散花舞恋 七
再びと共に護廷を訪れたのは、梅の花が咲き始める頃だった。
急な呼び出しに、悪い予感が白哉の心を過ぎる。
異端な存在であるだが白哉にとっては大切な存在。みすみす手放す事などできはしない。
朽木家の名と己の権力、持てる全てを使ってを守るつもりだ。
そんな心の熱き想いを閉じ込めて、淡々と長い回廊を歩いていた。
総隊長である山本と初めて謁見したは、少し緊張をしていたようだが、いくつかの質問にも滞りなく答えていた。
一連の質問を終えると、山本はに別室で待つようにと告げ、隊員に案内させた。
そして、暫し長く伸びた髭を撫でながら、思案しているようだったが、白哉へと視線を戻すとゆっくりと口を開いた。
「あの娘を、護廷に加える」
「?! ・・・・・・」
意表をつかれた言葉に、なんとか表情を崩さずに次の言葉を待つ。
しかし、白哉が望む、を入隊させる理由は話される事無く進んでいった。
「どこの隊も人では足りておらんじゃろうが、隊長不在で負荷のかかっておる副隊長の補佐に付け様と思うておる。
となると、三番、五番、九番隊あたりなのじゃが ・・・・ どうであろう」
「確かに総隊長のおっしゃる通りかと存じますが、副隊長補佐は荷が重過ぎるかと」
「儂はそうは思わぬがのう。
確かに死神としての経験はないが、処々での評判は儂の耳にも届いておる。
学院を卒業せずとも十分な教養は身につけておると思うが、どうじゃ?」
好々爺の様に見せかけて腹に一物を隠す性格は、何年たっても変わらぬ様だ。
これ以上の論議は無駄と踏んだ白哉は、真剣に隊選びを始めた。
その頃、別室で控えていたは、梅の香りに誘われて中庭へと出ていた。
ここなら白哉の居る部屋の入り口も、自分が控えている部屋の入り口も見渡せる。
白哉が退室しても誰かが呼びに来ても大丈夫だろう。
護廷入りなどと大事になってる事など知る由もないは、梅の傍の長いすに座ってその花と香りを楽しんでいた。
「お〜い!じゃねぇか! どうしたんだ?」
白哉の居る部屋とは反対側の廊下に、無遠慮に手を振る恋次と、ルキアが居た。
「大声を出すな。この距離なら、叫ばずとも十分聞こえる」
「別に叫んだ訳じゃねぇよ。呼んだだけだ」
「ならば普通に呼べばよい」
「悪かったな、でかい地声で」
いつもながらのやりとりしながら中庭へと降りてくる二人を、は微笑みながら待っていた。
「今日はどうしたんだ?」
「滞りなくすんだのか?」
二人から別々の質問が同時にに問われた。
互いにむっとした表情で顔を見合わせる二人に、は更に優しさを増した瞳でみつめた。
傍目には少々ぎくしゃくと写る白哉とルキアの兄妹だが、家族を知らずに育った事を除いたとしても、にはとても仲のよい二人に感じている。
白哉への想いが深くなるのと同じように、ルキアへの愛しさも広がっていた。
そして、その心は、種類は違えども同じように白哉を思うものとして、しっかりとルキアへ伝わっていたのだった。
「今日は、護廷に呼ばれたの。白哉さんは、まだ、山本総隊長とお話中よ」
「へぇ〜、何でまた?」
「さあ・・。白哉さんからは、何も・・・」
「案ずるな。兄様なら、憂いる事などなにもないはずだ」
恋次をこっそりと肘で小突きながら、自信に満ちた表情で、少し表情の翳ったへと答えた。
うん、と満面の微笑みに変わったの表情に、ルキアが口の端を歪めた。
その時恋次が、向かいの廊下を荷物を両手で抱えて歩く檜佐木を見つけた。
「檜佐木先輩!大丈夫っすか?」
すると、眉間の寄っていた表情が明るくして恋次へと向き直った。
「おお、恋次か! 悪りが、ちょっと手伝ってくれ」
「いいっすよ! じゃっ ・・・・・」
暇を告げようと視線を向けたの表情に、恋次は、言葉を止めた。
そんな恋次を見て、ルキアもを見つめる。
大きく見開かれたの瞳は、驚きだけではない事を告げていた。
三人の視線を浴びた檜佐木の瞳は、恋次とルキアを交互に見つめた後、へと向けられ、暫し動かなかった。
白哉と山本が座する部屋では、まだ、沈黙が続いていた。
簡単に出せる答えではない事を配慮してからか、山本は黙って白哉の答えを待っていた。
吉良、雛森、檜佐木の中からの選択は、どれも中途半端な気がしてならない。
さらに眉間の皺を増やして白哉は考えた。
雛森は、藍染の呪縛から完全に開放されたとは言い難い。
となると、吉良か檜佐木だ。
やがて、白哉は、ゆっくりと言葉を解いた。
「・・・・・ 九番隊が、適当かと」
一度長く伸びたあごひげを撫でた後、山本は頷いた。
「うむ、解った。 早急に受入れを整えるとしよう」
白哉は瞳を少し伏せて、その答えを聞いていた。