月に叢雲 俺とお前  其の参





 忍術って、結構生活に密着してるかも。
そう思えるほど容易くチャクラを練りながら枝から枝へ、飛び移っていく。

 戦闘以外で使うイメージがなかったのだが、イタチも良く使うから。


 ――― やっぱり兄弟って似るのかななぁ・・・・・


 そんな事を思っていると、突然地面へと足がついた。
そのまま木の幹に背中を押し付けられ、大きな手が口を塞ぐ。

「騒ぐな ・・・・・・」
「あっ?! ・・・・・・・・ ?! ・・・・・・・」


 低く唸る声に、今度は背中に冷たく汗が走った。
しかし、声の主は少し先の茂みに視線を向ける。

 自分へではない安堵感も、すぐに伝わるぴりぴりした緊張にかき消された。

「・・・・・・ 血の匂いだ。 お前は、ここを動くな。 
 絶対、声出すな。 しっかり、目ぇ瞑ってろ」


 
 
 命をやり取りする時の緊張感が、金縛りにも似た感覚で全身を縛る。
動こうにも、足が震えて動かない。

 それでも、耳だけは、なぜか感覚が研ぎ澄まされて、
聞きたくないのに一部始終のやり取りを的確に拾ってに伝える。



「貴様ら、どう言うつもりだ」
「なんだ、ガキか。 連れてた女はどうした?」

 なぜ自分を?
 男の言葉に、心臓を鷲掴みにされたようだ。



   ――― まさか、イタチの敵?


「おい、さっさとしようぜ。 このガキを始末して探しゃぁ、すぐに掴まるさ」

 もう一人の男の声が、低く響く。

「そうだな。 女連れでいたのが運のつきだ。 悪く思うなよ」

「「「?! ・・・・」」」

「待って! ・・・・・ 私は、ここに居る ・・・・・」

 言葉が終わる前に、木の影から現れたの顔は蒼白だ。
震えが止らない足。それでも、気丈に男を睨む。

 血が飛び散った忍服。
離れていても感じる、正気を逸脱した高揚。
 そして、その二人の少し後ろに転がった、まだ、出血が終わっていない骸(むくろ)。
 これが忍の世界なのだ。



 ニヤリと厭らしく口の端を歪めた二人に、サスケはちっと小さく舌打ちした。

「わ ・・・・・・ 私に用があるなら、その子には関係ないでしょう?」

 こんな勇気が自分のどこにあったのだろう?

 足の震えはいっこうに止らない。声だって、普通じゃないくらい。

 唯、唯、自分の所為でサスケが巻き込まれる事が、嫌だったから。
もう、これ以上、彼に辛い思いはさせたくなくて。


「まったく、これだから下っ端は、嫌だぜ」
「何?!!!」

 不敵な笑みを浮かべて、男二人を見下す。

「おおかた、人殺して収まらないんで、女でもヤるつもりだろ?」

「!!!! ・・・・・・」

 サスケの言葉に、へたへたと座り込んでしまった。
状況は何も変わらないのだけれど、自分とイタチの所為でないと解かってホッとした。

「どっちにしても、同じ事だ。 お前はここで死ぬんだからな」
「黙って、女を置いていけば、見逃してやってもいいぜ」

 一人はクナイを、もう一人は背中の刀の柄に手を掛けた。
しかし、サスケは動じる事はない。

「お前ら、霧隠れの抜け忍だろう?
 ちょうどいい ・・・・・ 。 探す手間が省けた」

 ニヤリと笑うと、目を瞑ってろと、先ほどと同じ言葉を残して、三人の姿はの視界から消えた。







 微かなうめき声が聞こえたのは、殺気と軽い金属音が遠くになった時。
それは、骸と成り果てたと思っていたソレから聞こえる。

 腰に力が入らない。足を引きずり這うように近づいた。

「まだ、生きてるよね ・・・・・・」

 イタチと暮らしては居るけれど、こんな状況は初めてで、何も出来ない自分が情けない。
ごくりと生唾を飲み込むと、恐る恐る声を掛けた。

「あの ・・・・ 大丈夫ですか?  ごめんなさい、私、どうしたら良いか解からなくて ・・・・・・」

 微かに動いた手に、まだ、生きていると知ると、急に涙が零れてきた。
何も出来ない己の非力に、情けなくて、悔しくて。

「こっ ・・・・・ これ ・・・・・ を ・・・・・・」
「?! ・・・・」

 声に気づき見下ろすと、弱々しく差し出されたその手には、
勾玉の様なものが通されている紐が、しっかりと握り締められていた。

「どっ ・・・・ どうか、これを『 道源 』さ ・・・・ まへ ・・・・・」

 それだけ言うと、ぱたりと手は、力を無く地に落ちた。

「しっかり!! しっかりして下さい ・・・・ お願い ・・・・ 目を開けて ・・・」

 答えが返るはずの無い問いを、涙とともに暫し繰り返す。
やっとその手に握られた首飾りに視線を向けたのは、いったいどれ位してからだろう。

 ごしごしと涙を袖で拭う。

「なんだろう? 尻尾みたいな形してる ・・・・・」


 勾玉だと思った飾りは、キツネの尾のような形をしている。
その形を縁取るように、濃い蒼でなぞられた画。
 焼き物でもなく、かと言って結晶の中に、偶然描かれたにしては不自然すぎるほど、鮮明だ。


 魅かれるようにその飾りを手にした時、柔らかい光とともに、右手の甲に痛みが走った。

「っつ ・・・・・・」

 大した傷みではないのに、意識が次第に遠のいて、頬が地面に触れる。
それが、そこでの最後の記憶となった。




2006/10/14
 

二次創作者:天川 ちひろ