散花舞恋 三
四番隊のベットに横たわる。
その傍に、卯ノ花、涅、そして、白哉が立っていた。
「命に別状はありません。しばらくすれば目覚めるでしょう」
「しかし、本当なのかい? 虚に襲われた人間から剥れたというのは」
涅の言葉にああと小さく答える。実際、その場面を確認したのは白哉だけだった。
「いろいろ調べましたが、彼女は完全な死神です。感じる霊圧は僅かですが、、間違いないでしょう」
「ふむ、実に興味深いね。隊長格にも霊圧を感じさせない程、完璧な義骸がまだ、現世に残っていたとは考えにくいのでね」
技術開発局の名の元、浦原の作成した義骸は全て回収し徹底的に研究しつくしていた。
そのプライドもあって、あえて『人間から』と定義をしたのだった。
「まあいいさ。これからじっくり調べれば解る事だ。時間はいくらでもある」
「総隊長より、これ以上の調査は不要と指示がきております。
残念ながら、涅隊長の意向に沿うことは難しいかと思います」
残念そうに、それでいてキッパリと否定の言葉を突き放す卯ノ花。さすがに歩が悪いと思ったのだろうか、珍しく涅は大人しく引き下がった。
そんなやり取りの最中、白哉は再度、あの不思議な光景を思い起こしていた。
まるで虚が見えているかのように逃げる人間。
千本桜を放つと同時に、その身体が虚の爪に引き裂かれた。
血の代りに淡い霊子がその身体から零れ、まるで蝶が羽化するかのごとく、義骸から抜け出た身体は、一糸纏わぬ産まれたままの姿だった。
桜の刃を纏い天女と見紛う姿に、暫し視線は奪われていた。
「で、これからどうなるのだね、コレは」
横たわるをコレと呼ぶ涅に、白哉は不快感を覚えた。
「彼女が目覚め次第、事情を聞いて落ち着き先を探すつもりです」
「いつ、ここを出られるのだ?」
白哉の問いに、卯ノ花は不思議そうにその表情を向けた。
「簡単な検査を少々しますので、意識が戻ってから二日ほどでよろしいかと」
「解った。私の方で手配しておこう」
「おや。朽木隊長も、興味があるとはね」
嫌味を含んだ涅の言葉を無視して、病室を後にした。
なぜ、あの様な事を言い出したのか、自分でも解らない。
天から舞い降りた天女を、逃したくないと思ったのだろうか。
それとも、生真面目な義務感からか。
どちらにしても、らしくないと気づかぬうちに苦笑いを浮かべながら六番隊隊舎へと戻っていった。
を引き取る数日前の四番隊で、このような会話がやり取りされた事など、もちろんは知る由もなかった。