二つ紅 〜九





 
 
 気がついた時、最初に見たのは少し幼い想い人の横顔。


「・・・・・・・・ イタ ・・・ チ ......」

「?! ・・・・・・ 気がついたか ・・・・・・」


 不機嫌を全面に押出して向けられた顔に、あっっと息をのむ。

「ごっ ごめんなさい! あの ・・・ えっと ・・・・・」

 言葉をさがしているうちにサスケはつかつかと歩み寄り、有無を言わさぬ視線で顎を取られぐいっと右を向かされた。

 ちっと言う舌打ちの後、ごそごそと身を起こそうとするを、いきなりベットに押し倒した。



「何をするつもりだ? まだ、完全に適合しきれてない」

「適合? って ・・・・・・・・ ?」

「お前、アイツから何も聞いていないのか?」

「『アイツ』って? ・・・・・・」

「ああ、アイツだ」


 名前を言葉にするのも忌々しいかの様に吐き捨てると、ベットの脇の椅子にどかりと腰を下ろした。

 いったいイタチは何を考えているのか?
を奪っていった様子からすると、イタチにとっても特別な存在になっているようだ。
いまさら何を望んでをそばに置くのだろう。
 感じるチャクラは、素人同然。とても特殊能力があるとは思えない。
身内を己の手で惨殺しておいて、こんな素人も同然の女を連れている。




『非情で冷酷』




 イタチを知るすべての忍が、認識している。
その認識を現実としてその心と体に刷り込まれたサスケにとって、の存在は到底納得のいくものではない。
 
 考えれば考えるほど表情が厳しくなるサスケだったが、当のは、妙に落ち着いて天井を眺めている。
その姿に余計苛立ちが募ってきた。


「余裕だな。 置かれてる状況が解かってんのか? それとも ・・・」

 言いかけて言葉を止めたのは、イタチの事に触れたくなかったからだ。その理由が、イタチとの確執だけでない事を心の中で否定していた。


「余裕? 誰が?」

「お前に決まってるだろう! 他に誰がいる!」

 むきになったサスケは、が知っているころのサスケと同じで、思わず笑みがこぼれてしまった。その微笑みが、サスケの逆鱗に触れたことは言うまでもない。次の瞬間、馬乗りの体制で寝ているの顔を挟んで両手を突いていた。


「お前に恨みはない。だが、アイツを苦しめる事が出来るなら、俺は、何も躊躇わない ・・・・・」

 の両手を頭上で拘束すると、片方の手を細い首へとまわす。指先に力を込めた時、は静かに目を閉じた。


「?! ・・・・・・」

「そこまでだよ、サスケ君」


 いつの間にか開けられた扉から、点滴と2本の注射が入ったトレーをもってカブトが入ってきた。
視線では指図するなと威嚇しながらも珍しく黙ってベットから降り、カブトの姿を見てが震えだしたをかばう様な位置に立つ。

 気に留める様子もなく近づくカブトに、いやっと小さく言葉が漏れた。


「大丈夫だよ。 君が少しでも早く回復するようにと、栄養剤を持ってきたんだ」


 浮かべた微笑で眼鏡の底の表情は読み取れない。しかし、大蛇丸の配下である彼の処置を受けると思うと、恐怖がさわさわと体から這い出してくるようで。


「今までの治療も僕がしたんだ。 何も心配は要らないよ」

 優しい笑顔なのに、素直に受けいれられない。決して先入観で人を判断したくはないのだけれど、不安と恐怖がの心を占める。


「ご ・・・ ごめんなさい。 私 ・・・」

 の言葉を聞き流して、消毒用のコットンを手に伸ばした腕をサスケがつかんだ。


「止めろ。 もう治療の必要はない」

「残念だけど、これは大蛇丸様からの命令なんだ。 君も、その意味は解るはずだ」

「止めろと言っている。 そして、大蛇丸に言っておけ。 今後、コイツに関わるなと」

「だから、そうは行かないんだよ。 まったく君も、少しは成長してくれないかな」

「貴様 ・・・・ ?! ・・・・・・」


 カブトを掴んだ手に力を込めた時、背後に多くの気配を感じた。振り返らなくても解るほどの、強いチャクラだ。
通常の戦闘なら問題はないのだろうが、狭い病室でを守るには分が悪い。
 
 サスケの腕を振り解くと、サスケの手の後が残ったその腕をへと伸ばす。赤く浮かんだ痕が、恐怖心をさらに煽る。

「ぃゃ ・・・・・ イタチ! ・・・・・・」


 がイタチの名を読んだ時、サスケの中で何かが弾けた。弾けた感情とチャクラが混ざり合い、心の奥へと渦を巻いて流れ込み、ひとつの形となってその胸に刻まれた。

「触るなって、言ってんだろうがぁ!!!!」


 ただひとつの感情がサスケを支配した時、その刻印から新たな力が溢れ、周りのすべての忍をなぎ倒しはじめる。


「やっ、止めて、サスケ君! みんな死んじゃう!」


 がサスケにすがりついた瞬間、忍達を絡めていた獣尾が跡形もなく消えうせた。

 倒れた無数の忍達を前に、へたりと座り込む二人を部屋の入り口で見ていた金色の瞳。
その傍らで、押し上げられた眼鏡がきらりと光る。


「これほどの物とはねぇ。 ますます、彼が楽しみだわ」


「ええ。しかし ・・・・・」

 言いかけた言葉は、大蛇丸の一瞥に閉ざされた。

「では、回収を始めます ・・・・」

 大蛇丸の気まぐれで、同胞の治療に追われるカブトであった。



2008/5/5

執筆者 天川 ちひろ