散花舞恋 五







 護廷を訪れたは、その広さに驚いた。
以前は余裕もなく、ただ人の後に付いて歩いただけなので感じなかったのだ。

「すごく広いですね」

 案内をしてくれる恋次に驚きを漏らすと、得意げにだろうと鼻の下をこすった。

 黒崎の友人なのは、初対面の病室で解っている。
なので、の案内にと白哉が申し付けたのだった。
 しかし、にとって、黒崎とも大して面識がある訳でもなく、案内される恋次に至っては初対面も同然だ。
少々緊張の面持ちで、六番隊隊舎を通り隊主室へと向かう。

 すれ違う死神達が会釈をするので、それなりの地位だとは思っていたが、副隊長と後で聞いて驚いた。
気さくというよりはガサツという言葉の方が似合う恋次なのだが、正反対といっても良い白哉が選んだのだから、何か相通じるものがあるのだろう。
『縁(えにし)』とは不思議なものだと改めて思う。
もしも、人として自分が最後に見たのが白哉で無ければ、こんな形にはなっていなかったと思う。
別に確証がある訳ではないのだけれど、それほど、は朽木邸での生活に馴染んでいた。



「じゃあ、ここで待っててくれ。 少ししたら隊長が来るはずだ」
「ありがとうございます。 阿散井さん」
「恋次でいいぜ。 お前、一護のダチなんだろう?」
「いえ、そこまでは ・・・」
「そうなのか?  あいつ、お前の事、詳しかったぜ」

 恋次の言葉に、苦笑いを浮かべながら、その背を見送った。
ほとんど話した記憶もないのに、なぜ、黒崎は自分の事に詳しかったのか、に思い当たる節は無かったから。







 少ししたら来ると言っていた白哉は、恋次が思っていたよりも時間が掛かった。
冷静ないつもの白哉なのだが、息こそ切らしていなかったが、急いていたのは良く解った。

 後から知った隊主室と言う名のこの部屋から眺める護廷は、厳格さと活気が満ちていては気に入っていた。
なので、待たされる事は、嫌ではなかったのだけれど、白哉の姿を見たらくつろいでいた自分がすまなく思えてしまった。

「待たせてすまぬ。 見せられる範囲は限られるが、出かけるとしよう。
 途中、四番隊へも寄るといい」

「とんでもないです、待つのも楽しかったですよ」

 少し恐縮しながらも、にっこりと微笑むは、とても素直で可愛らしかった。
いつもは、しっかりした面ばかりが目立つの新しい一面に、白哉の口元もほころんでいた。

「あの、その前に ・・・・」

 白哉を呼び止めると、いつもの表情にもどったは、部屋の小さな扉を見つめた。

「お参りさせて頂いてもいいですか? ・・・・・ 奥様に ・・・」
「これを、知っているのか?」

「知っていると言えるかどうか解りませんが、幼い頃に見たことがあるんです。
 その頃は、何なのか良く解りませんでしたけど」

 そうかと小さく呟いただけで、白哉は小さな扉を開けその場所をに譲った。



 この世界では、仏壇と呼ぶのかどうか解らないが、小さく清楚なソレの中で、その人は微笑んでいた。
まるで儚さと優しさで出来ているようなその微笑に、失った時の白哉を想い、心が痛んだ。

 しっかりと両手を合わせ、礼と冥福を告げたは、扉を閉め終わった白哉に問いかけた。


「白哉さんは、幸せですか?」

 白哉は、一瞬驚きを浮かべ、閉めたばかりの扉へと視線を移した。

「お前は、本当に不思議だな。 なぜ、そのような事を聞く?」
「もしも ・・・・ もしも、白哉さんが幸せじゃなかったら、緋真さん、悲しいだろうなって思って」
「なぜ、そう思う?」

 白哉が、視線を、に戻した時、は先ほどの白哉と同じように扉へと視線を向けた。
そして、初めて見せる憂いを浮かべた。
すると、そんなの表情に、白哉の心はざわめいた。
その答えを探すかの様に、白哉は次の言葉を待っていた。

「私がいなくなって、悲しい想いをした人には、絶対に幸せになって欲しいから、神様に祈ってるんです。
 それが残してきちゃった私に出来るただひとつの事だから」

「そうか ・・・・」

 いままで、逝ってしまった妻の気持ちを考えた事は無かった。
浮かぶのは、してやれなかったと悔やむ事ばかり。
唯一の願いであったルキアの事も、叶えるだけで精一杯で、想う気持ちは空回りばかりだ。
 初めて、自分を残して逝かねばならなかった妻の心中を想ってみた。
ともに過ごした日々を、夢のようだと言って微笑む妻の言葉に、偽りはないと信じているのだが。


「あっ、でも、白哉さん達は死神さんだから、神様とかにはお願いしないんですよね?」

 知らず知らず憂いを深めていた白哉を心配したのだろう。
明るくが、問いかけてきた。
 いまさらな事を教えられて、苦笑いが浮かぶ。

「お前とて、今は死神であろう?」
「あっ、そうですね。だったら、神様にお願いしてもだめかな ・・・」
「解らぬが、祈らぬよりは良いのではないか?」
「! ですよね」

 うふふと微笑むに、優しい笑顔を返して、二人は隊主室を後にした。


 

2009/2/17