二つ紅 〜四
激しさを増した雷と雨音に窓へと視線を流すと、執務室に緊張が張り詰めた。
視界に入るぎりぎりの壁に佇む狐面。
外は嵐だと言うのに、水滴の欠片すらも残さぬその出で立ち。
面の白さと対照的な漆黒の髪が、描かれた狐の紅をみせつける。
「初めまして ・・・ と云った方が良いのでしょう。
五代目火影様」
綱手は筆を置くと、外の暗闇と雨粒で鏡の役を得た窓に映る言葉の主を見据えた。
殺意のない緊張感が二人の間に張り詰める。
言葉を選び口を開いたのは、綱手の方だった。
「用向きを聞こう。その姿で、再びこの地を踏む程のな」
「『子星』が現れました。 ・・・・・・ もっとも強い力を宿す北辰の ・・・・・・」
「ほぅ ・・・・・・。 尾獣だけでは足らないのか お前ら」
「もっと欲しがる者が居ます」
「欲しがる者? ・・・・・・ 大蛇丸か ・・・・・ 。
で、・・・ 本題は?」
視線は鋭く窓に浮かぶ姿を射抜く。
「『子星』の保護をお願いしたい。 災禍を断つ間」
「大蛇丸の所には、サスケが居る」
「ええ、知っています ・・・・・」
表情の読めない面から、淡々と言葉が流れる。
昔から何を考えているかわからない子供だった。
「お前は、何一つ変らないな」
昔を懐かしむような言葉に、我ながら年を感じてしまう。
苦笑いを浮かべて、小さく溜息をつくと。
「良いだろう。 大蛇丸と引き換えなら、悪い取引じゃぁない。
お前が子星の災禍を立つ理由、奴等にはどうする?」
「一度、奪われかけたのを阻止しています」
「なぜ阻止した? お前を縛る影はないはずだ」
戻らぬ答えに視線を一度机へと戻した綱手は、暫し
「解かった。 どうすれば良い?」
「『終末の谷』で ・・・・ 三日後に」
「『終末の谷』・・・ か ・・・・・。 つくづく因果な兄弟だな ・・・・・。
なぜ、お前が子星に係る? ・・・・・・ 」
哀れむのではなく気遣う視線を向ける綱手。
それは同胞への慈愛に満ちて、星を自ら背負う意図を憂いていた。
これが木の葉の忍びの強さだと、面の下の口元が揺れた。
「・・・・・・・ 火影としての質問ですか?」
「いや ・・・・・ ただの興味本位だ ・・・・・ 流してくれ」
そんなものを向ける人ではない事は百も承知。
その優しさにを託す安堵を覚えた。
面を付け直す為の少しの隙間から垣間見る端整な横顔。
三つの勾玉を映す紅は、面のそれとは比べようもなかった。
「・・・・・・ 理由など意味を成しません ・・・・ 。
・・・・・・ 強いて云うなら ・・・・ 私が引き換えた代価の全て ・・・・・」
少しだけ柔らかくなった表情に、綱手の口元も揺れた。
次の雷鳴と共にその姿は窓鏡から消え失せた。
2007/8/17
執筆者 天川 ちひろ