*過去拍手文に掲載の団地妻ゾロシリーズの続きです。







チャイムの音を耳を塞いでやり過ごしてから、ゾロは長いため息を吐いた。この時間にここを訪れる者が誰かなど、もちろん嫌というほど知っている。
そのままソファで五分ほど待って、ゾロはようやく重い腰をあげた。足音を殺して、玄関へと向かう。ドアの向こうの気配が無いことを確認してから、小さな穴に片目を近づけた。
歪んで映る視界のなかには誰もいない。また漏れた息は、安堵のためばかりでないのを自覚している。
「――何やってんだ、俺ァ……」
ドアの前でかがみ込んで郵便物を確認する。ミホークあてのいくつかの封書や葉書とともに、その見覚えのある白い封筒はあった。
いつもと同じだった。封はされていない、表書きもない。玄関で立ったまま、ゾロは中身をあらためた。丁寧に四つ折りにされた紙を開いていく。ふわり、と香った覚えのある匂いに肺が軋んだ。
やはり目に痛いくらい白い便箋、青い文字で、「あなたに会いたい」とだけ書かれている。これも同じだ。あのいつもの、ひとの話をまったく聞こうともしない饒舌さからほど遠い簡潔な文面は、だからこそ心に真摯に響くものがある。
「……俺だって、」
ゾロは呟いて、けれどその続きを無理に呑みこんだ。
俺だって会いたい。顔が見たい、声が聞きたい、触れたいし、触れられたい。けれど自分がそう思う気持ちと、サンジのそれはおそらく異なっている。
もう一度、それ以上何も語らない紙を眺めてみる。
右下の隅には、あなたのサンジ、とやはり青い文字で記されていた。


最後にサンジに会ってから、もうすこしでひと月になろうとしている。あのときまでゾロは、思い込みの激しいサンジが、てっきり自分を家庭持ちだと勘違いしているのだと思っていた。それでもなお自分を好いていて、だからこそ苦しんでいるのだと。
ところがだ、ゾロが懸命に誤解を解こうとしても、サンジは己にとって普通なら喜ばしいはずの事実を受け入れようとしなかった。いや、受け入れようとしない、というよりも、わかっていてわからないふりをしているようにゾロには思えた。
そこから導かれる結論は一つだった。要は、ゾロが誰かのものであったほうがよいわけだ。奥さん、という単語のどこか淫猥な響きにあの男は酔っているだけなのだ。そしてそれはつまり、相手はゾロでなくてもよかったわけだ。
ゾロは、サンジでなければあんなことは誰にも許さないというのに。
「――情けねえ」
サンジではなく、自分のやり口にゾロはそう呟いた。
じかに終わりだと告げればいいのに、会えばあの押しの強さに負けてしまう気がして逃げている。腰が砕けるような甘い声で囁かれて、色素の薄い宝石のような瞳で見つめられれば、最後まで抗いきる自信がゾロにはないのだった。
いつのまにかこれほど惹かれている。どこに、と言われると、自分でも首を捻らざるを得ないのだが、言葉に出来ない感覚的な部分だとしか言いようがなかった。
きっとまた同じだ、凶暴なくらいの快感を教え込まれた体は、とろとろに蕩けさせられて、ついにはサンジを受けいれてしまうだろう。そうして、これまでよりもっとひどい醜態をさらしてしまうのだろう。
いくつかの記憶を思い出し、それだけで体の芯がじわりと熱を持つ。らしくもない自分に苛立ちを感じ、ゾロは舌打ちをして部屋に戻った。
朝から閉めっぱなしにしていた、狭いリビングのカーテンを開ける。気分を変えるためにそこからベランダに出た。サンジと出会ったころには若芽だった木々の葉が、初夏の陽射しに濃い緑を力づよく茂らせている。湿気を含んだ風を感じながらふと下を見たとき、道路に佇みこちらを見あげる男の存在にゾロは気がついた。
いつからそこにいたのだろうか、ずっとこの部屋を見つめていたのだろうか。葉影に色を落とした金糸はそれでも十分に目を引いた。いつだってゾロを翻弄する罪作りな唇は、今はきゅ、ときつく結ばれている。眉根は憂うように寄せられて、けれど目尻は慈しむように撓んでいた。
ゾロは何かに動きを奪われたように立ち尽くした。
「……サンジ」
唇は勝手に動いた。つぶやきに近いその声が聞こえるはずも無いのに、サンジはふいに駆け出した。レストランではなく、ゾロのアパートに戻る方角へ。
残像がいまだ見えるかのように呆然としていると、やがてチャイムの高い音が鳴った。ゾロはようやく正気に戻って、それから窓を閉め玄関へと走った。
ドアを開ける。昼下がり、いつものように黒いスーツの男が立っている。
しかしいつもと違うのは、きれいに整えられていた髪が乱れ、汗で額にべたりと貼りついて、完璧な笑顔を浮かべているはずの顔がいまにも泣き出しそうに歪んでいることだった。
「ゾロ」
はじめて名を呼ばれた瞬間、ゾロは自分からサンジの手首を掴んでいた。まったく馬鹿げている。これだけで十分だと思えたのだ。たとえ思いの質が違ったとしても、こうしてサンジが自分を求めてくれるならそれでいい。
「なかに入れ」
「ですが、」
「いいから、入れ。入らねえなら今すぐ帰れ」
サンジは躊躇うように視線をふらと揺らがせ、それから、わかりました、と静かにうなずいた。
サンジが靴を脱ぐのもそこそこに、ゾロはその手を引っ張るようにして自室へ向かった。もちろん、玄関より先にサンジが足を踏み入れるのは初めてだった。薄い布団が敷きっぱなしになっている、そこにもつれるようにして二人倒れこんだ。
ゾロはサンジのネクタイに手を伸ばしそれをほどいた。サンジはいつだってきっちりとスーツを着込んだままだったから、ゾロがこうするのも初めてのことだ。
「奥さ、」
言いかけて、しまった、と思ったのだろう、サンジが口を噤む。ゾロはその髪に手を入れて梳いた。汗で湿った髪が、指の股をくすぐるように撫でていく。
「そう呼んでもいい」
「え?」
「お前が、呼びてえんならそれでいい。ただひとつだけ聞かせてくれ」
「……なんでしょう」
「俺はてめえが好きだ、てめえだけだ。他の誰のモンでもねえよ。それでもいいか」
サンジは目を見開き絶句した。薄青の澄んだ瞳の中央にはゾロが映っている。は、と息を吐き、信じられないな、とサンジは片手で顔を覆い、軽く何度か頭を横に振った。
そうして、その手を外すと、ネクタイにかかったままだったゾロの指にそっと指を絡めた。
「――当たり前です」
長い睫毛が伏せられ、濡れた唇が近づいてくる。
「俺もあなたが、……あなただけが好きだ」
息が頬にかかる距離で震える声でサンジは言った。それを聞いたとき、あのとき愛してると言ったサンジの言葉が事実であることが、理屈ではなくゾロには伝わった。
サンジは誰でもいいわけではない、もちろん、ゾロが誰かのものであることを望んでなどいない。むしろもしゾロにちゃんと決まった相手がいたら、そしてそれがゾロにとって幸せな形であったなら、サンジはこんな関係を迫ってなどいなかっただろう。
そこまで考えて、ゾロはすとんと腑に落ちた。
サンジは単に、ほんのすこしばかり歪んだ性的嗜好の持ち主であるだけなのだ、と。
「ほんとうに、いいんですね。あなたを俺のものにしても。……この、ご主人との愛の巣で」
――奥さん。
サンジが耳元で低く囁く。
背徳の炎が身を焦がしはじめるのを、たしかに、ゾロは感じていた。


やはり靴下だけは残されたままだった。サンジと会わなくなった後も、ゾロは習慣のように白い靴下を履いていた。いまになって考えれば、こんなふうにもう一度、サンジと睦びあう日を待っていたのかもしれなかった。
陽のあたる布団の上にゾロは仰向けになっている。窓のない玄関よりもずっと明るい場所で、サンジにすべてを晒していた。汗ばむほどの陽気だ、窓は開いたままだった。せめてカーテンを、とゾロは言ったけれど、奥さんのすべてが見たいんです、とサンジは聞き入れようとしなかった。
ひさしぶりですから、と指と舌で入念にほぐされて、ゾロはそれだけで何度かいきかけていた。
腹につきそうなほど猛った、触れられもしないゾロの花芯は蜜を零しつづけ、とろとろと光りながら腹に流れ落ちている。
「この布団で、毎日寝ていらっしゃるんですね」
「そ、うだ、……ふ、う、ァ」
「俺のことを考えて、自分で慰めましたか?」
ここを、と囁いて、サンジは秘所に深く挿した二本の指をぐるりと回すように動かした。ぐじゅ、と音がして、ああ、と堪えきれず高い声をゾロは漏らした。
してねえ、ときれぎれに言えば、そう、我慢してたんですね、とサンジは微笑む。苛むような指の動きとは裏腹の優美な笑みに、ゾロの全身を甘い官能が駆けめぐる。
足がびくびくと痙攣し、水のようなものが勢い弱く穴から零れるのが自分でも見えた。
「またこんなに漏らして……いけない奥さんだ」
「は、ん、ちがっ」
「違わないでしょう?シーツまで汚してる」
長い人差し指が、ぴん、とゾロのものを弾いた。ふるりと震えた先端から飛沫が飛んで、ゾロは羞恥に顔を横向けた。尻の下の布がじっとりと湿っているのがわかる。
こっちもよく見せてください、そう低く言い、サンジはゾロの股をさらに大きく開かせた。腰が浮きあがり、膝が床に触れる。ゾロはくしゃりとシーツを握りしめた。
いつもは隠された場所が、ぐしょりと濡れているせいもあってすうすうとするのが心もとない。指は入ったままで、サンジの息が敏感な粘膜にかかり、ひくひくと誘いこむ動きをしてしまう。
サンジ、とねだるような、自分でも呆れるほど甘ったるい声が出た。
「どうされました?」
「じ、ろじろ見んな、あ、」
「どうして?こんなに愛らしいのに」
「――……は、ずかしい」
「恥ずかしいのがお好きでしょう」
ゾロが歯を食いしばれば、サンジはくすりと笑った。
「いつ見てもきれいな色です、あなたのここは」
感心するように言われ、頬がかっと熱くなった。体液で汚れた指先で乳首をねちこくこねられて、ゾロはとうとう射精してしまった。
後ろでサンジの指を貪欲に食いしめながら、濃い液体をどくりと放出する。それは首の辺りにまで降りかかり、ゾロは頭の芯が灼ききれるような快楽にただただ翻弄された。汗と混じった青い匂いが立ちのぼる。
あ、あ、と甲高い声が出て片手で唇を塞いだ。いつのまにか唾液がこぼれている。ふうう、と獣じみた熱い息がてのひらに零れる。
「煽られてばかりですよ。あなたのように魅力的なひとを、俺は他に知らない。会えない間、毎日あなたのことばかり考えていた。……気が狂いそうでした」
切なげに言うサンジを、滲んだ視界のなかゾロは捉えた。
サンジの青いストライプのシャツは肌蹴ている。そこから覗く陶器のように美しい白い肌と、胸から腹にかけて意外なほどしっかりと浮いた筋肉を目で追った。
ゾロは震える指を伸ばした。汗の浮いた薄い皮膚は、想像どおりの吸いつくようななめらかさだった。桃色の乳首がぷくりと隆起して、サンジの欲情をゾロに教えてくれる。
ゾロはさらに手を下に滑らせた。髪よりも濃い色の下生えのその先、雄々しく反りかえった硬い男根を握った。ああ、とサンジが吐息を漏らす。
自分以外の男のものになど触れたのは初めてだ、とゾロは思った。それよりも前に口のなかに押し込まれ、射精までされたことはいまは忘れていた。
はやく欲しかった、繋がりたかった。
「サンジ、……もう、」
言いかけたゾロの唇に、そっとサンジが指を押しあてた。
あなたにそれを言わせるわけにはいかない、とサンジは沈痛な面持ちで言った。すべては俺の責任です、そう言って軽くまぶたを伏せ、世界中の悲劇を一身に負ったようにため息を吐いた。
ゾロは何も言わなかった。性癖にとことん付きあってやることに決めたのもあるが、サンジの態度があまりに真に迫っていて、だんだんとほんとうに自分が不義を働いているような気にすらなっていた。
「奥さん、――あなたとひとつになりたい」
指が引き抜かれ、サンジの先端があてられる。凶暴な熱がじわじわとひだを掻きわけて、己を犯す感覚にゾロはのどを反らした。
長いことかけて慣らされたそこは、たしかに違和感と痛みも伴いはしたけれど、けなげにサンジを最奥まで迎え入れた。ちょうどそのとき、南風が吹き込んで、小さなテーブルに飾られた花がゾロの純潔を惜しむように、はらりとその花弁を静かに散らした。
とうとうサンジと結ばれたのだと、思えばゾロは胸が詰まるような感じがした。
「……は、すごい、あなたはやはり最高だ」
「サン、ジ、う、ッ」
「――つらくはないですか?」
「大丈夫、だ」
「しばらく、痛みが和らぐまでこうしていましょう」
サンジは優しい口調で言い、ゾロの目尻に浮かんだ涙をぬぐった。それから身を折って、あやすようなくちづけを仕掛けてくる。
声を漏らしながら舌を吸いあった。ぴったりと肌を合わせてそうしていると、だんだんと体の強ばりがほどけ、繋がった場所がうごめきはじめるのがゾロにはわかった。
違和感はやがてあからさまな快楽へと変わっていった。まるで何かを注がれているように、そこからじわじわとせりあがる痺れに、呼吸が早くなり体温があがっていく。気づけばじっとしたままのサンジの腰を腿で挟み、動きを促すように腰を揺らしていた。
少し萎えていたゾロの欲望は、いつのまにかまたきつく育っている。サンジの腹にあたった幹が濡れそぼり、ゾロが動くたびにきゅ、きゅ、と先端がこすれる音がする。
「ん、っ、んあ、ァ」
「気持ちよくなってきましたか?」
「……さん、じ、ィ、も、動い、なん、かっ、へん、ッ」
「ほんとうにかわいいな、あなたは」
陶然とした顔でサンジはそう言い、ゾロの両手を己の腰へと回させた。質の良さそうな、柔らかで弾力のある筋肉に包まれた腰はきっと強靭だ。
それにめちゃくちゃに突かれることを想像してゾロは乱れた。いまだ動こうとしないサンジの腰を引きつけるように強く掴み、尻を浮かせもっと速くすりつける。自分でも湿るようになった粘膜が、みだらな音をさせてサンジをむさぼっている。
「ああ、……とても素敵です、奥さん。しかしご主人が妬ましい、あなたをこんないやらしい体にしたご主人が」
「ば、……ア、あ、あっ、」
こんな体にしたのはお前だろうと、指摘を入れる余裕さえゾロは奪われていた。情欲に朱を刷いたサンジの、自分を見下ろすそこだけは涼やかな青にこの痴態をすべて見られている。そう思えばますますゾロは昂ぶっていった。
サンジ、サンジ、と請うように何度も名を呼んだ。
「あ、あ、う、ぅン、も、いっち、ま、う、ぁ――」
あと少しで登りつめそうになった瞬間、ずる、と引き抜かれる感覚にゾロは首を横に振った。いや、いやだ、と駄々をこねるように言う、ゾロの頬を生理的な涙が流れ落ちる。
抜ききる寸前で、サンジは動きを止めた。頬を指先で愛おしげに撫でて、目を細めてゾロを見つめる。
「あなたを、心から愛してる――ゾロ」
「――っ!!」
名を呼ぶと同時、サンジが一気に突き入れた。ゾロは全身を強ばらせ、声もなく白濁を撒き散らした。そのまま深く突かれて絶頂は続き、ゾロを愉悦の泥沼へと引きずりこんだ。
膝立ちになったサンジに尻を持ちあげられて、上から杭でも打つように深く穿たれる。口が開きっぱなしになって、ゾロは嗄れそうなほど声をあげた。窓が開いているのはもう頭から消えていた。
激しく腰を打ちつけられ、互いのしとどに漏らす体液が絡んで、ぱちゅ、ぱちゅん、と聞いたことのないような音が耳をも犯し、ゾロは何度も高みへと駆けあがった。
「は、ア、奥さん、奥さんっ、」
「さっ、んじッ、う、うあ、あ」
低く呻き、腹の深いところでたっぷりと吐き出される。そこから灼熱がゾロの体をいっぱいに満たし、ゾロもまたきついオーガズムに為すすべなく身を跳ねさせた。
ぽたぽたと顔に落ちてくるサンジの汗と、後ろからごぽりと漏れる残滓を感じながら、ゾロはサンジをきつく抱きしめて意識を飛ばした。



髪を撫でる優しい感触にゾロは身じろいだ。
瞼を開ければ、いつのまにかサンジは服を着ていた。いつものように隙のない着こなし、ゾロがあれだけ乱した金髪もなにごともなかったかのように整えられている。
見下ろせば、ゾロの体もきれいに拭われていた。まるですべてが夢かまぼろしだったようにも思えてくる。けれど、腰のあたりにわだかまる重いような痺れが、サンジとの激しい情交の名残りを残していた。
起きあがろうとするとうまく力が入らなかった。無理をさせてしまいましたね、とサンジが心配げな顔をする。
ゆっくりと半身を起こし、ふと時計を見れば、もうすぐ夕刻になろうという頃だった。陽が傾き、部屋のなかは最後の記憶よりもずいぶん翳っている。サンジは昼休みを使ってここに来ていたはずだった。
「……お前、レストランは」
「連絡して、今日は夕方まで休みをもらいました」
「すまねえ」
「いいえ、謝らないで下さい。あなたのそばを離れがたかったのは俺のほうです」
さきほど猛々しいほどに激しくゾロを抱いた男とは思えないほど、柔らかな表情に目を奪われる。サンジ、ともう一度名を呼んで、ゾロはその黒衣の胸に顔を埋めた。もう覚えてしまった、思い出すたび胸を焦がすサンジの匂いがする。
気持ちを確認しあって体を繋げたせいなのだろうか、今日は格別に離れがたかった。こんな思いは、これまで誰にも抱いたことがなかった。
らしくねえ、とゾロはいまさら自嘲する。ゾロの物思いを察したように、背中にサンジの手がそっと回された。
「どうかしましたか?」
「今度はいつ会える」
「あなたが望むときに、いつでも」
俺はあなたのものだと、そう書いていたでしょう。
服越しに鼓膜を震わす声は、やはり甘く響いてゾロを痺れさせる。
「ただ、ひとつだけお願いがあるんです」
その言葉にゾロが顔を上げると、美しい微笑みを浮かべサンジは軽く首を傾げた。さら、と夕映えを湛えた髪が揺れる。
「今度会うときには、これを」
言ってサンジはスーツのポケットから、きれいに折りたたまれた布をすっと取りだした。手渡され広げてみれば、それは、繊細なレース編みフリルがふんだんにあしらわれた可愛らしい白いエプロンだった。
ゾロはサンジを見つめた。
「……サンジ」
「――奥さん」
サンジはゾロの手を包みこむように握り、靴下だけは履いたままでお願いします、と囁いた。







(12.12.30)



web再録集で書き下ろした団地妻シリーズの3話目。
読み返して、ふざけてしかいないな、としみじみ思いました。