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泣きボクロ 2 ………………………………
 何が楽しくて、こんな場面に遭遇しなくてはならないのだろうか。
 遠ざかるタクシーを眺めながら、裕太は呆然としていた。
「なあに? 結局、今夜の一押しは蓮川がお持ち帰りしちゃったワケ?」
 イチコの明らかに面白がっている声が、明るく響く。
 お持ち帰りした、と言ってもドーナツやハンバーガーや、まして、寿司折でもない。今夜合コンに来ていた女の子の中で一番可愛かった彼女の事だ。
「悔しいけど、しょうがねえだろ? 女は、ああ言う男が好っきなんだよなあ・・・でも、ムカつく! 誰だよ、アイツ呼んだの」
 忌々しげに呟いているのは隣の研究室の男で、確か須藤とか何とか言ったような気がする。少し軽薄な風貌と言えないことも無いが、決して顔は悪くない。どころか、逆に、女受けしそうなタイプだった。
 が、しかし。
 蓮川と一緒に並べると、正直言って見劣りする。顔の作り云々ではなくて、雰囲気なのだろうか、漂う男の色気、とでもいうのだろうか。
 女に興味ありません、といったような素っ気無い態度すら、彼女達にとってはたまらない魅力らしい。
「何よー。蓮川呼ぶと、女の子が釣れるから呼べって言ったの須藤でしょー?」
 イチコが少し機嫌を損ねたように言い返すと、須藤は慌ててヘラヘラと笑って見せた。怒りの矛先を誤魔化そうと、今度は裕太に視線を移す。
「一宮はー? 気に入った子いなかったの?」
 須藤に尋ねられ、裕太は上の空で、
「・・・いい。いない。俺・・・帰る・・・」
と呟いた。
「あれ? もしかして落ち込んでる? もしかして、香織ちゃん狙いだった? 蓮川、すっげ、ムカつくよな」
 すっかり誤解して、思い込んでいる須藤が話しかけてくる内容も頭に入ってこない。
 香織って言うの? あの女? 
 顔すら良く覚えていない女を思い出しながら、裕太は唇を噛み締めた。
(知ってたけど。知ってたけど、蓮川ってサイテー。)
 心の中で毒づいてみても、悔しさや、悲しさは少しも和らぐことは無い。涙さえ出そうになって、裕太は慌てて頭を振った。
「俺。ちょっと酔ったみたい。帰るわ」
 辛うじて、そんな言葉だけを告げて、返事も聞かずにその場を後にする。駅の改札を過ぎて、最終の電車に飛び乗りドアが閉まった次の瞬間、堪えきれずにジワリと涙が溢れた。
 そもそも、最初からあんなロクデナシに何かを期待する方が間違っているのだ。こんな事で傷つくなんてバカらしい。
 必死に言い聞かせても、酔いのせいで涙腺がバカになっているのか涙は止まらなかった。



* * *


「あのさあ・・・俺と蓮川って何なの?」
 いつだったか、セックスの後で美味そうに煙草を吸っていた蓮川に尋ねた事があった。
 蓮川は、セックスの後に必ず煙草を吸う。裕太自身は煙草を吸わないから近くで煙草を吸われるのは余り好きではない。けれども、何度かなし崩しに裕太のアパートでセックスをした後で、蓮川は当たり前と言った顔で灰皿を持ち込んだ。
 ただ、一応、家主に気を使っているのか吸う時は必ず換気扇の下で吸う。
 もっとも、狭い1Kのアパートでそんな微々たる気を使ったところで効果の程は疑問だったが。
 蓮川は、上半身裸のままジーンズだけをはいただらしの無い格好で、ぐったりとベッドに突っ伏している裕太の方に振り返った。
 正直言って、セックスの後は指一本すら動かすのが億劫になる。蓮川のセックスはいつでも意地悪で、しつこくて、長くて、しかも恐ろしく的を得ていて気持ち良過ぎる。
 やめるにやめられないタチの悪い麻薬みたいなセックスだと裕太はいつも思う。
「何って?」
 蓮川はキッチンの流し台に腰を預け、寄りかかったまま首を傾げた。そんな姿さえさまになって、裕太はつい見とれてしまう。着痩せするせいで、思ったより華奢な印象を受けてしまうその上半身は剣道をやっていたせいなのかどうなのか、バランスよく筋肉がついていてきちんと引き締まっていた。
 だらしのない格好をして、しかも、セックスの直後だというのにどうして、この男はこんなに欲望にまみれる事の無い聖人君子みたいに見えるんだろうかと裕太は遣り切れない気分になる。
「だから。俺と蓮川の関係って何?」
 遣り切れない気分のまま、投げやりに言い捨てると蓮川はらしくもなく、驚いたように目を見開いた。けれども、それは一瞬だけの事で。
「セフレだろ」
 いともあっさりと言い切った時には何の感慨も無い冷めた表情に戻っていた。

 セフレ。

 裕太の中で、その言葉がグルグル回る。一体、自分はどんな答えを期待していたのかと思わず溜息が零れた。
『恋人』だとか『付き合っている』だとかそんな甘い答えなんて返ってくるはずが無い。それは分かっていたはずなのに、なぜだか、ジクジクと胸が痛んだ。
(何か、泣きたい。)
 ベッドに沈み込んだまま、落ち込んでいると、いつのまにか煙草を終えて戻ってきた蓮川の声が上から追い討ちをかける。
「何だよ? 一宮だって好きなんだろ? 俺とセックスするの。いっつもアンアン気持ちよさそうによがってるもんな」
 小馬鹿にしたように言われて裕太は腹が立った。「俺が好きなのはセックスじゃない」と言い返しそうになって、「じゃあ何が好きなんだ」と自問してその答えに至った途端にどん底まで落ち込んだ。
 救えない。
 救いようがない。
 最低最悪。
「何だよ? 黙り込んじゃって。もしかして怒ってるワケ?」
「・・・別に怒ってない。蓮川の言うとおりだよ。どーせ俺は気持ち良い事が好きな淫乱です。セックス好きの変態だよ」
 吐き捨てるように言い返すと、蓮川は歪んだ奇妙な笑いを浮かべた。
「だよな。一宮、俺じゃなくても気持ちよければ誰でもいいんじゃないの? もしかして?」
 よりによってお前が言うか! と叫びたかったが、裕太は黙り込んだ。
 こんな鬼畜で性悪でロクデナシの男と関係を持った時点で、これくらいの仕打ちは覚悟しておくべきだったのだ。一体、何の因果かと自分を呪ってみたが、結局、感情をコントロールする事なんて出来なかった。
「・・・そうかもね。俺、眠いから寝る」
 それ以上、会話を続けたら泣き出して、とんでもない言葉を喚きそうで、それが怖くて裕太は目を閉じる。頭の上で、小さく溜息を吐く音が聞こえて、隣に体温が滑り込んできた。
 こんな風に後ろから抱き込まれると、もう、何もかもがどうでも良くなってしまう。裸の背中に直接触れてくる体温が、裕太を骨抜きにして、どうしようもないバカにしてしまうのだ。
(ホント、俺って救いようが無いバカ。)
 分かっていても。
(バカは死んでも直らないって言うし。)
 セフレだろうが何だろうが。
 自分の中の負の感情には蓋をして、裕太は背中の体温に体を預けて考える事を放棄した。



* * *


 蓮川はとにかくもてる。
 蓮川自身は、別段、愛想が良い訳でもないし、ノリが良いわけでもない。話し掛けやすい軽い雰囲気かといえば決してそんな事はない。無愛想、とまでは行かなくともどちらかというと素っ気無い男に分類される。
 背も、低くはないが特別高いというわけではない。容姿はそれなりに整ってはいるが、華があって目立つというよりも、極々平均的な形のパーツがバランスよく配置されているだけで、案外、特徴の無い顔立ちだ。
 それなのに、目を引く。
 姿勢の良さと、硬質な雰囲気、それと泣きボクロ。
 それらが、強烈なエッセンスになって女心をくすぐるらしい。
 ちょっとやそっとのことじゃ決してなびかない、その身持ちの硬さも女にとっては魅力らしい。
 しかし、その点については裕太は激しく反論を唱えたいとかねがね思っている。
 身持ちが固い、と言うのはあくまでも大学内だけの話だ。外に出た途端、これほどいい加減な男はいないと断言できる。裕太が蓮川と関係を持ってかれこれ二ヶ月近くが経つが、その間に、裕太は蓮川が女と絡んでいるのを五回見た。しかも全部違う女だ。
「二ヶ月の間に五人だぞ、五人!」
 蓮川に連れて行かれた、路地裏の、どこかアングラな雰囲気のあるクラブやショットバーで、まるで裕太に見せ付けるかのように手馴れた態度で女をあしらう男。
 普通の学生が出入りするには些かいかがわしいような雰囲気の店に、当たり前のように出入りする蓮川を、裕太はさすがに最初、驚きの目で見ていたが、蓮川の本性を知れば知るほど、そんな店の空気が蓮川には似つかわしく思えてくる。
 遊び慣れた男を裕太の目の前で演じるのは、「お前も単なる遊びの相手」と牽制しているせいなのか。
 好きだとか、惚れたはれたなどという態度を表に出した途端、鬱陶しがられて突き放されてしまうような気がして、裕太は不安だった。細心の注意を払って、深入りしていないような素っ気無い態度を取ってみせる。
 そうしている間は、少なくとも蓮川が言う所の「セフレ」の位置はキープできると思ったからだ。
「大概、俺もケナゲだよな・・・ソレもコレもあんな性悪に引っかかったのが運の尽きっつーか」
 自分に言い聞かせるように独り言を漏らしてみても、昨晩の女の子とどうなったか気になって仕方がない。昨夜は二度ほど蓮川の携帯に電話をかけたが、二度とも電源を切られていた。
 酔っ払って気分が悪いから送って欲しいと、か弱い女を演じて蓮川にしなだれかかっていた香織という名の女の子。あからさまに、蓮川に媚を売って秋波を飛ばしていた。誰が見てもはっきりと分かる態度だったのに、敢えて送っていったという事は、蓮川も承知していたという事なのだろう。
 無意識のうちに小さな溜息が零れる。
 気になるのなら、「寝たのか?」と尋ねれば良いのだろうが、肯定されたら恥も外聞も無く蓮川を責めてしまいそうでとても聞けない。
 どうしようもない不毛な感情に囚われている。
 ふと、研究室の窓から外を覗けば、研究棟に向かって歩いてくる蓮川の後姿が見えた。
 相変わらず、ピンと伸びた背中。
 真っ直ぐに伸びたその背中が裕太は好きだった。その背中にしがみついたり、爪を立てるのが堪らない。
 あられもない恥ずかしい格好をさせられたり、恥ずかしい事を言わされたり、もう二度とコイツとセックスするものか、と思うくらいギリギリの限界まで追いやられても。
 情事の後ですらピンと伸びた綺麗な背中を見ているだけで、何もかもが許せてしまう。
 腕時計を覗けば午前十時を過ぎている。
「重役出勤かよ・・・」
 ブツブツと零しながら、昨夜の事を邪推してしまう自分がいる。
「・・・何だかな・・・」
 背凭れにだらしなく体を預けると、古い回転椅子がギっと音を立てた。



* * *


「今日、来いよ」
 週一の研究報告会のための資料をまとめていると、突然、上から声が降ってきた。顔を上げれば、裕太の席のすぐ隣に蓮川が立っている。相変わらず立ち姿が綺麗で、不意打ちに現れたその姿に裕太は一瞬ぼうっとしてしまう。そんな裕太の視線に気がついて、蓮川は微かに眉を顰めた。
「・・・ンだよ。そんな顔して人の顔見て。誘ってンの? ここで犯して欲しいって?」
「なっ! バッ!」
 余りに不穏な事を言われて、裕太は研究室内を慌てて見回したが、幸いな事に全員出払っていて、室内には裕太と蓮川しかいなかった。
「一週間もご無沙汰だから溜まってんだろ?」
 あけすけに言葉を投げかけられて、裕太は顔に火が付いたかと思った。確かに、最後に蓮川と寝たのは一週間前だったが、それにしても、そんな言い方はデリカシーが無さ過ぎると情けなくなってくる。
 それに。
 自分は一週間ぶりでも、蓮川はどうだったのか疑わしい。
『昨日の今日でよくやる気になるな、お前も大概スキモノだな』と喉まで出掛かって、すんでの所で何とか止めた。そんな嫉妬交じりの嫌味は蓮川が一番嫌うような気がしたからだ。それでも、素直にうんと頷く事が出来ずに黙り込むと、蓮川はらしくもなく苛々したようにチっと舌打ちをした。
 どうやら、機嫌が悪いらしい。
 蓮川が裕太を誘う時は、割とダイレクトに言ったりするが、どちらかといえば裕太が恥ずかしがるのが面白くて態とそういう言い方をする節がある。こんな風に、苛々をぶつけるような言い方は、初めてのような気がした。
「ユウタ」
 不意に耳元に顔が寄せられ、耳を舐め嬲るように囁かれて、裕太は思わず体を硬直させた。
「来るだろ?」
 酷く優しい声で蓮川は言った。裕太を見詰める蠱惑的な瞳。そのすぐ下には小さな癖に大きな存在感を主張する泣きボクロ。

『泣きボクロのある男は性悪。』

 全くその通りだと思いながら裕太は体の力を抜いた。
 本当にどうしようもない。心が囚われて逃げる事が出来ない。雁字搦めに絡め取られて、面白いように転がされる。魅入られた奴隷みたいなものだ。
「・・・良いよ」
 小さな声で諦めたように返事をすれば、急に、子供みたいな嬉しそうな顔を見せる。
 そんな表情を見せるのは反則だと心の中で毒づきながらも、引き寄せられて目が離せない。
 どうしようもなく自分はバカだ、と思いながらも、胸が痛くなるほど目の前の男が好きだ、と、裕太は感じた。



* * *


「・・・ンッ・・・アッ、アァッ・・・ンッ、アアッ!」
 ギシギシと激しくベッドが音を立てている。
 体のあちこちが悲鳴を上げて限界を訴えていた。幾ら一週間ぶりで、明日が休みだといってもやりすぎだと文句の一つでも言ってやりたかったが、そんな事が許される状況ではない。
 四つん這いに這わされて、後ろから腰を掴まれて、ガンガン突かれまくっている。裕太の口から漏れるのは押し殺そうとしても漏れてしまうあえぎ声だけだ。
 蓮川にしては珍しく、余裕の無い態度で、ただひたすら激しく責め立てて来る。もう、これで三度目で、いくら蓮川といえどこれで最後だろう。否、最後だと思いたい。半ば願うように身を任せる。
 シーツを掴もうとした手がズルリと滑る。縋るものが無い心もとの無さに不安になって、裕太は必死で身を捩った。後ろ手に自分の腰を掴む蓮川の腕を掴むと、それまで狂ったように裕太を追い詰めていた動きがピタリと止んだ。
「・・・何? 痛い?」
「・・・ちが・・・・ンッ・・・たいせ・・・体勢・・・変えて・・・」
 息も絶え絶えに懇願すると、蓮川は訝しげに眉を顰めた。
「・・・顔・・・見たい・・・・」
 こんな甘ったれた声で、媚びるような顔で、女みたいな事を言う自分が、もう、どうしようもない所まで落ちてしまったのだと思ったけれど。
 蓮川は、ふっと、優しげな笑みを浮かべて、器用に、繋がったまま裕太の体を上手に裏返した。
「アンッ!」
 その拍子に、敏感な部分に引っ掛かって甘ったるい声が零れてしまう。こんなのは自分の声じゃ無い、と激しく主張したかったが、呼吸もままならない状態ではそれも適わない。
 蓮川はニヤニヤとしたイヤらしい笑いを浮かべて、
「エロい声。ほんっとユウタってタチ悪いよな」
とからかって来る。言い返したくても、裕太には出来ない。ベッドの上での主導権はいつだって蓮川にあるのだ。
 悔し紛れに蓮川の背中に手を回し、ギュッとしがみつく。どさくさに紛れて爪を立ててやると、蓮川が痛みに顔を顰めたが、腕をはずそうともしなかったし、裕太を咎めもしなかった。
「・・・達く時にキスしようぜ」
 ただそう言って、再び枯渇を潤そうとするかのように律動を再開する。
 裕太をじっと見下ろしてくる目は普段のストイックな雰囲気などかなぐり捨てたように情欲に濡れていた。
 全て明け渡せと、その目が強請る。
 急に激しく唇を塞がれて裕太は、抗う事など出来ずにその身を投げ出した。
 唯一の抵抗のように、蓮川の背中に強く爪を立てたら、蓮川は色っぽい表情で眉を寄せた。この感触なら、きっと傷がついただろう。暫くは跡が残るに違いない。その間は、他のヤツと寝れねえぞ、ザマアミロ! と思ったら少しだけ溜飲の下がる思いがした。

 裕太が残した傷跡が消えるまで、この綺麗な背中は自分だけのものなのだ。



* * *


「・・・疲れた・・・」
「そりゃお疲れ様」
 ぐったりと体を横たえたまま、恨みがましい目を蓮川に向ける。けれども、蛙のツラに何とやらで一向に気にする風も無い。軽い調子で笑いながら煙草を吸っている。
「・・・なんか、甘いもの食いたい・・・」
 蓮川に言うつもりではなく、独り言を漏らしたつもりで言ったのに、蓮川は何も言わずにひょいと立ち上がると冷蔵庫の中から何かを取り出して戻ってきた。
「・・・ハーゲンダッツのロイヤルミルクティー?」
 意外なものでも見るように裕太は蓮川を見上げる。確か、蓮川は甘いものは苦手で、アイスだのプリンだのの類は家に常備していないはずだ。
「・・・何でこんなモンがあるワケ?」
 よもや、自分の前に来た女が置いて行ったのではないかと穿った見方をしてしまう。訝しげな表情で蓮川を見上げていると、返ってきたのは意表をついた言葉だった。
「何だよ。いらないの? 一宮が好きだと思ったから用意しておいたのに」
「・・・え?」
 裕太は特に甘いものが好きなわけではない。が、最近、ハーゲンダッツのロイヤルミルクティーだけは特別で、ハマっていた。けれども、それを蓮川に言ったことがあっただろうかと首を傾げる。
「いらなきゃ捨てろよ。俺食わないし」
 少し拗ねたように言われて、裕太は胸の奥がくすぐったいような気がした。
「や。コレ好き。ありがと。でも、俺、これ好きだって蓮川に言った事あったっけ?」
「いや」
「・・・何で知ってんの?」
 首を傾げて裕太が尋ねると、蓮川は悪戯っぽい笑いを浮かべて見せた。
「そりゃ、愛だろ、愛」
 軽々しく言われた言葉に裕太はがっくりと脱力してしまう。これだから、蓮川は憎めない。タチが悪い。こんな軽い一言で、簡単に自分を縛り付ける。
「あっそ。それはどーも。俺も愛してる」
 ベリベリとアイスのパッケージを開きながら、半ばヤケクソの気分で同じくらい簡単に軽く言い返してやれば。
 蓮川は酷く驚いたような顔で目を大きく見開いていた。けれども、それは一瞬の事で。
「・・・すげえエッチ臭い光景」
「へ?」
 スプーンを咥えたまま顔を上げれば、蓮川がニヤニヤと笑っている。
「いや。アイス舐めるたびに一宮の舌がチラチラ見えるのがさ。すげーエロい。俺、また勃ちそう」
 からかうように耳元で囁かれて裕太は顔を真っ赤にする。
「なっ! ・・・・これ以上やったら、俺は死ぬぞ!」
 真っ赤な顔のまま本気で訴えると、蓮川は楽しくてしょうがないと言うように声を上げて笑った。



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