be in clouds 09


言いつけられた仕事をいつもの様に応接室で終えて、運動場を横切り校門へと歩いていた。
烏の鳴く声にふと振り返ると、部活は全て終わっていてやっと仕事を終えくつろぐように感じる校舎に一言、ご苦労様と呟いた。



 転校してそんなに日が経っていなにのに馴染んでいるのは、この学校が大好きな雲雀の所為だろう。
まだ、雲雀には慣れないけれど少しずつ何かが変ってきている。
それが、何か、何故だか、解からないのだけれど。



「優しいんですね」

「?! ....... 貴方は ..... 六道さん .... ?」

「憶えていてくれたんですね ......」




 嬉しいですと、浮かべた微笑は穏やかで柔らかい。
とても、聞いているような過去があるとは思えな くて、それが少しだけ表情に出てしまったようだ 。


「 どちらも、僕ですよ。 今から帰るんですか? 送りましょう」



 苦笑いを浮かべて、横に寄り添うように歩き出す。
見た目より高い身長にすこし戸惑いながら、同じ ように歩き出した。




「急にすみません。 驚いたでしょう?」

「いえ ....。 今日は何故、此処に?」

「貴方に会いに .... ですよ」


 もちろんと横顔で笑う。
口の端を歪めて笑うのは同じなのに、まったく印 象が違うのは、持っている属性の違いなのだろう か?




「どうかしましたか?」



 思わず見つめてしまっていたことに気づいて、 慌てて視線を戻した。


「お急ぎだったんですか? 電話かメールをくれ れば、こんなにお待たせしなかったのに」

「電話かメール ..... どちらも繋がらなかったのですよ」

「へっ? ...... 繋がらない? ....... ?!」


 慌てて携帯を取り出すと、メールを見てみたが 、届いている気配はない。
受信一覧を見て、はっとして、アドレス帳を開い た。

 もともと多くはないアドレスは、たった三つを 除いて全て消されていた。
そして、メールや着信は、登録アドレスのみと されている。


「やられた .... 」


 きっと、あの時だとぶつぶつ言うを見て、思わず笑みがこぼれた。



「彼 ..... 雲雀恭弥 ですか? まあ、彼らしい ですがね」



 くふふと含み笑いを浮かべたが、その目は笑っ ていないように感じた。



「群れるの嫌う人ですから。
 でも、私にまで強要しなくても ......」


 小さくため息混じりに呟く横顔に流された視線は、恐らく彼がめったに見せない生まれ持った表情なのだろう。
 その気の違いに骸を見つめ返した視線が、ぶつかった。


「?! ...... 六道 .さん?」

「! ..... 」









 何も答えずそのまま下宿先であるツナの家まで、二人無言で歩いた。


 沈黙が不思議と自然に感じた。
何かを感じようとしているのだが、探られている 感じではなかったから。




「心地よい時間とは、はやく過ぎ去るものですね 。 闇が落ちてくるのもしかり でしょうか ..... 」

「..... あ あの送って下さってありがとうござ いました」

「そうそう、うっかり今日の目的を忘れるところ でした。 今度の日曜日、僕に時間をもらえませんか?」


「時間を? 何かあるんですか?」

「ふふ マフィアからの誘いでは、警戒するのも 無理ありませんね」

「いっいえ。 そう言う意味では .....」

「ただのデートのお誘いなのでが、いかがですか ?」

「でっ?! でぃとぉ?」

「そんなに驚かないで下さい。僕たちの年頃なら 普通でしょう?」

「..... そうですね。まあ、私達が普通じゃない から、ピンとこないだけかも」

「本当に貴方は面白いですね。 退屈しないで済 みそうです」

「それって、褒めてませんよね?」

「いいえ、褒めてるつもりですよ」



 少しむくれるを愉快そうな微笑が包んだ。



「で、返事は、イエスで良いですか?」

「あっ、はい。特に用事もないし .....。 それに、私は .....」

「僕は、リングの掟で貴方を縛るつもりはありま せんよ。
 僕が嫌なら、いいと言ってくれるまで、何度で も伺います」


 それって脅しじゃない?と心でツッコミながら 頷いた。


「では、日曜日の10時に迎えに来ます」



 そう言ってにっこり微笑むとすっと右手を差し出した。

 てっきり握手だと思って差し出した手は、その甲に柔らかいキスを受けた。

 真っ赤に頬を染め離された右手を左手で握り しめながら、折った片膝を上げて立ち上がる骸を見つめた。



「あっ あの いっ いつも ... こうするんです か?」

「いいえ、貴方にだけですよ。  .....。
 僕の本気を示したかったのです。
 驚かせてしまったようですね」


「あの いえ ... 慣れていなから ...。 って、慣れるもんじゃないですよね」

「では、また ...おやすみなさい」



 柔らかい微笑を残して去って行く骸の後ろ姿を見えなくなるまで見送った。

 そして、その視線が途切れたとき、喉の奥で愉 快そうに笑った。




「さあ、宣戦布告です。 君は、どう動きますか ?」

  その言葉に、すれ違った闇が微かに揺れた。






2007/10/9
執筆者 天川 ちひろ