欠け満つ巡れし夜半の月


     偲月 1



 昼食には少し遅い時間なので、店はだいぶ空いていた。
しかし、そんな事は関係ない奥の個室で向かい合う二人。

「人を誘っといて、なんて(ツラ)してるんだよ」
「黙れ。 もっと気の利いた事は言えぬのか」

 久しぶりなのにと、むくれ気味で。

 忙しくてめったに会うことはないのだが、気心知れた二人のなのだ。会えばすぐにいつもの調子。

 親友の証とも言えるこの関係に、安堵するルキアと少しの寂しさを隠す恋次。




「姉貴と上手くいってねぇのか?」

 その問いに、更に表情は曇ってしまった。

「そう気にするな。隊長がちゃんと上手くやってくれるさ」
 
 ありきたりの励まししか出てこない自分の語彙の少なさが、悔しかった。
 誰に習えばもう少しふえるかなぁと、考えてみたが浮かばない。

「だと良いのだが・・・・」
「口数はすくねぇけどな」

 外の庭を見つめてふーと小さく息を吐く。

 そんな時、失礼しますの声の後、ごめんごめんとの笑顔。





「卯ノ花さんと、話し込んじゃって」
「私たちも今来たところです、姉様。 卯ノ花隊長をご存知、なのですか?」
「うん、母の学院の後輩なのよ。私の治癒鬼道の元先生でもあるの」

「ねっ・・・・・ねえさまぁ?・・・」

 和やかに話始める二人だが、いきなり隊長の奥方の登場に戸惑いを隠せない恋次が一人取り残される。

「恋次! 何を呆けておる、さっさとご挨拶しろ」
「いいのよ、私がお会いしたくてお願いしたんだから。
 私は、。よろしくね」



 花びらが零れるような笑顔に、隊長の『千本桜』を思い出した。
冷たさが優しさに変わると、こんな感じじゃないのかと。





 ルキアに足を蹴られてはっとする。




「あ、阿散井 恋次っす。隊長にはいつもお世話になってます」

 ごちっとした音は、恋次が食卓に額をぶつけたもの。
いててと眉をひそめ額に手をやる。






 まぁいいか・・・・・

その痛みも、久しぶりに見るルキアの笑顔にすぐに薄らいだ。




「ごめんなさいね。 話題の阿散井君にぜひ、お会いしたくって」
「わっ、話題って俺がですか?」

 あの隊長から、たとえ安全パイであっても、他の男の名などを奥方との話題に出すとは思えない。

 結構、いやかなり、我侭でやきもち妬き。


 ソレが恋次が知る白哉なのだ。
そして、それは、一番厄介で、一番好きな所でもある。



「ええ、ルキアのとの話にね」
「そっ、そんな事はありません。 姉様の思い過ごしです!」

 むきになって否定するルキアが、可愛いらしくて、もう少しからかってみる。

「そんな事ないわよ。 ほら、あの現世に居るっていう子 えっと・・・・・」
「一護っすか?」
「そうそう、彼も、良く出てくるのよ」
「ねっ、姉様!」


 さらに顔を赤くしてもの言いするルキアと、不機嫌を素直に表す恋次。

 そんな二人を、は羨ましそうに見つめた。









 食事は始まり、仲居が料理を並べる隙に、そっとルキアに耳打ちしする。

「上手くいってるじゃねぇか」
「当たり前だ。誰が、上手くいっておらぬと」
「だって、お前、さっき・・・・」
「私ではない!」


「ん? どうしたの?」

「あっ、いいえ、何でもございません」

 このばか者と足を蹴る。すると、俺の所為かと、不満顔。


「隊長には、ほんとお世話になりっぱなしで・・・」

 場を繕おうと話題を変える。

「そう・・・・・」






「・・・・・・・・」
「・・・・・・」





 「もしかして?」と、目配せすれば、「ばか者!」という視線が変える。

「いっ、いやぁ、隊長とは違って気さくなお方で、良かったす」

 義兄を引き合いに使われ、少々不満顔のルキアだが、には功を奏したらしい。



「いい教育係に恵まれたから」

 にっこり笑顔で返ってきた。



 そして、初めて義姉の生い立ちを知る事に。

 朽木家の嫁となるべく、教育係に指名されたのは、あの「四楓院 夜一」の乳母だった。

 その後、流言を避けて身を寄せたのが、浦原商店に居た夜一の所だったのだ。

 思わずぽんと手を打ちたくなる。
それほど、解かり易いの人格形成過程だ。
 気さくで少々気が強く、自由な気質は、まさに夜一譲りだった。

 しかし、その中に女性としての気品が漂うのは、『姫』として小さい頃から育てられた為だろう。
そこが、唯一、夜一譲りではない所。


 貴族の姫らしからぬこの女性(ひと)を、なぜ、嫁にしたか少し解かった気がした。








「なぁ、ルキア。 お前が考えたって仕方ねぇんじゃないのか?」
「それは、そうなのだが・・・・・」
「少なくとも、隊長は、心配ないと思うぜ」
「なぜだ? なぜ、そう思う?」

 食い入るような瞳に見つめられて、思わず顔が赤くなる。
照れ隠しに視線を外し穏やかな空を見上げる。


「なんつーか、最近、隊長、すんげー機嫌いいんだ」
「それは ・・・ 私も感じている・・・・・」
「だったら、それでいいんじゃねぇのか?」
「だが・・・・・」

 それでも、やはり心配で。
夫婦というには、あまりにも会話が少なすぎる。
 義姉が、必要以上の会話を、意図的に避けているのが容易にわかる。
 
 理由は、解からないのだが。





「男と女なんてもんわさ・・・・・ なる様にしか、ならねぇさ」

 身をもって知ってるからと、自分自身にも呟いた。
その時向けられた男の笑顔が、なぜだかとても安心できて。

 ルキアからやっと笑顔が零れた時、お待たせと、会計を済ました明るい声。

「ご馳走様っす!!!」

 深々と礼をして、じゃぁまたなと、くるりと走り出す。

 その後ろ姿に、ありがとうと呟いた。


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ヒロインの生い立ちの説明です(汗。
ほんのり恋ルキ風。
説明の割りに長くてすみません。


2006/2/20