休日の夜、保健室に不自然な灯りが灯っていた。
ベット脇の椅子に座り、意識の目覚めないをみつめる骸。
「別にどこも異常はねぇんだけどなぁ ・・・・」
ぽりぽりと頭をかきながら眉間に皺を寄せるシャマル。
そんな二人に、廊下を走る複数の足音が届いた。
勢い良く扉を開けたのは獄寺。その後からツナ、山本と続く。
「ちゃん ・・・・・ 大丈夫なの?」
ベットに横たわるを見て、不安げにシャマルへと視線を向けた。
「体に異常はないんだが、意識がもどらねぇんだ」
「てんめぇぇ! に何しやがった!」
「ちょっと、獄寺君!」
シャマルの言葉に、骸の胸倉を掴んだ獄寺を止めに入るツナ。
しかし、どんな状況でも不敵な笑みを絶やさない骸が、獄寺のなすがままに掴まれ表情を変えない。
そんな骸を見て、獄寺は掴んだ手を離した。
「恐らく、互いの能力が干渉しあった所為だろう。
もしくは、憑依弾の副作用ってとこだな」
珍しい事だがと、付け加えるリボーンに、ツナが慌てた。
「ひょっ?! 憑依っって、ちゃんに憑依したのか?」
答えない骸に再び掴みかかろうとした獄寺を、今度は山本が止めた。
「おい、十代目が聞いてんだぞ! ちゃんと説明しろよ!」
「・・・・・・・ ええ。 憑依しましたよ、同意の上で」
「同意の上だと? てめぇが勝手に、のっとったんじゃねぇのか!」
「獄寺君 ・・・ そんなに喧嘩腰じゃ、話聞けないよ ・・・・・」
「すみません、十代目 ・・・・・」
ちっと小さく舌打ちをして、骸から下がりツナと場所を代わった。
「それで ・・・・ えっと ・・・・」
「お陰で、目的は達しました。 犬も無事でしたし ・・・・・」
「そうか、良かった。 それで、城島君達は?」
「彼らは別の場所に居ます。幸い、ドクターシャマルの手を煩わせる程の怪我もありませんでしたし」
「俺は男は診ねぇぜ」
いつもの軽口に、の状態がさほど悪くない事を教えた。
敵対勢力に城島が拉致された。
エストラーネオファミリーの生体実験の生き残りは、闇の研究者にとって、とても興味深い生き物なのだ。
八方手を尽くし監禁先を探したが、手掛かりすら見つからない。仕方なく、千種は骸に知らせに来たのだった。
くしくもが居た事によって、憑依と言う形で彼女の能力を得た骸により事なきを得たのだった。
再び、静かな廊下に規則的な足音が響く。
まるでその音に反応するかのように、が小さく唸った。
「ん ・・・・・ 」
「ちゃん! ちゃん!」
ツナの呼びかけに、一度顔を歪めた後、ゆっくりと目を開けた。
「・・・・・・」
「ちゃん 大丈夫?」
「ツナ ・・・ 君 ・・・・ 私 ・・・・・ あっ?!」
飛び起きようとしたを骸が、優しく止めた。
「大丈夫だよ。 城島君も無事だって ・・・・・」
ツナの言葉にほっとした表情を浮かべるを、オッドアイが包んだ。
「君のお陰です。 ありがとうございます」
「骸さん ・・・・・ ぁっ ・・・・・」
骸の顔を見た途端、から大粒の涙がぽろぽろ零れだしたと同時に、保健室の扉が開いた。
入ってきた雲雀の視界には、カーテンの開かれたベットに上半身を起こた。
その脇に座る骸。
そして、群れるように立ち尽くすツナ、獄寺、山本だった。
それだけで、雲雀を苛立たせるのは十分だったのに。
零れる涙に雲雀の眼の輝きが変わった。
刹那、椅子を倒して身構える骸に振り下ろされたトンファー。
しかし、ソレは骸に打ち下ろされることなく、鈍い金属音を響かせた。
トンファーをレオンが変形したステッキで止めたリボーンは、低く呟いた。
「候補者同士の争いは、決闘を許可された時だけだぞ。
お前、の候補者を降りてもいいのか?」
無表情でトンファーをしまうと、を抱き上げさっき入ってきた扉へと向きを変える。
「ま 待って ・・・・」
歩き出そうとした雲雀にが声を掛けた。
「なに? まさか、君も一緒に咬み殺されたいの?」
苛立つ瞳で見つめたは、憑依された後遺症か少しだるそうで、もう一度しっかりと抱きしめなおした。
「ちゃんと掴まらないんなら、引きずるよ」
雲雀ならやりかねない。
一致した意見に、はその腕を、雲雀の首へと回した。
そして、その肩越しに骸を見つめると、一言ごめんなさいと呟いた。
「謝るのは僕の方ですよ」
「そうだぜ。 お前が謝る事なんてねぇよ」
の代わりに獄寺が答える。
「悲しい思いしたから優しい人だなんて ・・・・ 私 ・・・」
「間違ってはいませんよ。
ただ、僕にはあてはまらなかっただけです」
「こいつに、同情なんてするこたぁねぇよ!」
「ちょっと、獄寺君 、言いすぎ」
ツナの言葉を遮ったのは、小さいがしっかりとしたの言葉。
「やめて ・・・・ 『 同情 』なんて言葉 ・・・・ 」
「さん ・・・・。
僕の過去と同調(シンクロ)してしまったのですね ・・・・・・」
少し困った様な曖昧な表情を浮かべた骸。
「あまり気分の良いモノではなかったでしょう。
すみませんでした」
骸の言葉に、小さく首を振ると、雲雀に回した腕に力を込めて縋るように抱きしめた。
押し寄せる何かに、飲み込まれてしまない様に。
「ありがとう ・・・・・」
「おやおや、今度は礼ですか? 謝ったり礼を言ったり忙しいですね」
わざと茶化してみたけれど、の瞳は真っ直ぐに骸を見たままで。
「ありがとう ツナの ・・・ 私たちの仲間になってくれて ・・・・・」
「僕は、君たちと馴れ合うつもりはありませんよ。
現在(いま)も未来(これから)も ・・・」
突き放すような紅い瞳でを見つめ返す。
しかし、その輝きは次の言葉で、違う色を宿した。
「生きていてくれて ありがとう ・・・・」
「?! ・・・・・・・・・」
言葉の返らない骸をに、振り返ることなく歩き始める雲雀。
「おしゃべりはもう終わりだよ。
これ以上、僕をイライラさせないで
・・・・・・・・」
腕の中で震え始めたに、言葉を飲み込み足早に保健室を出て行った。
「彼女も、ボンゴレの血を?」
足音が消え去ってようやく骸が口を開いた。
残ったツナたちも、の言葉に骸の過去が自分たちの想像を遙かに超えている事を悟った。
「骸 ・・・ 自分の役目を忘れるんじゃねぇぞ」
リボーンから返された答えに、骸はクフフと喉で笑って保健室を後にした。
2008/9/11
執筆者 天川 ちひろ