月に叢雲 俺とお前 其の弐
のんびりと乗り合い馬車に乗ったり、渡し舟で川を渡りながら、目的地まで後少し。
さすがに忍者の世界だけあって交通手段はあまり発達していないようだ。
その分、にとっては昔懐かしい旅行を満喫できている。
ふと、イタチが一緒ならと心を過ぎる。
ブンブンと頭を振ると、残りの一本となった団子をパクリ。
イタチも食べたいだろうなと、また思う。
「やっぱり ・・・・・ 止めとけば良かったかなぁ」
弱気な言葉が口を付いた時、聞こえた会話。
困った様な店員に高飛車な物言いを浴びせる、青年と言うには幼さが残る面持。
「サッ!!!! サスケ君!!!!」
思わず叫んでしまったに二人の視線は、当たり前だが流される。
しまったと思っても後の祭り。
お知り合いですかと問う店員に、いや・・・と不審顔。
「誰だ、お前 ・・・・ 何で、俺の名を呼んだ?」
「えっ? あの、その・・・・」
俺様100%の不機嫌全開なサスケに、きっと寝起きはこんな感じだろうと、余計なことばかり頭に浮かぶ。
もちろん、実物に会うのは初めてで、えっとと言い訳を探す。
ずっと前から知ってましたでは、ストーカーの告白で。
かといって、原作を読みましたと言ったところで、病院を紹介されるだろう。
「・・・・・・」
「「・・・・・・」」
やはり二人はの答えを待っているようだ。
落ち着け落ち着けと、心の中で呟いて、何とか共通の話題はないかと模索する。
「あっ、あの、どうかしたんですか?」
苦し紛れにセオリー通り、元の話題に戻してみた。
すると、店員にとっては二人の関係などどっちでもいい事で。
の話に乗ってきた。
「えいね。こちらの方が、小銭をお持ちじゃないと仰るもので・・・・・」
困ってるんですと、小さく溜息。
確かにサスケの手には、最大額の札が握られている。
「お幾らですか?」
「「えっ?!」」
おいというサスケを制して、値段を告げる。
「あっ、ついでに、私の分も払います」
財布を取り出しお代を差し出すと、ありがたそうに両手で受け取った。
逃げるようにその場を後にして、ようやく一息ついた時、木にもたれる見覚えのある姿。
一瞬イタチかと思った自分に、苦笑いを浮かべてしまった。
そのまま通り過ぎようとしたが、やはり無駄な抵抗で。
「おい、お前」
「はっ、はい? ・・・・・」
一度は無視をしてみたものの、強い視線が自分の事を呼んだのだと教える。
「何で、俺の名を知ってる?」
「・・・・ 何でって ・・・・・・ 」
嘘を吐いた事がないとは言わない。
でも、全部イタチは見破ってしまうから、嘘になったためしがない。
でも、やはり試してみるしかないと決心した。
「君に似た知り合いが居るのよ。 間違えて呼んじゃったんだけど、まさか、一緒だったなんて ・・・・」
半分本当で、半分嘘。
苦し紛れの言葉に、本当に驚いたわと、わざと大きく手振りをつける。
それが胡散臭さを増したのだと、自分でも気が付いていたのだけれど。
「・・・・ まあいい。 それより、お前、家どこだ」
「いっ、家ぇぇ?!!! ・・・・・」
せっかくバレバレの嘘が通ったのに、話は悪い方向にしか進まない。
「とっ、遠く!! とっても、遠く!! そう、私、旅の途中なの」
「はぁ?」
間の抜けた返事に、険しい表情がようやく緩んだ。
「この先の温泉に行くの」
「温泉? この先にそんなもん、ないぜ」
「え? まさか ・・・・・ だって、この地図には ・・・えっと ・・・・」
ごそごそと取り出した地図を、同じようにひょいっと覗き込む。
どうしても、面影が似ているから、どんな仕草にもドキリとしてしまう。
「お前が居るのは、此処だ。
そして、言ってる温泉は多分 ・・・ ここだろう?」
「えぇ〜〜〜! こんなに離れちゃったの?
どうしよう、今日中に着けないかも ・・・・・」
どうやらサスケの件があってから、気づかぬうちに道を間違えたようだ。
上の空で歩いていたので、仕方がないのだが。
「連れてってやろうか?」
いきなりの言葉に、へっと見上げるとニヤリと口の端が歪む。
「でっ ・・・ でも ・・・・」
そんな親切を受ける理由がない。
まさか、素性がばれているのではと、背筋が冷たくなる。
しかし、そんなこちらの事情は全く無視で、但しと高飛車な物言いで。
「これで、お前への借金は、チャラだからな」
「へっ? ・・・・・・・ 借金て ・・・・・・」
「もう忘れたのか? 茶店でのヤツだ」
「あぁ、あれ? いいのよ、そんな。大した額じゃないし」
大袈裟なと笑い飛ばせば、真顔で睨んで。
「俺は、借りを作るのが嫌いなんだ。
これで、きっちり返すからな!」
「えっ? まさか、それを気にして、待ち伏せしてたの?」
「人聞きの悪い言い方するな! ただの、偶然だ」
嘘のレベルは同じくらいかも。
そう思うと口元が緩む。
――― 弟って本当に可愛いなぁ
「・・・・ 何が可笑しい!」
「ううん、別に。
それより急がなきゃ日がくれちゃう」
の言葉に、フンと鼻を鳴らすとさっさと脇道へ。
「ちょっと待ってよ。 私そんな道 ・・・・」
「まともな道で間に合う訳ないだろう。
けもの道だが、ちゃんと道だ。 文句言わないで付いて来い」
そんなと、困り顔ながらもしぶしぶ後をついて行く。
でも、けもの道は険しくて、だんだん足が重くなる。
他愛のない会話(といってもが一方的に話してサスケがごくたまに相槌を返すだけなのだが)も、だんだん口数が減っていく。
少し先を進むサスケは、ちゃんと歩調を調整して、一定の距離を保っている。
だから、もっと頑張りたいのだけど、意思とは反対に体は動く。
体力不足と言うよりは、普段かからない所に負荷がかかり、あちこちが軋み出す。
俯きがちに、でも、必死で歩いていると、ほらと声がして、
見上げると差し出された右手と、そっぽを向いたサスケが映る。
「あ ・・・・・ ありがとう ・・・・・・・ あのね、私 ・・・・・」
受け止めてくれた手の温かさに、思わず言葉が零れてしまう。
「ん? なんか言ったか?」
「・・・・ あの ・・・ えっと ・・・・・」
口ごもるに仕方ないと言った表情を浮かべ、騒ぐなよと一言。
大きな胸に抱きかかえると、近くの枝へ飛び移る。
飛び移る速さに振り落とされぬよう、ぎゅっとしがみつくと嫌でも肌蹴た胸が視界に入る。
慌ててぎゅっと目をつむると、俺様な悪態一つ。
それは、ふわりと鼻をくすぐった香りに、トクリと鳴った鼓動の所為。
「お前、見た目より重いな ・・・・・」
「なっ、なによ! サスケ君には関係ないでしょ!」
「今は、あるだろう?」
口の端を歪めて勝ち誇る。
変わったヤツ ・・・・・
でも、嫌じゃない ・・・・
最後の言葉に、心がふわりとなった。
二次創作者:天川 ちひろ