be in clouds 07





 テスト明けのだというのにと、ポロリと零しながら、雲雀に頼まれた と言うより押し付けられた書類の一つを持って依頼主を探していた。
出て行くときは必ず行き先以外は告げるから、何も言わなかった所をみると、きっと校内にいるのだろう。
校舎の裏とか、体育館の裏とか、狩りに適しそうな場所を探してみても見つからない。


 ならば高いところからと、屋上に上がってみると、昇降口の上から聞きなれたさえずりが。
はしご階段を登ってみると、両腕を頭の下で枕にして、気持ち良さそうに眠る雲雀。



「人に仕事押し付けて ・・・・・」


 そう言いながらも無防備な顔に口元が緩む。


 切れ長の瞳は、閉じられていてもその優美さを失う事はない。
時折風に揺らされる前髪が、風に流される雲の様で。



「・・・・・・ 気持ちよさそう 」


 持っていた書類を飛ばされないように携帯で押さえて置くと、雲雀の隣で同じように寝転んで空を見上げた。


 ゆっくりと流れる雲を見つめていると、手が届く気がしてくる。
でも、それは決して捕まえる事など出来なくて。


 ふっと寂しげな笑みを浮かべ、ころんろ向きを変えた。


「・・・・・ 雲 ・・・ かぁ ・・・・」



 言葉の後、ふぁ〜と大あくび。
雲雀を起してしまわないかとどきりとしたが、腕の隙間からのぞく寝顔はそのままだ。

 ほっとしたのと、昼食後の気だるさがかさなって、少しだけと、そのまま瞳を閉じた。















 少し冷たくなった風が頬を通り過ぎてはっと気づいた。

(寝過ごしたぁ〜〜〜)

 テスト勉強の疲れが出たのだろう。
あれからすっかり寝入ってしまったようだ。
目に飛び込んできたのは、大きな太陽が町の風景に溶け込み始める少し前。


 横に居た雲雀は影も形も、そこに居たという事実さえもかき消してしまっているようだ。

 少し寂しさを感じたとき、肩からすりとズレ落ちる。



(?! ・・・・ 雲雀さんの ・・・・)



ズレ落ちたのは肩の上から掛けられていた学ランだ。
左腕には風紀の腕章。


 起き上がるとその学ランをぎゅっと抱きしめた。
を包んでいたソレはとても温かかった。
微かに漂う臭いは返り血だろうか。


 雲雀らしいなと思った時、知らず知らずに言葉が零れた。


「ありがとう ・・・・・・ 雲雀さん ・・・・・・」

「・・・・・・ 別に 」

「?!.........」



 まさか答えが返るとは思わなくて、驚きと照れで頬が熱くなる。

 そんなを見上げた瞳が一瞬 不思議そうに見つめた。
が、すぐにいつもの視線へと。



「僕が困るからね。 風邪でも引かれちゃ」

「そうだね。まだまだ日が傾くと寒いもんね」


 突き放す様な物言いに動じる事無く笑顔で答える。
そして、大事そうに学ランを抱えながら屋上へとはしご階段を降りた。


 微かに浮かぶ怪訝さがイラついているのを教える。
しかし、気づく事無くにっこり微笑みながら学ランを雲雀へと差し出して。


「ありがとう。 お陰で風邪引かなくてすみそうよ」

「礼を言う必要などないんだけど。
 それとも、ちゃんと言わなきゃわからないの?」


 雲雀の言葉に今度はが不思議そうに小首をかしげた。


「私が言いたいから言っただけよ。
 言われたからって喜ぶ雲雀さんじゃないし」


 うふっと悪戯っぽく笑うから、イラつく心は更にざわめく。


(?! ・・・・・・・・)


「どうしたの? 私、何か言っちゃいました?」


 イラつく雲雀に、心配そうな瞳を向ける。
しかし、さらに不機嫌を煽ってぷいっと背を向けられてしまった。


「ぁっ ・・・・・・」

 掛ける言葉を捜しているうちに、扉が鈍い音をたてた。


「何してるの? 行くよ」

「へっ? ・・・・ あっ、はい」


 何処へとか、学ランをとか、全ての言葉を否定して服従を強要する抑揚に従った。
でも、それは強要されたからではなくて、その後ろ姿がとても気になったから。


「・・・・ 雲雀さん ....」

 三階の廊下に出たところで声を掛けた。

「なに?」


 足を止め少し傾けた左側から視線が流された。
小走りで後へ来ると、その背に持っていた学ランを羽織らせる。
 そして、柔らかい微笑を浮かべると。


「やっぱり、この方が雲雀さんらしいです ・・・・・」

「・・・・ 気が利くね。 それとも、ご機嫌取りを覚えたの?」

「なんでそんな風に ?! きゃっ ・・・・」


 今度は愉快そうに微笑みを浮かべる雲雀。
壁に背を押し付けられて、両手を頭上で拘束されてその微笑を見たは、屋上で見たソレよりも冷たく感じた。


 ご褒美だと囁きながら近づく唇に、背けようとした顎をあっさり掴まれ、捉えられた。

「ん ・・・・ ふっ ・・・」

 この前と同じように、舌が無遠慮に口内を蹂躙する。


「 ・・・・・ んん?! ・・・・ ぅ ・・・・・」

 顎を捉えていた手が制服の上から体の側面をなぞり、くびれた腰のところで指が動く。

「細いね。 それに柔らかいんだ ・・・・」

 耳朶へと滑ってきた唇から囁くように零れた吐息。
ブラウス越しに動く指よりも鮮烈に刺激が伝わる。


 ねっとりと耳を責められ、うわずる声を必死で抑えていると、首筋に小さな痛みが走った。
そして、やっと両手が解放された。

 その場にしゃがみ込むを見下ろして、口の端を歪める。


「喜んでくれて嬉しいよ 」

 くくっと言葉を吐いて背を向ける雲雀に、どうして と、ポツリと問う。

 両手で体を抱きしめながら、零れた言葉に、返る言葉などないと知っていたのだけれど。










2007/6/1
執筆者 天川 ちひろ