それを知ったのは、託された義妹に真実を告げる時だった。
私よりも、遙かに長い時を生きている人だから、不思議ではない。
むしろ、当然と言った方が良いのかもしれない。
彼には、妻がいた
もう既にこの世にはいない。
でも、何故、この胸は痛むのだろう。
1 激しい恋
市丸が出奔してから、副隊長であるイヅルは多忙を極めた。
もともと素質があり、市丸のサボり癖でかなり鍛えられていたので、仕事の段取はかなりいい。
しかし、生来の真面目さと小心な所為で、手抜きが出来ない分、仕事はたまるばかりだ。
まだ、入隊したてのだったが、その実力で、いつしかイヅルの秘書的な立場になっていた。
今日も、山積の書類をてきぱきとこなす。
「君、時間はいいのかい?」
が朽木邸の西の離れに住んでいるのは、周知の事。
屋敷の離れは、当主の特別な人が住まう事も、周知だ。
「ええ、もう少しキリがつくまで・・・」
「でも、面会に行かなきゃ・・・」
親切半分、白哉への遠慮半分な言葉だ。
仕事に私情を挟むのは良くないのだが、そこが、彼の持ち味でもある。
「ありがとうございます。 じゃあ、お先に上がらせてもらいますね」
にっこりと微笑むに、不埒にもドキリとしてしまった事を隠すように咳払いを一つすると、お疲れ様と声を掛けた。
後ろ姿を見送りながら、人生とは、不公平なものだとふと思った。
は、お見舞いの桔梗を一本持って、俯き加減で廊下を歩く。
イヅルが気を利かせてくれなければ、今日のうち見舞には行けなかっただろう。
見舞には、毎日行っている。
しかし、まだ、白哉とは言葉を交わしていない。
仕事の忙しさを理由に、彼の起きている時間に、面会に行ったことがないからだ。
ルキアに詫びながら手を差し出した後、その視線は、へと移された。
その時、自分は、どんな表情をしていたのだろう。
だた、白哉の瞳の色がとても深かった事だけ、憶えている。
一輪挿しに、まだ枯れていない昨日の桔梗と一緒に持ってきた桔梗を生けた。
仲良く寄り添う花にも、素直に微笑めない。
ベットの傍の椅子に腰掛けると、カーテンの隙間から零れる月明りに浮かぶ、きれいな横顔を見つめた。
「・・・少し、痩せたね」
そう言いながら、頬を優しく撫でた。
妻に迎えた人は、ルキアに良く似ていると言う。
きっと、自分とは違い、穏やかな女性(ひと)だったのだろう。
掟を破ってまでも、添い遂げたいと思うほど、愛していたのだ。
どんな表情で微笑んだのだろう・・・・・
どんな言葉を掛けたのだろう・・・・・
そして、どんな風に・・・・・・・・・ 愛し合ったのだろう・・・
瞬きをした時、涙が頬に零れた。
「・・やだ、私・・・・泣いてるんだ・・・・」
泣き笑いしながら、は拳で涙を拭う。
しかし、ぬぐっても止まらない。
「・・・・どうしちゃたったんだろう・・・・ほんと・・・変だな・・・止んない」
それからしばらく、は声を殺して泣いた。
2005/9/17
副題提供 「モモジルシ」様