欠け満つ巡れし夜半の月
偲月 3
夫婦喧嘩は犬も食わぬ
神代の頃からの戒めだ。
『まぁ、喧嘩してるって訳じゃねぇからな・・・・・』
お節介かもしれないが、聞いて見るのも悪くない。
数日前、ルキアから聞いた話の真偽がどうしても気になるから。
アイツのあんなツラ見たくねぇし・・・・
これが、大部分を占めることを本人は全く自覚がない。
「ちょっと聞きたいことあるんすけど・・・」
「何だ? 構わぬ、言ってみろ」
こんな返事を返してくれるのも、認めてくれているからだと嬉しくなる。
「やっぱ、隊長が結婚したのって ・・・ その ・・・ みんなが知ってる理由っすか?」
「 皆が知っておるとは、どういう意味だ?」
やっぱこの人は、こういう話には疎いなぁと改めて実感する。
「なんつーか、その・・・・」
自分で切り出しといて何だが、悪い噂を耳に入れると言うのはバツが悪くて口ごもる。
「・・・・・ 龍元寺家との事か?」
「・・・・・ まっ、そうことなんすけど」
ぽりぽりと鼻筋をかく恋次に小さく息を吐くと
「お前まで、知っているとはな」
「有名な話っすよ。あそこと、隊長んとこで奥方を争ったってのは」
争ったとは上手く言うものだと、呆れるよりも笑えてくる。
の縁談の条件に、当人の意思に関係なく結納金のより高い家へとの意向を示してきた。
親戚筋の横槍だろうが、当主が逆らえぬほど、家の財政はひっ迫していたのだ。
「龍元寺の奴ら、羽振りがいいのを嵩にに来て、嫌われてましたからねぇ。
隊長が、横からかっさらってった時は、胸がスカッとしたヤツ多かったんじゃないんすか?」
愉快そうに微笑む恋次に、薄い微笑が浮かぶ。
「やっぱ、見合いの席で一目ぼれっすか?」
「とは、見合いはしておらぬ。幼い頃に、一度会った事は有るがな」
それどころか、結納の席も本人は不在だったらしい。
そんな事を許すほど、心広かったかなぁと、奥方を羨ましく思った。
「じゃぁ、見合い写真を気にいったんすか?」
「いや、写真は見ておらぬ」
「 。。。。。。。。。。。。。。 」
相変わらず解かりにくい上司だ。
「じゃぁ、やっぱり・・・・」
次の言葉は、飲み込んだ。
代々中央四十六室者を輩出している家。
その家との縁は、どの貴族とて欲しがる。
その縁を大金を出して買い取った。
それが世間周知の理由だ。
もちろん、白哉を良く知る自分は、それが真意だとは思えない。
ルキアを半ば強引に、義妹とした時も似たような噂が立った。
もっとも、その時の噂に比べれば、幾分ましな内容だ。
あの時は、噂を聞く度に、口にするヤツ、相手かまわず拳を振りあげたものだ。
が白哉を疎む理由がソコにある事を知ったのは、ついこの間。
女ってのは、ほんと細かけぇ事きにするなぁ
聞いた時の、率直な感想だった。
そんなもん、関係ないくらい、隊長は奥方に惚れてる。
今まで、護廷に泊まる事が多かったのが嘘のように、どんなに遅くなっても、どんなに翌朝が早くても、必ず邸に戻って行く。
厳しい隊長職にあって、それがどれ程大変なのかは、知る由もないのだろうが。
つくづく不器用な人だと思う。
そんな事を言ったら、お前に言われたくないと、切捨てられるだろうが。
「あの日も、この様に燃えるような夕陽であった ・・・・」
ゆっくりと話し始めた横顔を、真っ赤に夕陽が染め上げていた。
まるで、温かい血が透けて見えるかの様に。
こんな隊長も嫌いじゃねぇ・・・・・
恋次は静かに、その言葉に耳を傾けた。
2006/3/11