4 優しい夢
鶯のさえずりを聞きながら、目覚めた朝。
――― 何年ぶりだろう
ルキアは、嬉しそうに微笑を浮かべながら、夜着を着替えた。
「おはようございます、兄様」
廊下で出会った白哉の後ろにの姿を探す。
「あの・・・・」
その時、楽しそうな笑い声が厨から聞こえてきた。
「あれは、姉様?」
不思議がるのも無理ない。
貴族の妻が、厨に入るなどあるまじき事だ。
「妻が夫の食事を作るのは、当たり前だそうだ」
無表情だが、怪訝な様子はない。
未だに、の行動には振り回される。
「そうですか・・・・・」
「どうした?」
楽しみだと言いかけたが、仕来りに背くこと賛同するのは憚られた。
「期待はせぬ方が良かろう。
現世でも、厨には、入った事が殆どないらしい」
楽しみでは有るがなと、一言付け加えた。
「?!兄様・・・・心得ました」
ルキアの笑顔に、口の端を少しだけ歪めた。
「・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・」
「どうしたの?さあ、どうぞ召し上がれ」
嬉しそうに微笑むに、ルキアは引きつり気味に手元を見つめる。
「ルキアも、剥き方知らないの?」
「いえ・・・・存じておりますが・・・・やはり、これは、現世で言う・・『ゆで卵』なのですね・・・・」
「うん、特製スペシャル固ゆで卵よ」
剥いたソレを、はいと白哉に渡しながら答える。
「朝食と言ったら、やっぱこれがなきゃね。
あっ、白哉、そっちのお皿に、白哉専用七味入りマヨネーズあるから、ソレつけてね」
「七味入り・・・・・」
「ルキアも欲しかった?」
「いえ!!!ごっ、ご遠慮いたします」
「まあ、最初はこんなもんでしょう。少しづつ頑張るからね。
ルキアもちゃんと覚えなさいよ。
恋次の給料じゃ、使用人は雇えないわよ」
の言葉に、一口かじったゆで卵を喉に詰まらせた。
「ねっ、姉様!なぜ、あやつが!!!」
「あれ?違った、じゃぁ一護?だったら、しっかり勉強させなきゃね。
せめて、医者か弁護士くらいには・・」
「姉様!!!」
「あはは、冗談、冗談」
真っ赤になって抗議するルキアの頭をポンポンと叩く。
昔、まだ、海燕がいた頃、よくしていた様に。
「戯けた事を」
「「 ・・・・・・ ・・・・・・」」
不意に響いた低音に、一瞬固まった二人だが、真剣そのものの白哉に、思わず吹き出してしまった。
「いやだ、白哉ったら、やきもち?大人げな〜い」
コロコロ笑うに、不機嫌そうな口元も次第に緩む。
つられて、ルキアもこらえきれず笑い出した。
「自分の笑い声で、目覚めるとはな」
障子の隙間から射す光に、目を細める。
笑いあいながら、楽しく食事をする。
そんな、当たり前の幸せも、そう遠くはないかもしれない。
ルキアは、ふと、見た夢に想いを馳せた。
2005/11/15
副題提供 「モモジルシ」様