be in clouds 11




 屈託のない笑顔。

 それが、こんなにも素直に受け止められるのはなぜだろう。

 今日一日、とともに過ごして、感じた疑問。



(君も、こんな疑問をもったのでしょうか?)


 ライバルの姿を思い浮かべた己に、苦笑いしてしまう。





「今日はありがとうございました」


 知らず知らずを見つめていた時、その笑顔が向けられて目が合った。


「いいえ。 僕の方こそ、楽しかったですよ」


 柔らかな微笑を返すオッドアイ。
とてもマフィアのヒットマンとは思えない。


(雲雀さんならなんとなくわかるけど ・・・・)


「おやおや、デート中に他の誰かを思うなんて、困った子ですね」


「えっ?! す、すみません。 別に思ってるんじゃなくて、その ・・・・ ?! って、どうして解かったんですか?」


「なんだ、当たってしまったのですね。 それは残念だ」


 あせったり驚いたりころころ変わる表情に、彼特有のクフフと喉で笑う微笑みが返った。




 遊園地は、昼間の喧騒とは違うざわめきを始めていた。

浮かび始めた光を、カフェのテラスで眺めながらの会話は、ごく自然なデートなのに。





「あの ・・・・・。 何からお話すればいいですか?」


「そうでしたね。 僕としたことが、あまり楽しいのでうっかり忘れていました」


 
 骸の言葉にぽっと頬を染める
ふっと口元が自然に緩む。これも、今日始めて感じた事。



「では、お言葉に甘えさせて頂きましょう。
 『リングの花嫁』と呼ばれるのは、なぜですか?」


「一つの質問で、全部を聞きいちゃいましたね。
 やっぱり、骸さんてすごい人だなぁ」


 うふふとからかう様な表情は、少しでも暗くなる自分を奮い立たせるため。
 出来るだけの柔らかい表情で、テーブルに置いた指先をみつめながら、話し始めた。


「私の家系は、特殊な能力を持ってるんです。

 その能力のせいで、ボンゴレファミリーに守ってもらうようになるまでは、大変だったらしいです」

 『特殊な能力』ソレが必ずしも所有者に利益をもたらすとは限らない事を知っている骸は、少しだけ表情を曇らせた。


「どんな能力なのですか?」


「探している人の居る場所が頭に浮かぶんです。

 その人が居る部屋とか、周りの建物とか。
 自分が知りたい情報が浮かんでくるんです」



「GPSの人間版みたいなもの ・・・・ ですかね。
 とても魅力的な能力(ちから)ですね」


「でも、探したい人と接触していないと、探せないんですよ。
 だから、そんなに良いものじゃないですよ。

 それに、骸さんこそ、すごい力持ってるじゃないですか」


 ころころ笑う
しかし、骸は薄い笑みを浮かべただけで、両肘を突くとその上に顎を置き、澄んだ瞳をじっと見つめた。

 全てを見透かす双の瞳に今度は苦笑いを浮かべると、話を続けた。



「その力は、女性にしか現れないんです。
 姉妹とかなら、その中の誰か一人に。
 継承した誰かに何かあれば、残った姉妹の中に現れるそうです」


「そして、君が継承者となった。

 しかし、それだけなら、専属で守護者が付く必要はありませんね。
 しかも、とても近しい状況で」


 が視線を落としたテーブルに置かれた小さな手は、微かに震えていた。


「私たち以外でも、その能力を、一時的に持つことが出来るんです」


「一時的に持つ? 僕でも、君の力を持つことが出来るのですか?」


 ぴくりとの肩が震え、小さく頷く。


「方法を聞いても良いですか?
 まあ、僕には必要ありませんがね」

 一応と言う骸を驚いてみつめた。


「ご存知でしょう? 僕は、特殊弾を使って人に憑依することが可能です。
 君に憑依すれば、その力は僕の意のままです」


「? ・・・・ 骸さん、ちゃんと生きてますよね?」


 の質問に珍しく見せない疑問の表情を浮かべた。


「ええ、生きていますよ。この通り」

「よかった ・・・・ 憑依なんていうから、もしかしたらって思っちゃいました」

「それって、僕が幽霊だと思った ・・・・ とか?」

「すす すみません!」


 慌てて謝るに思わず吹き出してしまった。


「本当に、君は面白い人だ。 
 この話をして怖れられた事はありますが、幽霊と間違われたのは、君が始めてですよ」

「あはは 私、昔から人とピントがずれてるって言うか あはは ・・・」


 初めてみる楽しそうに笑う骸。その笑顔は、とても、綺麗だった。


「怖がる人は沢山います。
 君は、僕が怖くないのですか?
 僕の過去(むかし)も知ってるはずだ」


「確かに、聞いた時はそう思いました。
 でも ・・・・・
 
 悲しい思いをした人は、きっと本当は優しい人だって思ってるから」

 一瞬凍るような瞳でをみつめる。
しかし、その光はすぐにいつもの霧に隠された瞳に戻った。


「やれやれ。 ボンゴレの関係者は、本当に甘いですね」

 あからさまな呆れ顔を浮かべながら、本題へと移っていった。




「で、どうすれば君の力を得られるのですか?」


「どうって その ・・・・ 抱く・・・・・ って言うか ・・・・・・・・ 契るというか ・・・・」

「 ? ・・・・・ つまり、 君とセックスをすると言うことですか?」

「 !☆X■○*△・・・・ そんなはっきり言わなくても ・・・・・・」

「ちゃんと言ってくれないと解かりませんよ。 さあ、教えて下さい」

「でも ・・・」

「ほら、どうしました?」


 助けを求めるように視線を上げると、ゆったりとした微笑が出迎える。


(! 絶対、私の反応楽しんでる ・・・・・)


「...... 変態 」


 の言葉に、クフフといつもの笑いを浮かべた。
まんまと術中にはまった自分がとても悔しかった。
しかし、愉快そうな骸にしかたないかと諦めた。


「もう、からかわないで下さいよ。けっこうシリアスな話してるのに」

「すみません。慌てる君がとても可愛らしかったものでつい。
 でも、君の口から聞いて見たかったのはほんとうですよ。

 で、どれくらいの間、その力は使えるのですか?」


 やっぱ当りと心の中でつっ込みつつ、話をもどした。


「多分なんですけど、その時から次の月が沈むまで ・・・・ らしいです」

「なるほど、ヒットマンには十分過ぎる時間ですね」


 ボンゴレと契約を結ぶまでは、容易に想像できた。
本人の意思に係わらず行為を強いられ、その力を得る為の道具として、代々の女性は扱われてきたのだろう。


「理由は解かりませんが、ボンゴレファミリーのボスだけは、写真でしか見ていなくても探せるんです。

 その力をファミリーの為に使う代償として、守護者の一人がパートナーになってくれるんです。
でも、大抵は、恋に落ちて結婚しちゃうらしいんです。
 だから、『リングの花嫁』って言われるそうです」

「僕が選ばれなかった事が、とても残念です」

「すみません ・・・・」

「いいえ、責めている訳ではありません。
 それに、奪えばいいんですから」

「それは、私が絶対にしませんから」

「もう一つの『失う』に繋がる話しですね?」


 が頷いた時、息を切らせて柿本が駆け込んできた。



「どうしました? 千種らしくありませんね」

「は ・・・・ 初めまして ・・・・・」


 その表情からどうしたものかと思ったが、とりあえず挨拶をした


「け 犬が!」


 その言葉に、オッドアイが鈍く光った。


 




2007/12/20
執筆者 天川 ちひろ