「・・・・・・・ 最悪」
もうこの言葉しか浮かんで来ない。
保健室で目が覚めたのは、夕陽が差し込むころで。
部活を終えたのであろうユニフォーム姿の山本と、ツナが心配そうに見つめている。
獄寺は、窓際で腕組する雲雀と、扉の側で同じように腕を組む男を威嚇していた。
「まあそう落ち込むな。お前が決めた事だ」
リボーンの言葉にますます凹んだ。
「だったら、その時に教えてくれてもいいじゃない ・・・・」
「言ったはずだぞ。 慎重に選べって。 自業自得ってやつだな」
「リボーン、そんな言い方しなくっても ・・・・」
「ルールは解かったな? 今から、お前は雲雀とコンビを組むんだ」
ツナを無視して話を進めるようだ。
小さな溜息を漏らすツナと露骨に嫌悪の表情を見せる。
「ちょっと待ってよ。 もう少し解かるように説明してよ。
一回じゃ解からないわ」
「僕は、従う気はないよ。
ボスへの拒否権なんて、もともと僕には要らない」
顔をあげる事無く、いかにもくだらないと喉の奥で笑いを噛み殺す。
すると、は急に立ち上がりつかつかと雲雀の前へと歩み寄る。
見下げる視線と見上げる視線が絡みあった。
「言うことはそれだけ? 知っていたんでしょう? 私の事 ・・・」
「なに? また、咬み殺されたいの?」
「?!」
振りあげた右手はあっさりと掴まれた。
それでも、今度は左手を振りあげる。
しかし、結果は同じで、蹴り上げた右足も、壁へと押し付けられた。
嬉しそうに瞳を輝かせて、数センチの距離まで顔を近づけると。
「いいよ、咬み殺してあげる ・・・・」
「ヒ、ヒバリさん!!」
「止めろ、ヒバリ!」
「てんめぇ!!!!」
の右手を離したと同時に、トンファーを掴んで振りあげられた左腕。
それを掴んだのは、叫んだツナや山本、獄寺ではなく、扉の側の男だった。
「あっ ・・・・ 貴方は ・・・・・・」
「やっと僕を見てくれましたね」
ふっと優しげにへと微笑む。
「君が放棄するのなら、彼女は僕のパートナーです。
手荒なマネは、止めて頂きたい」
「ふふ ・・・・・」
左手を振りはらうと同時に、の手足を解放した。
その拍子によろけたを抱きとめ、大丈夫ですかと再び微笑む。
「?! パイナップル ・・・・・」
言葉にしてしまって、はっと口へと手を当てた。
「ご、ごめんなさい ・・・・・」
「いいんですよ。 よく言われますから」
少し苦笑いに微笑を変えて、を庇うように雲雀との距離をとる。
「もしかして、助けてくれました?」
「ええ。 思ったより重たかったので、少々無様(ぶざま)になってしまいましたけど」
「ごめんなさい。 あの、えっと ・・・・・」
「六道 骸です。 さん」
お待ちしていましたよと、薄い笑みを浮かべる骸。
そんな二人に背を向けた雲雀が、禍言のように言い放つ。
「気が変わった。
・・・・・・ 奪ってみなよ。僕からさ 」
雲雀の言葉に、今までとは違った表情でククッと喉の奥で骸が笑う。
それは、あの応接室での雲雀と似て、一瞬にしての体を強張らせた。
「いいでしょう。
何度でも味あわせてあげますよ。
・・・・・ 『敗北』をね」
振り返る視線は冷酷で、見据える瞳は大胆で。
その狭間に自分が居ると気づいたのは、雲雀が保健室を出て少ししてから。
はっと我に返って後ろ姿を見上げながら。
「あの ・・・・・ 奪うって ・・・ どういう事ですか?」
「お前、なんにも聞いてねぇな」
の質問に答えたのは骸ではなくリボーンだった。
「仕方ないでしょ! 私を襲った人が、パートナーなんて言われたら誰だって
・・・・・ はぁぁ ・・・・」
自分で言葉にして、再び凹む。
「今日はもう遅いですから、お送りしましょう」
黙って頷くに、気休めの言葉を掛けながら皆それぞれ帰途へ。
一方の雲雀は、屋上から一塊となって校門を出るたちを見下ろしていた。
「ああいう群れを見ていると、咬み殺したくなるんだよね ・・・・・」
「だろうな お前なら ・・・・・・」
「赤ん坊、君は帰らないのかい?」
金網の上にちょこんと座るリーボーンに問いかけると。
「お前、なんでを襲ったんだ?」
「気に入らなかったんだよ。
僕の言いつけを守らなかったからね」
「気に入らなかったのは、ソレだけか?」
「何が言いたいの?」
獣の視線を流す雲雀に、口の端を歪めて笑う。
「ちょうどいい風が吹いてきたな。 じゃぁまたな、ヒバリ」
質問に答える事無く、カイトに変身したレオンに掴まると気持ちよく飛び立っていった。
( 気に入らなかったんだよ。 何もかも、無性にね )
茜雲を目指して飛び立つカイトに答えると、愉快そうに喉を鳴らしてククッと笑った。
「塗り潰せばいいだけさ。 ・・・ 僕の色にね ・・・・」
言い捨てながら、夕陽に染まる校舎へと戻っていった。
2007/4/14
執筆者 天川 ちひろ