欠け満つ巡れし夜半の月
添月 2
京楽行きつけの小料理屋のつもりだった。
しかし、一行が着いた席は、手入れの行き届いた庭を望む一室。
大切なを連れて行くのだからと、言葉にまではしてないが、その後の手配の良さが物語る。
さりげなく浮竹から一番遠い席にを座らせその隣に座した。
子供じみた感情だと解かっているが、初めて遭遇する己の知らないを知る男。
見過ごせないのは、想う心の奥の奥、チリチリ揺れる赫があるから
「阿散井君、ちょっと代わってくれ」
そう言うと、さっさと席を立ちの正面へ。
白哉の顔色をチラリと見やるが、逆らう事も出来ずルキアの前の席に移った。
、白哉、ルキアの向かいに、浮竹、京楽、恋次が座る。
心配顔の恋次に、京楽が、君は前の子の面倒を、と目配せする。
思わぬ酒の肴に、にやりと髭が緩んだ。
「ほんと、久しぶりだな。 まさか、白哉の嫁になってるとはな」
「結構噂になってたんが、ちょうどその頃、君、寝込んでたんだよね」
「そうなのか。 しかし、白哉も水臭いじゃないないか。
紹介してくれても、いいだろう?」
運ばれてきた銚子をもつと、ほらとを促す。
「あっ、私が・・・・・」
「遠慮するなよ、呑めるるんだろう?」
ほらと、再び促すと、の視線は、白哉へと。
もともと、嫌いではないようだ。
一度だけ月を愛でながら、杯を交わした事がある。
酔ったは、表裏のように清純さが艶と変わる。
そんなを独り占めしたくて、縛るつもりはないのだが、外で飲む事を禁じてしまった。
自分に問うが可愛くて、本来なら誰にも見せたくはない艶姿。
しかし、添えられるであろう笑顔が見たくて。
「あまり強くはない。 程ほどにしてやってくれ」
「大丈夫さ。 お前が居るじゃないか、なっ、」
浮竹の言葉にぽっと頬を赤らめて、はにかんだ笑顔を白哉へと添える。
予想以上の笑顔に、ほんの少しだけ口の端を歪めた。
そんな無表情にも近い感情に、再度小さく微笑みを浮かべる。
それが夫婦の証なのだと、愛おしさが込み上げてくる。
「幸せだな、白哉」
良く知る旧友は、少しだけ羨ましそうに言葉を掛ける。
そして、ゆっくりと宴は流れ出した。
極上の料理と極上の酒。
程よく酔いもまわり始め、よもやま話に花が咲く。
「しかし、ほんと綺麗になったよな」
浮竹の言葉に、恋次が問う。
きっと知りたいだろうが、自分の口からは言わないだろうと。
「浮竹隊長は奥方様を、そんなに昔からご存知なんすか?」
恋次の問いに、にぃと笑みを浮かべながら。
「ああ、物心つく前から知ってるよ。 の兄貴は俺の後輩なんだ」
「じゃぁ、京楽隊長や朽木隊長も一緒なんですか?」
「二つ下なんだが、あいつは俺以上に病弱で、在籍していた事を知ってるやつも少なくてな。
学院で会うよりよりは、見舞の方が多かったよ」
「浮竹も水臭いなぁ。 こんな可愛い子がいるんなら、俺も一緒に行ったのに」
「なに言ってんだ。 さそっても、女の尻ばっかり追いかけて、生返事だったくせに」
「逃した魚は、大きいねぇ」
「あぁ、全くだ。 覚えてるか?」
先ほどの笑みに、一抹の不安が恋次の心を過ぎる。
「俺の嫁さんになるって、縋って泣いた事」
ニヤリと髭が揺れる。
無表情で杯を空ける上司に、眉根が引き攣る。
もっとも刺青のまがい物なのだが。
「あの時、そのまま攫っちまえば良かったかなぁ」
な、と相槌を求める始末。
「そんな小さい頃の話、良く覚えていますね。
確か・・・・・・ 夜一さんの所に花嫁修業に出される時ですよね」
「ああ。 あんな可愛い告白を断るなんて、俺も、どうかしてたよなぁ」
しまったと後悔しても後の祭り。
護廷の中で、あの朽木白哉を肴にできるただ二人なのだから。
明らかな挑発に、やはり表情は全く変わらない。
しかし、その無表情さが不機嫌を表す事くらい、旧知の二人と気遣いが空転する部下には十分解かっている。
さらに畳み掛けようとした時、はいとが声を掛ける。
やはり無表情で杯を差し出す白哉に、とくとくと優しい音を立てて酒を注いだ。
「あの時は、お嫁に行けば修行に行かずに済むと思っていたみたいだから」
「そんな事ないだろう? 俺にとっても懐いてたじゃないか」
「だって、あの後、金平糖を貰えるって言われたら、さっさとばあやに着いて行ったそうですもの」
「なんだ、浮竹、金平糖に負けたのかい?」
京楽の言葉に、ルキア、、恋次が吹き出した。
「おいおい、それはひどいなぁ・・・」
ぽりぽりと鼻筋を掻く浮竹に、ほらほらと酒を勧める。
「君は、僕の酌で我慢、我慢」
「まっ、仕方ないか」
花びらが零れるように笑うを見つめ、優しい笑顔を浮かべる浮竹。
その表情は、妹を見つめるそれと同じだ。
「幸せそうだな、。 本当に、良かったな」
浮竹の言葉に、どきりとして視線を落とした。
少しして、嬉しそうな笑顔とともに、少しはにかみながら答えた。
「・・・・・ ええ。 幸せです・・・とっても・・・・・ 朽木家に・・・・ 白哉に、嫁げて・・・・・・・ 」
の言葉に、やっと表情を浮かべ流した視線で見つめた。
「?!・・・・・」
そして、ぽっと頬を染めたも答えるように、笑顔を返した。
染められた頬は、案下でそっと重ねられた大きな温もりの所為。
躊躇いがちに少しだけ力を込めたら、優しく包み返してくれた。
2006/9/15