月満ちて叢雲の間より零れし明(ひ)に
起月 3
六番隊隊首室。
執務と睡眠が主な用途だった。
だが、が入隊してからは、落ち着ける場所となった。
しかし、今日は少し様子が違っている。
少し開けた障子から、浮かんだ月を見上げては、視線を伏せて机の書類へと。
それを、幾度となく繰り返す。
二〜三日前からの様子がいつもと違うように感じられた。
何がと言うわけではなく、心を何かが重くしているような。
は包み隠さずよく話す。
それが、時には不機嫌の原因となる事もあるのだが。
しかし、今回はそれとなく話を向けても話す事はなかった。
それだけなら、例え夫婦であっても言えぬ事もあろうと過ぎていく所だった。
だが、の恐らく泣いているであろう姿を見てしまった。
遠目からでも解かるくらい、肩を震わせながら涙を堪えているであろうその姿に、心を痛めた。
しかし、その驚きや心の痛みを消し飛ばしたのは、そっと肩に置かれた手から伸びる腕に零れた白く長い髪だった。
そこは誰でも申請すれば使える予備の会議室のような場所で、決して疑わしい場所ではないのだけれど。
すぐに背を向け立ち去った白哉は、その後手拭を差し出した派手な着物の袖口を見る事はなかった。
その後すぐに、に仕事が終わり次第、隊首室に来るようにと言伝た。
遅くなるからとわざわざ六番隊まで断りを伝えに来たに会うことなく、何時でも構わぬと恋次に伝えさせた。
確かに多忙だったのだが、それはとの時間を遮る理由にはなりえない。
強いて言えば、断りを入れるを見たくなかったから。
その言葉を聞けば、己の意思を曲げてでも、許してしまうから。
なぜ、許してはいけなかったのか?
その理由を模索しながら、今、時を過ごしている。
理由を認めなかった事を、深く後悔する日が来るとも気づかずに。
一方のも、軽やかとは言えない足取りで六番隊隊首室へと向かっていた。
やっと今日、気持ちの整理をつけた所だから、もう少しだけ時間が欲しかった。
気持ちの整理をつけたはずなのに、三日前の言葉がまた、頭に浮かぶ。
ちゃんと、微笑む事ができるだろうか。
邸と違いそこはあまりにも近いから。
今も、変わらぬ微笑で白哉を見つめるあの女性(ひと)に。
2007/2/20