、僕は雲じゃないよ」
「あはは、確かにその通りだね。恭弥は恭弥だもの」
「なら、君はなんなの?」
「えっ?」
急に問われた事よりも、問いの意味に戸惑う。
言われた内容だけでは、雲雀が望む答えは、とてもに用意できそうにない。
思案していると、雲雀の視線がその端整な顔ごとへと向けられた。
「なぜ、君だけは触れたいと思うんだろうね ・・・・ こうやって ・・・」
そっと頬に触れながら、傍らで風に揺れていた髪を指に絡めた。
頬が真っ赤に染まったを、口の端を歪めてみつめる雲雀。
「あ ・・・ きょう ・・」
もう片方の手をの腰に回すと、自分の方へと引き寄せ、髪を絡めていた指で顎をとる。
真っ直ぐな雲雀の視線が、とても綺麗で優しくて思わずみつめ返してしまった。
「君は、僕に触れられるのは嫌かい?
・・・・・ 嫌でも、君に拒む権利はないけどね ・・」
「ん .... あふっ ・・・ ん.....」
囁くような問いは答えるいとまなど与えず、の唇に重ねられた。
確かめるように柔らかい唇を何度もなぞる雲雀の舌は、口内へと入り込みの舌を探す。
絡んでは放たれ、また捕らえられて強く吸われる。
いつものクールな表情からは、想像がつかない熱いキス。
いつしか、も雲雀の服をしっかりと握り締めていた。
唇が離れても、雲雀はを放す事無く抱きしめたままだった。
伝わる鼓動が心なしか速く聞こえるのは、の気のせいではないだろう。
柔らかい髪に、何度もくちづけを落としながら、雲雀の声が緩やかに響く。
「君をこうしていると、とても満ち足りた気持ちになる。
狩りをした後の様に心地いいのに、なぜか心に痛みを感じる。
この痛みは、いった何? どうすれば・・・・ 消し去れるのかな ・・・」
「・・・ きっと、なくならないと思います ・・・」
「どうして、そう思うの?」
「私も ・・・・ 私も同じ痛みを感じてるから ・・・」
「どうして?」
「そ ・・・ それは ・・・・ ?!」
耳まで赤くして口ごもるに口の端を歪めながら、再び顎を取る。
絡んだ視線の先の雲雀は、いままで見たことのない優しく穏やかな表情でを見つめていた。
ふっと優しく微笑むと、ゆっくりと顔が近づいてきた。
「いまは、いい ・・・・ 今は、こうしていたい ・・・・」
その言葉にこたえるように、はゆっくりと瞼を閉じて、全てを雲雀へとゆだねた。
晴れた空に綿菓子のように浮かんだ雲が、二人をいつまでも見守っていた。
2009/2/7
執筆者 天川 ちひろ