月満ちて叢雲の間より零れし明(ひ)に
悲月 2
どれくらい泣いたのだろうか?
泣いても尽きることのない涙は、時の感覚さえも奪い去っていた。
すでにあたりは暗く、灯りの灯っていない部屋に薄っすらと月の光が差し込んでいた。
貴族に生まれたからと言って、決して恵まれてばかりの人生ではなかった。
小さい頃、つらい事や悲しいことがあると、母はいつも花火をやろうと誘ってくれた。
小さな線香花火に一つずつ火をつけて、周りの人の小さな幸せを祈った。
そして、最後に、の幸せを祈ってくれた。
いつしか、その言葉を聞くと、悪いことばかりじゃなくて、きっとこれは次にくる素敵な事の前触れなのだと信じられるようになった。
そのおまじないも、今度ばかりは効きそうになくて。
白哉の言う事は間違っていないのだろう。
正一位の貴族なのだから、闇に葬り去る事など掃いて捨てるほどあるはずだ。
権力とは人を狂気に導く。
人を人とも思わぬ所業。
だから、母はその狂気に負けぬ様に、希望があるのだと繰り返し教えたのだろう。
白哉の生真面目さは良く解かっている。
冷静に選択しての言葉なのだろうと、悔しいくらい理屈は頭の中を巡る。
――― 彼を愛しすぎたから
理屈では解かっていても、どうしても諦める事など出来なくて。
白哉や実家に掛かる迷惑は、十分承知している。
でも、決してあの人が手にすることの出来ない二人の証が自分の中にいるのだから、何をなくしても後悔する事は決してない。
最後に一度だけ、少しの間だけれど愛する人と暮らした瀞霊廷を見上げた。
二度と戻ることはないだろうソコは、暁の空に美しく佇んでいた。
「ごめんね ・・・・・・ 白哉。
ありがとう ・・・ 幸せだった ・・・・・。
ううん、今でも幸せ ・・・・・・」
そっと、腹に手をあてて、少し寂しげだが、温かい笑顔を浮かべた。
「 ・・・・・・・・・ さようなら......... 白哉 ・・・・.」
いつか二人で買った簪を握り締めながら、 尸魂界を後にした。
丁寧に書かれた文字に、の決意が読み取れる。
素直に従うとは思っていなかった。
しかし、こんなにも早く決断するとは思わなかった。
自分よりももう一つの命を選んだへの寂しさより、その身を心底案じた。
こんな事なら、全てを打ち明けた方がよかったのかもしれぬ。
しかし、の望みは変わることはないだろう。
ならば、をどう守る?
しかし ・・・・・・・。
ならば ・・・・・・・。
浮かんでは否定し、否定しては浮かぶ。
あれこれ脳裏に浮かべながら、己が持つ全ての地位と権力を駆使してを探した。
その全てと引き換えにしても、を失うことなど出来ないから。
2007/10/22