二つ紅 〜十





 五代目火影の執務室。ソファーに座る皺を深く刻む二人は、相談役のホムラとコハル。
 重苦しい沈黙を深いため息が破る。が、続く言葉に、置く苦しさは増すばかりだ。



「『子星』の所在は掴めたのか?」

「いえ ・・・・。現在確認中です」

「しかし、こうも易々と奪われてしまうとは ・・・・」

「申し訳ございません ・・・・・」

「事によっては、『子星』を断たねばならぬやもしれん。 心してかかるが良い、綱手」


 答えない綱手に構うことなく席を立つと、二人は壁に立つ自来也の横の扉を開き執務室を出て行った。



「全く、あのタヌキっぷりは変わらんのう」

「聞こえるぞ」

「かまわんさ。 腹の中では、『子星』と係わるうちはが疎ましくてたまらんじゃろうからな。
 お前とて、そう思っとるんじゃろう? のう、イタチよ」

 二人が出たのと入れ違いに姿を現した、綱手の後に立つ暗部装束の狐面に話しかけるが返事は返らない。
だが、答えの代わりに、面を外し素顔を晒した。



「なぜ、こんなにも容易く『子星』の所在が割れたのだ?」

「『月』 ・・・・ が、現れたのでしょう」

「『月』? 子星の守り人の事か?」

「ええ、そのようです。 まだ覚醒していないと判断た私のミスです」


「なるほど。 『月』なら、『子星』の所在を正確に察知できるでのう。
 所在さえ解れば、上忍クラスであれば奪還はそう難しくはない」


 合点がいったとばかりの自来也だか、綱手は困惑の表情を浮かべていた。伝説の通りだとすれば、いくつかの疑問と不安が浮か

ぶからだ。
それを察した自来也は、イタチへの確認を兼ねて『子星』ついて話始める。


「お前も知っとる通り、『子星』とは『もののけ』長の事じゃ。口寄せした獣はもちろん、あの尾獣でさえ、その命に従うと言う



 そして、『子星』を守る為に、同じ人間の中から守り人が選ばれる。選ばれた者は、『子星』を守る為ならば必要なチャクラや

妖術をもののけから分け与えられる。
 その守護者を『月』と呼ぶのじゃ。 そして ・・」


「なぜ、お前が、『月』ではないのだ?」



 自来也の言葉を待たずに、綱手が口を開く。
昔から、いつもそうだった、決して、守らせてはくれない。
 双方が一番苦しむであろう言葉を、自ら望んで問いただす。
それが、木の葉の長として、イタチに向けられる精一杯の優しさなのだろう事は、自来也も解ってはいるのだけれど。


「『子星』と『月』は、愛情によって契約されると聞く。
 最初に接触した、互いに愛情を持ち合わせた者と契約される。
 お前でなくても、親子、兄弟ならありえる話だ。だが、お前の話では、あの娘に身よりはないはず。

 『月』は、いったい誰なんだ?」


 一呼吸置いて訪ねた綱手。
これ以上イタチに厳しい現状がもたらされないうようにと、僅かな願いを込めたものだった。
幼い頃から彼を知る者として、里の闇を知る者として、そして、一人の同胞としての願いだった。


「おそらく、大蛇丸の所でしょう ・・・・・・」

「大蛇丸だと? ならば、『月』は ・・・・ まさか ・・・・・・?!!」

「・・・・・・・・ お前の想いが、こんな形で返るとは ・・・・ つくづく因果な兄弟よのう ・・・・・」

「なぜ、サスケを知っている? いったいあの娘は、何者なんだ?」


が、サスケに対して持っているのは、弟としての『情』でしょう。
 なぜ、サスケがに感心を持ったかは解りませんが」


「しかし ・・・ お前の言うことが本当なら、ちと不味い事になるかものう ・・・・・」


「不味い事 ですか?」


 初めてイタチが自来也を見た。
少年の面影は、もう、すっかり消え失せて、幽愁を落とした表情は過ごしてきた深さを物語る。
しかし、幼少より纏っていた翳りに悲しみは薄れていて、今は憂いをより深く映している。
 そんなイタチに『因果』などと使った自分に少し後悔した。すでに、イタチは光を見出していたのだから。


「わしも、確証があるわけではないのじゃが、『情』の繋がりは同じ性質で引き合うはず。
 しかし、お前の話が本当なら、それぞれ違う『情』で契約された事になる。
 となると、『情』の違いで歪(ゆが)みが起こる可能性がある」


「歪み ・・・・・ ですか?」

「どうなるんだ? 主と守り人の立場が崩れるというのか?」

「それはないじゃろう。 でなければ、守り人を選ぶ意味がないでのう」

「では、どうなるんだ?」

「わしも、ソコまでは、調べきれとらん」


 無言のイタチに、すまんのうと声をかけた。


「とにかく、大蛇丸の所在を、全力で探させよう。 イタチ、お前は、こちらからの連絡を」

「すみませんが、私も動かせて頂きます。 こちらも、すでに動きがかかってしまっているので」

「ほぅ、あの暁がのぅ。 何を企んでおるのかのう」

 皮肉っぽく見つめる自来也に、口の端を歪めて少しだけ感情がこぼれた答えを返す。


「暁(あそこ)とは関係ありません ・・・・・ 個々の意思 ・・・ という所でしょうか ・・・」

 少し拗ねた様子に、まだ、幼かったイタチが重なる。
失った多くに比べて得たものはほんのわずかなのだろう。
しかし、その小さな光を絶やさぬように守ってやりたいと、自来也と綱手は心から思った。




2008/5/19

執筆者 天川 ちひろ