雲雀に連れてこられたのは、ツナの家ではなくマンションの一室。
「あの 私、帰らないと ・・・・・ 奈々さんに心配かけたくないし」
「もう、帰る必要はないよ」
「は?」
質問に答える事無く、寝室のベッドにを寝かすとさっさと出て行った。
逆らった所で、良い結果は全く期待できないし、何より身体がまだ、自由にならない。
この状態で帰り心配かけるよりはと、持ち前のポジティブ思考で、今日の所は静かにしている事にした。
いろいろ考えて寝付けないのだけれど、消耗した体力は半端じゃないようだ。
やがて眠りに落ちたは、入ってきた雲雀の小さなキスにさえ、気がつくことが出来なかった。
翌朝、最初に飛び込んだのは、部屋に置かれていた荷物。
バックに入ったものやダンボールに入れられたもの。
形はさまざまだが、の荷物に間違いはなさそうだ。
自分の荷物を確かめるのになぜ?と思いつつ、恐る恐るベットから出ると中身を確かめる。
もともと大した荷物は置いていないので、移動するのは大した事はないのだが、一体なんと言って持ち出したのだろう。
雲雀の事だ。
問答無用で持ち出したとも考えられる。
奈々さんの顔を思い浮かべると眩暈がしてくる。
でも、きっとリボーンがなんとかつくろってくれているだろうと、無理やり納得した。
着替えを済ませてリビングに行くと、優雅な紅茶の香りがを迎えた。
ソファーにすわり窓から景色を眺める雲雀は、もっと優雅で一枚の絵のようだった。
「やっと目覚めたね。 朝食は用意させてある。
さっさと済ませて行くよ」
「おはようございます ・・・・ あの ・・・ 私の荷物が部屋にあったみたいなんですけど」
「だから?」
雲雀の答えから、ここに住むことは決定なのだと悟るも、さすがにはいそうですかとは言えなくて状況の打破を試みるが、よ
り一層追いつめられることとなる。
「えっと、私の家は今はツナ君の家で、ここに居るのは、ちょっと ・・・・ ほら、ご家族とか ・・・・」
「僕が誰かと群れると思うの? いるのは僕だけだ」
「!? ・・・・・・ ふたりぃ〜?!」
驚きのあまり間の抜けた声を出したに、雲雀は見下すような視線で口の端を歪めた。
「明日からは、家事をやってもらうよ。
僕の邪魔をしたり機嫌を損ねたりしないでね」
「はっ? ・・・・・ 家事 ・・・ って(家政婦ですか?)」
は最後の言葉は心にしまった。他の事を考えたので真っ赤に染まった頬を見て、更に雲雀は口元を歪める。
「さっさと食べてよ」
「はっはい・・・」
食欲など出る訳ないのだけれど、逆らうと厄介なので、テーブルに着くと牛乳をグラスへと注いだ。
クロワッサンと綺麗なサニーサイドの目玉焼き。野菜サラダの横には、和風とゴマのドレッシング。
とても美味しそうな朝食なのだが、明日からは、自分が作るのかと思うと、あまり料理を作ったことがないは少し気がめい
ってしまった。
「群れるのが嫌なのに、私なんかと一緒で、鬱陶しくない?
いままで、ずっと一人だったんだよね?」
孤独を愛する雲雀への素朴な疑問を、口にすると再び雲雀は、窓の景色に視線を戻す。
機嫌を損ねた様ではないので、はクロワッサンを手にとって一口分に千切ると口の中へ。
口の中に広がるバターの風味が、食欲を思い出させた。
そういえば、午後にケーキを食べたきりで何も口にしていなかったのだ。
「目を離せないから」
「えっ? 何から?」
「イライラするんだよ。僕の手の届く所にいないとね」
「いないと ・・・ ? 居るとの間違いじゃないの?」
「ちゃんと聞いてる?」
「?! はい! 聞いてます」
雲雀の流し目に、色々な意味でドキドキしながら、食事を進める。
しかし、次の言葉で空腹など吹き飛んでしまった。
「君の全てを、僕のモノにしたい。
見るもの聞くもの含めて全て をね」
じっと雲雀にみつめられて、淡々と告げられた言葉。
先ほど以上に真っ赤になったに、表情を変えない雲雀。
「そして、その理由(わけ)を知りたい ・・・・」
「・・・・・・・・ 恭弥」
雲雀の中で、未知の感情がによって動き始める。
まだ知らない、ソレを捜し求めて。
2008/10/26
執筆者 天川 ちひろ