欠け満つ巡れし夜半の月
添月 1
いつもの様に笑顔の浮竹とは対照的に、無表情の中にしぶしぶだと呈した白哉が共に歩く。
その少し後ろを、愉快そうに派手な着物。
「そう、いやそうな顔するなよ。たまには付き合ってもばちは当たらんだろう?」
「そんな顔に見えるか?」
「ああ、残念ながらな」
付き合うのが嫌ではない。の元へ帰れぬのが気に入らないだけ。
少しずつ距離が縮まって、今では抱きしめてくちづけられる。
後は「契り」をいつ結ぶか。
逸る心と躯を押さえつつ、大切にその時を待っている。
だが、そんな事情など知る由もない旧友は、たまには離れてみろと無理やり飲みに誘い出す。
当然の如く断り続けていたのだが、この男、きっとルキアにでもこぼしたのだろう。
もちろん、後ろの策士が仕組んだのだろうが。
から、たまには羽を伸ばしたらと勧められて、断る理由をなくしてしまった。
にしてみれば、大切な義妹を預かってもらっている上司の誘い。
むげにしては、ばちが当たるらしい。
酒の肴が欲しいだけ。
だが、の望みは白哉にとって、戦時特例以上の効果を発動する。
当人が勝手に決めた事なのだが。
そんなこんなのやり取りで、ちょうど四番隊舎を過ぎた辺り、見慣れた顔が三つほど。
最初に声を掛けるのは、やはりこの男。
「ルキアじゃないか? どうした、腹でも痛いのか?」
「浮竹隊長! ちっ、違います! 姉様がいらしていたので、一緒に帰ろうかと」
ついでに夕飯でも食べていくつもりなのだろう。
用心棒代わりに誘われたのか、傍にいる恋次が、一礼した後バツ悪そうに照れ笑いする。
そんなやり取りの間中、白哉はずっとの視線を追った。
その視線の先には、にこにこと微笑む浮竹の姿。
離れない視線に苛立ち、声を掛けようとした時に。
「しろぅ・・・・にいさま?・・・・・」
の言葉に、一斉に視線は浮竹へ。
「えっ? 確かに、十四郎だが・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・ あっ! まさか?」
射す様な白哉の視線もおかまいなしに、しげしげと失礼なほど見つめた後、ぱっと何か閃いたようだ。
「まさか、か?・・・・・・」
「はい! やっぱり、四郎にいさまだ」
「すっかり大きくなって、と言うより綺麗になったな」
「四郎にいさまこそ、すっかり・・・」
「おいおい、老けたって言うなよ」
「ちっ、違います。 ご立派になられたなって・・・・」
「その間が、気になるが、我慢してやるよ。
お前たち、帰るとこなら、一緒にメシに行かないか?」
ぱっと明るくなった顔は、ルキア、恋次の視線と共に、白哉へと注がれた。
「私なら、かまわぬ」
にっこりと桜の笑顔が添えられて、ありがとうとの言葉が返る。
決して本意ではないだろうに。
あんな笑顔を向けられちゃ、朽木白哉もただの男。
「可愛い嫁さんってのも、大変だねぇ」
いろいろとと、背中で慰めの言葉一つ。
「なんでだ? 幸せだろう? な、白哉」
相変わらずな浮竹に苦笑いの京楽と、上司の心をいち早く察した有能な部下。
屈託なく微笑む二つの笑顔と連れ立って、皆はその場を後にした。
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どこで登場しても、相変わらずの十四郎さんです
2006/8/25