2 淡い願い
窓の外を眺める白哉は、何を見つめているのだろう。
「兄様、りんごがむけました」
「・・・・ すまぬな」
ルキアの言葉に少しだけ表情が緩むが、視線はすぐに脇の一輪挿しへと向けられた。
「殿も、お忙しいのに毎日お見えになるのですね」
嬉しそうに微笑むルキアとは対照的に、表情が曇る。
「には、現世(あちら)で世話になったそうだな」
「はい。私の先生をでした。迷ってばかりいる私に、いつも優しい言葉で導いて下さいました」
「・・・そうか」
「・・・それに・・入隊されてすぐに、牢まで会いに来てくださいました。
拒むばかりの私を、優しく叱っても・・・」
ルキアの言葉に、少しだけ口の端が揺れた。
「よい香りがするな・・・」
「立派なりんごでしたから」
「りんごではない」
ルキアをじっと見つめる。
「?・・・・・」
「と似ている」
「! でしたらこちらです」
そう言うと、小さな匂い袋を見せた。
「先日、空鶴殿に会いに行くとき、殿から頂きました」
すぎた日を思い出す。
ずっと心に影を落とした志波家への訪問。
心を決めたはずなのに、足取りは重い。
「よく頑張ったね」
「?!殿」
「ルキアなら、絶対に来ると思ってた」
門に凭れていた体を起こすと、驚くルキアに歩み寄る。
「はい、お守り」
差し出された小さな匂い袋。
「特製、『ルキアの元気の元』よ」
「はぁ・・・」
「もしも、くじけそうになったら、思いっきり深呼吸してみて。きっと、落ち着くから」
そう言って、襟の併せに挟み込む。
仄かな香りがルキアを包み、柔らかいの手が、ルキアの頭を優しく撫でた。
「一人じゃないよ。応援してるから」
驚くルキアに、にっこり微笑む。
『一人じゃない』の言葉が、柔らかい香りとともにを優しく包んだ。
「お前を助けに来たと・・・あの一護とか言う少年と同じ事を言っておった」
「なぜ私などを・・・・」
「昔の自分に似ていると」
「そうですか・・・・・」
「どうした?」
「えい、こちらで殿とお会いした時、兄様の事を伺いました」
いつもの無表情でルキアを見つめた。
以前なら、冷たいと感じた視線も今では、兄らしいと思えるようになった。
「いつかは、殿を・・・・・」
言いかけて言葉を止めた。
それは、自分が口にする言葉ではないと思ったからだ。
「いえ、何でもありません。申し訳ありません」
「・・・とは、つつがないようだな」
白哉の言葉に、笑顔ではいと答えた。
自分一人では、こんな笑顔を浮かべさせる事など出来なかっただろう。
――― これで許してくれるか・・・・・・緋真
緋色に染まる空を見つめながら、想いを巡らせた。
副題提供 「モモジルシ」様