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『076:影法師』B ……………


「オハヨウゴザイマスッ!」
 朝の教室で、あの狐のお面の少年と、葦原レナの言葉をぼんやりと考えていたときだった。バンっと机の上を平手で叩かれて、乱暴な挨拶を投げられる。少しだけ驚いて顔を上げると、面白くなさそうな顔でアカネが僕を見下ろしていた。
「…君ね、挨拶するならそれなりの言い方があるとは思わないかい?」
「アンタに挨拶してやっただけでもありがたいと思いなさいよ」
 アカネは割と男子に対しては誰でもキビしい態度を取るけど。それにしても、大して親しくもなっていない内からこの態度は酷いんじゃないか?
「…そりゃどうも。ところで、君、僕のこと嫌いなの?」
 敢えて、無表情で尋ねてやる。
「好きじゃないわ。何か、ムシが好かないのよね、アンタって」
「…そう。正直は必ずしも美点じゃないって知ってるかい?」
 にっこり笑って言ってやったが、アカネは僕の言葉を無視して、僕の前の席の椅子を引くとヒョイと跨ぎ、僕の方を向いて座った。…スカートなのに下品な奴。
「アンタ」
「君に、アンタ呼ばわりされる筋合いはないよ」
「……じゃ、名波和」
「呼び捨てされる筋合いもないけど?」
「うっさいわね! 呼び方なんてどうでもいいのよ!」
 逆ギレされて、呆れた。
「あんた、ちょーのーりょくがあるんだって?」
「……はあ? 誰が?」
「違うの? ユーレーとか、そーゆーのが見えるんでしょ?」
「…それって、超能力って言わないんじゃないの?」
「だから、呼び方なんてどうだって良いって言ってるでしょ! アイツと同じで変な力があるんでしょ」
「アイツって?」
「葦原レナよ! 物わかりの悪い男ね!」
 いちいち、アカネの暴言に反応したりムッとしていては神経が持たない。周りで騒いでるのは鶏、鶏、と、僕は頭の中で繰り返す。
「もし、変な力とやらがあったらどうするんだい? 魔女裁判にでもかけるつもり?」
 嫌みったらしい声を演出して言ってやると、アカネは少しだけ鼻白んだようだった。
「…そんなんじゃ無いわよ。…ちょっと聞きたいんだけど、そーゆーのって、ゆーれーと交信したりとかって出来るわけ?」
「はあああ?」
 朝っぱらから何が言いたいのか全く分からず、僕は大げさに首を傾げて見せた。顔を顰めてアカネの顔をじっと見ると、きまりが悪そうにフイ、と視線を逸らす。
「…君、何が聞きたいんだい? はっきり言ってもらわないと分からない」
「…だから、ユーレーと話をしたり出来るのかって聞いてるのよ」
 今度は、珍しく、自信なさげに小さめの声で答える。僕は、アカネの意図を図りかねて首を傾げた。
「出来ると何かあるのかい?」
「出来るの?」
 今度は、ぱっと、僕の顔を見て目を輝かせる。一体、何だ?
「…したことは無いけど……」
「なによ! 出来ないの?」
「……あのね、下手に話を聞いて上げたりすると、付いてくる質の悪い霊とかもいるんだよ」
 憮然として言い返す。すると、今度は少しだけ顔色を青くした。ホントに、一体、何なんだ?
「祭りの時のって、悪い霊なワケ?」
「いや? っていうか、あれは霊なのかどうかも良く分からないけど? それが何か?」
 アカネは、またもや、らしくもなく、戸惑ったようにあちこち視線を泳がせる。
 しばらく、逡巡した後、ポケットに手を突っ込み、無造作に、バンっと僕の机の上に一枚の写真を置いた。
「…気になったから探してみたのよ。コレ」
 そう言って、指さされた写真は小さな子供が何人かで写っているものだった。
 夏祭りの時にでも取ったのだろう。みんな、まちまちの浴衣を着ている。その中には、知った面影が幾つもあった。アカネと、鈴置、飛田もいる。その後ろに並んで立っている大人達は、みんなの親なんだろう。
 だいたい、5、6歳の時くらいに撮ったらしいけど、この頃から既に性格が顔に出てるのがおかしい。
 何の気なしに写真を眺めていると、ふと、一人の少年の所で視線が止まった。小さな身体に少し大きめの藍色の浴衣。浅黄色の帯。頭にはぶかぶかの狐のお面。下駄の上にちょこんと乗った彼は、恥ずかしそうにはにかんでいた。夕べも会ったばかりの、あの少年。
「…これ…?」
 僕が、戸惑ってアカネの顔を見上げると、アカネも戸惑ったような表情をしている。微かに覗いている不安の色は、一体、何を恐れているのだろうか。
「…おかしいでしょ? この写真を撮ったの、10年近くも前の話よ? でも、祭りの時の子、コイツだった」
「…みたいだね。驚いた。…もしかして、コレが、『石塚紅葉』?」
「…そうだけど、何で?」
「葦原さんにも言われたんだ。あの子と『石塚紅葉』が関係あるって」
「…そう…アイツには分かってたんだ……」
 アカネは、ふと、何とも言えない寂しそうな、それでいて怒っているような複雑な表情を浮かべたが、すぐにそれを振り払って、僕の顔を見つめた。
「ねえ、死んでないのに、ゆーれーが出る事ってあるの?」
 眉間に皺を寄せながら、らしくもなく控えめに尋ねてくる。ああ、不安なのはそう言うことか。
「今は、病気で入院してるんだろ? 死んだなら学校にも連絡が来るはずだし、彼が亡くなったってことは無いと思うけど?」
「でも、ムシの知らせとか聞くじゃない? 死ぬときに会いに来るって」
「う〜ん。でも、『あれ』はそう言うのとは違うと思うけどね。第一、何で、子供の姿で現れなくちゃならない?」
「それは…分からないけど……」
「彼は死んでないよ。『あれ』は、死霊なんかじゃない。そんなに悪いもんじゃなかった」
 僕は、根拠のない確信でもって言い切った。そう、彼はそんな存在ではなかった。少し、寂しげな表情や空気を纏うことはあったけれど、決して後ろ暗さや禍々しさなど微塵も感じさせなかった。
「どちらかというと、思念が具現化したものというか、そんな風だった。彼、病気なんだろ? 『学校に戻りたい』って気持ちが形になっちゃっただけじゃないかな?」
 慰めるような気持ちで、少しだけ口調を柔らかくして告げると、アカネは不意に顔を歪め、今にも泣き出してしまうのではないかというような表情を見せた。
「自殺した人間が、戻りたいなんて思うと本気でアンタは思うワケ?」
 吐き捨てるようにアカネは僕にぶつけた。僕は驚いて思わず目を見開く。
「…自殺?」
 アカネの言葉を頭の中で反芻して、思わず眉間に皺を寄せると、アカネは挑むような表情で僕を下から睨み付けた。
「そうよ。アイツは自殺したのよ。みんな知ってるわ。死にきれなくて昏睡してるなんて、中途半端なアイツらしくて笑っちゃうわ」
 地の底を這うような低い声でそう言ったアカネは笑っていた。酷く、暗い笑い顔。何かに引きずり込まれかけている。絶望と憤りが周りを取り囲んでいる。辛辣な言葉は、『石塚紅葉』という少年に対して言われたものだったが、彼女の憤りは彼にではなく自分に対して向かっていた。自虐的とも言える内向する負の空気。
 僕は、反射的に、彼女の周りの黒ずんだ空気をパンっと手で払った。
 ラップ音のような音が鳴って、近くにいた生徒が驚いてこちらを振り返ったが構ってはいられなかった。
「ダメだよ。引きずられちゃ」
 語調を強めて僕はアカネを窘めた。
「何で? 何で、アンタに付いてきたのよ?」
 冷静さを欠いた感情的な声。黒い空気は少しは薄れたが、泣き出しそうな表情は変わらなかった。いや、既に、この時に、泣いてしまっていたのかもしれない。
「死にたいほど辛いことがあるんだったら、アタシ達に言えば良いじゃない。何で、そんな勝手なことするのよ、バカ紅葉!」
 そう、言い捨てると、彼女は耐えきれないと言うように立ち上がり、そのまま教室から走り去ってしまった。周りの人間が好奇心の眼差しで、残された僕を見つめている。僕は、気まずい気持ちでさりげなく教室を見回す。洞木さんが心配そうな表情でこちらを見ているのが分かった。鈴置と飛田は、無表情で教科書に目を落としていて決してこちらを見ようとはしなかったが、眉間には皺が寄っていて、何だか怒っているようだった。葦原レナは何を考えているのか、興味なさそうな表情で窓の外を眺めていた。
 僕は、椅子の背もたれに身体を預けて、大きな溜息を吐く。
 酷く、厄介なことに巻き込まれてしまったらしい、と、ようやくその時に理解した。



「ちょお、顔貸せや」
 放課後の教室で、帰り支度をしている時だった。鈴置に、尖った声で呼び止められる。顔を上げると、怒ったような表情で、僕を見下ろしていた。何を怒っているのか、大体の見当が付いて僕は、内心、溜息を落とす。
 アカネに続いて、今度は鈴置かと思いながら腹をくくった。
「なんだい?」
「余計なこと、詮索するなや」
 出し抜けに鈴置は言い捨てた。僕は、大仰にため息を吐いて見せる。
「僕が詮索していた訳じゃない。アカネが勝手に言ってきたことだよ?」
 僕がうんざりしたような口調で言い返すと、鈴置は僕の机の前で腕を組み、仁王立ちしたまま、僕の顔を睨み付けた。けれども、僕にはそれを受けてたつ理由がなかった。いつもと同じ表情で鈴置を見上げていると、毒気を抜かれたのか、鈴置は顰め顔を微かに緩める。
「…お前、何を探っとるんや?」
 訝しげな表情で鈴置は尋ねる。自分から尋ねておきながら、鈴置は答えを知っているかのような不安な色をその顔に浮かべていた。らしくない。鈴置のイメージには似合わない不安な表情は、やはり、『石塚紅葉』という少年に向けられたものらしい。
「だから、僕が探っているわけじゃなくて、君達が僕を巻き込んだんだろう?」
 僕は、努めて冷静に言葉を返す。そう。僕が、じゃない。君達が、だ。
「君達は、僕に何をして欲しいんだい?」
 同じ言葉を小さな少年にも投げかけた。あの言葉を投げたのはほんの昨夜の話だ。
 鈴置は何とも表現の仕様のない複雑そうな表情を浮かべ、少し小さめの声で
「別に、お前にして欲しい事なんか…」
 と、言い淀んだ。
 嗚呼、また。
 僕は、短くため息をつくと鈴置の周りに付きまとう空気をパンっと払う。朝、アカネの周りを囲んでいた空気と同じ空気。
「だからさ。何で、君達はそうやって引きずられるんだろうね? 紅葉って子は本当に自殺したのかい?」
「違う! 紅葉は自殺なんてしてへん!」
 教室に響き渡るような大声でタケルは答えた。表情は怒っているようだったが、けれども、その声は泣き声みたいな必死な声だった。鈴置は眉を寄せ、暫く僕を睨み付けていたが、不意に踵を返して背を向けた。
「…くだらん言いがかりつけてスマンかったな。忘れてくれや」
 力無く鈴置はそう言うと、そのまま僕を振り返らずに教室を出て行った。僕は、その背中を見送りながら大きなため息をつく。
 何の綻びも無い、気の置けない仲間同士。他人事に余り興味を示さない性質の僕でさえ羨ましく思うような良い関係に見えていた彼らには大きな落とし穴が開いている。
 落とし穴の名前は『石塚紅葉』と言うらしい。



 鈴置に呼び止められていたせいで、いつもよりも帰宅時間が少し遅くなっていた。
 昨日と同じように、やはり、僕は帰る途中で神社に立ち寄り、うんざりするような長い石段を登った。大きな赤い鳥居をくぐり、昨日と同じ境内の一角に腰掛けて既に薄暗くなった公園を見下ろしていると、隣でカランと下駄の音が響く。
 いつの間にか、狐のお面の小さな頭が隣に腰掛けて足をブラブラさせていた。
 僕は、その小さな頭にちらりとだけ目をやり、すぐに公園のほうに目を戻す。今日は、もう既に帰ってしまったのか子供たちの姿は一人も見当たらなかった。
「君は、僕に何をして欲しいんだい?」
 僕は、ごくごく自然に、まるで日常会話を友人と交わすような口調で昨日と同じ質問を投げかけた。
「別にして欲しい事なんて無いって言った」
 ぶっきらぼうな口調で答えが返ってくる。まるで、拗ねた子供のような表情。何かが欲しいくせに欲しいとは言えない子供のような。けれども、その『何か』が僕にははっきりとは分からない。分からないから僕にも、彼にも答えを見つけてあげることは出来なかった。
「それは、嘘だね」
 僕はなるべく穏やかな口調になるように気をつけて言葉を返す。白いお面が夕闇に奇妙に浮かび上がっているのを不思議な気持ちで見つめた。
 少年は、その小さな頭をピクリとも動かさずに、ただひたすら公園を見続けている。僕の指摘に肯定も否定もしなかった。
「名前なんて無いって言うのも嘘だ」
 少し身を乗り出して少年の顔を覗き込んだが、彼は公園を睨み付けるように見下ろしたままで、決して僕と視線を合わせようとしない。
「当たってるだろ? 『石塚紅葉』君?」
 問いかけは宙に溶ける。彼は、僕がそう呼ぶのを、もう、ずっと前から知っていたかのように驚きもしなければ、動揺もしなかった。ただ、強張った表情で前を睨み付けている。意固地になって、口を噤んでいる子供そのものだ。
「本当の君は、どこにいるんだい?」
 答えなど期待していなかったが、案の定彼は沈黙を続けた。
「何で、自殺なんてしたんだい?」
 答えは無い。けれども、僕は超能力者ではないから、何のヒントも無しにパズルを解くことは出来ない。
「答えてくれないなら、もう来ないよ?」
 態と、ほんの少しだけ声を硬くして言うと、今まで無反応を装っていた少年は弾かれたように僕の顔を見上げた。不安げな表情。今にも泣き出しそうなその黒くて大きな瞳とは裏腹に、その小さな口は堅く引き結ばれている。まるで、痛いのを無理に我慢している子供のような表情に、僕の胸の奥の方がカリカリと引っ掻かれた。
「自殺なんてしてないよ」
 聞こえるか聞こえないか位の小さな声での答えは、けれども、静まり返った境内には響きすぎるようにはっきりと聞こえた。
「でも…」
「自殺なんてしてたら、こんな風に出て来れないの、君の方がよく知ってるだろう?」
 口の端を少し上げて、人を小馬鹿にするように答えた彼は、決して小さな子供ではなかった。大人びた表情。大人びた口調。僕と同い年の。
 この時になって、僕は、漸く『本当の彼』の端っこを捕まえた。けれども、本当に端っこだけだ。
「そうだね。その通りだね」
 僕は軽く目を伏せて、彼の言葉を肯定する。
 自殺してしまった人は、確かに、彼の言葉通り「実像」を結べない。僕とその小さな手を繋いだと言うことは、彼は実像を結んでいるのだ。それは、即ち、彼が自ら現実世界から逃避したと言うことを否定する。
「それでは、質問を変えよう。君は、僕に何をして欲しいんだい?」
 彼は、淋しそうな瞳で誰もいない公園をじっと見つめていた。口の端を僅かに上げ、何とも表現のしようがない複雑な笑みを浮かべて、沈黙を守る。
 ふと、舞い込んできた確信。
 僕は、態と大袈裟な溜息を一つ吐いて見せた。
「なるほど。それが僕に課せられたパズルって事だね」
 戯けたように言ってみせると、彼は漸く僕の方を見上げた。瞳にはやはり、少しだけ寂しさの色が浮かんでいたけれど、さっきよりは明るい表情を浮かべていた。
 彼は、その小さな身体をしならせて、勢い良く座っていた石段の上から飛び降りる。
 地面に着地したときに、下駄がカランと小気味のいい音を立てた。
「じゃあ、また、明日も来るんだぞ」
 相変わらずの横柄な口調でそう言うと、彼はくつくつと鈴が鳴るように笑った。子供らしい、あどけない顔。
 ころころと表情を変えるその少年が、少しだけ憎らしく思えて、けれども、そのあどけなさが僕に不思議なくすぐったさを与えたから、ふと、意地悪を思いついた。
「鈴置と、アカネがね。怒ってたよ」
 僕がニヤニヤしながら告げると、少年は眉を顰めて、叱られた子供みたいなバツの悪そうな表情をした。
「そうだと思ったよ」
 それから、肩を竦めて溜息と一緒に、
「だから、戻りにくいんだよな…」
 と、小さな声で漏らした。
 その言葉が、なぜか僕に微かな嬉しさを与える。
 そして、僕には、彼らの青い影を払えるに違いないという自信も同時に与えた。
「この次は、答えを持ってくるよ」
 僕が、ひらひらと手を振りながら言うと、彼は、少しだけ顔を赤くして、むくれたような表情を見せたが、すぐに踵を返してカラカラと下駄をならして走り去った。
 小さな、藍色の背中が夏の宵闇に溶けて消える。
 遠くには、ヒグラシの声。
 夏休みが来る前に。
 僕は、彼を連れてこようと心に決めて、不思議に暖かい気持ちで神社をあとにした。







 トントン、と軽く机をノックする。
 帰り支度を始めていたその机の主は、ふと顔を上げ、僕の顔を見ると、不機嫌そうな表情になった。相変わらずの良いご性格で。
「何よ。何か用?」
「ちょっと、聞きたいことがあってさ」
 そう言いながら、アカネの前の席の椅子を引いて、後ろ向きに座る。この間と逆の位置。
「別にアタシは、用なんか無いわよ」
 この間の一件でバツが悪い気分なのか、そう言って、アカネはすげなく席を立とうとした。けれども、僕はアカネの腕を取った。
「まあ、良いから座りなよ」
 少し強引にアカネの腕を引くと、さらに、ムッとしたようだった。
「まあ、聞けって。君たちの『お願い』とやらを聞いて上げるつもりなんだからさ」
 僕が笑いながらそう言うと、アカネは、気味悪そうな表情でストンと腰を下ろした。
「アンタ、悪いものでも食べた? 何で、そんなに機嫌がいいワケ? 気持ち悪い。大体、アタシはアンタにお願いなんてしてないわよ?」
「石塚紅葉」
 僕が一言だけ告げると、アカネは不意に表情を変えた。訝しげに眉を寄せて、僕を睨み付けたけれど、そんなのは少しも怖くなかった。
「何の話よ。この間の件だったら悪かったわね。忘れて」
「それが、忘れるわけにはいかなくてね」
「…どういう意味?」
「戻ってきて欲しいんだろ?」
 僕が半ばからかうような口調で尋ねると、アカネは眉間の皺を更に深くした。
「あんな奴どうでも良いって言わなかった?」
 予想通りの反応に僕は思わず苦笑いしてしまう。
「そう言うとは思ったけどさ。石塚紅葉君は戻りたいって言ってるんだよね」
 僕がふざけた口調のまま答えると、アカネは眉間の皺をふっと解き、無表情のまま僕の目をじっと見つめた。
「…ふざけてるなら、アタシは帰るわ」
 冷たい口調で告げると席を立とうとする。けれども、僕は、やはりアカネの腕を取って強引に席に座らせた。
「良いから座れって。ふざけてなんかない。大真面目だよ。僕なら出来る。君たちはそう思ったから僕に色々ふっかけたんだろう?」
 今度は、僕もふざけた表情はやめた。真剣にアカネの顔を真っ直ぐ見つめると、アカネはしばらくの間、らしくもなく逡巡していたが小さな溜息をふっともらした。
「アレ、やっぱり紅葉なの?」
 話が早いのは、アカネも薄々何かを感じていたからなのだろう。険の取れた眼差しで戸惑ったような視線を僕投げかけてきた。
「そうだとも言えるし、違うとも言える。でも、そんなことは今は重要じゃないんだ。僕は、知らなくちゃならない。彼のことを」
「そうすれば、紅葉が『戻って』来るってワケ?」
「上手く行けばね」
「…何が。何が知りたいの?」
 半信半疑、と言った表情で、けれども僕の言葉を無下に否定することはなく訝しげな表情でアカネは尋ねてきた。
「何で、彼は『自殺』したんだい?」
 恐らく、もっとも確信に迫るであろう質問をはっきりした口調で尋ねた時だった。バンッ! と大きな音を立ててアカネの机が揺れた。不意に、僕とアカネの間に入り込んできた腕を驚いて見上げると、鈴置が猛然と怒った表情で僕の顔を睨み付けた。
「余計なこと、詮索すんなって言わへんかったか?」
 怒りを押し隠しもしない声と表情で鈴置はすごんだが、僕は少しも怯まなかった。怯むどころか都合が良い。
「丁度良いから、鈴置も隣に座れよ」
「もう一遍言うで? 余計なこと詮索すなや」
「『これ』は余計なことでもなければ、好奇心で詮索している訳でもないよ」
「なんやて?」
 僕は、全く後ろめたさのない気持ちで鈴置の顔を真正面からじっと見つめる。
「話しくらいは聞いてやれば? 名波が言ってるの、ウソじゃないとオレは思うけどね」
 後ろから、あっけらかんとした声が聞こえて、飛田が頭の後ろで腕を組んだままこちらにふらふらと近づいてくるのが目に入る。
「啓! お前も余計な口出すなや!」
「ってか、この場合、余計な口を出してるのはタケルだろ?」
 鈴置の怒りを肩で空かして、軽い口調のまま飛田は答える。それから、僕らの座っている机の隣の椅子を引くと、僕と同じように椅子を跨いで後ろ向きに座った。
「ま、カリカリしないでタケルも座れよ?」
「うっさいわ! 大体、こいつは紅葉のことよう知らん癖に、妙なちょっかいかけよってからに…」
「鈴置! アンタの方がうるさい!」
 アカネが一喝すると、鈴置は、うっと一瞬言葉に詰まる。
「名波みたいなタイプは、外面愛想がいいけど実は他人に無関心なタイプで放っておくと誰とも仲良くなれないから、夏祭りに誘ってやれって言ったのはタケルだろー?
 そういう名波センセが好奇心とかで紅葉のこと探り入れたりしないと思わん?」
 どこか人をからかうような口調で飛田が告げると、鈴置は急に顔を赤くして
「なっ! ちゃうで! ワイは、そんなこと言ってへん!」
 と、まくし立てる。
「熱血漢の鈴置センセは、顔に似合わずお優しいお人ってワケェ」
 アカネがニヤニヤしながら鈴置を見上げると、鈴置はうっさい、そんなんやないとまくし立てたが、先ほどの勢いは削がれたようで、アカネの隣の席の椅子にドサリと腰掛けた。
 僕は、意外な気持ちで思わず鈴置を見やる。そんな風に自分を見ている人間がいるというのが初めてのことで、しかも、飛田が言った言葉があながち的外れでもなかったから鈴置に対する認識が急に変わった気がした。
 飛田が、鈴置を「意外とデリケート」と評していたのを思い出し、態度がぶっきらぼうな割に、人のことをきちんと見ている奴なんだと少しだけ感心した。
「僕のこと誘ってくれたの鈴置だったのか」
「ちゃうって言ってるやないか!」
「まーたまた。タケルってそういうの好きだよな。紅葉が人見知りしてなかなか輪に入って来れなかった時もちょっかい出したのタケルだったしな」
「そーそー。男らしくて優しくて素敵! って女子にも大人気」
「それはホンマか? 南! ?」
「ウソに決まってるじゃん。何信じてんのよ」
 アカネがべーっと舌を出しながら答えると、鈴置はがっくりと肩を落とした。
 僕は今までアカネと鈴置はウマが合わなくて仲が悪いのかと思っていたけど。
「なんだ。結構、仲が良いんだ」
 僕が表面上しか見ていなかっただけだったのだ。人に対して無関心でいると色んな事が見えない。時として本当に大事なことさえも見逃してしまうのかもしれない。
「仲が良いって誰と誰がよ? もしかして、アタシとこのバカのことじゃないでしょうね! ?」
「仲が良いやて? ワイか? ワイとこの凶暴女の事か?」
 二人同時に言い出すものだから、僕は思わず吹き出してしまった。
「撤回。『結構、仲が良い』んじゃなくて、『とても仲が良い』」
 僕が笑ったまま言ってやると、今度は二人同時に「冗談じゃ無い!」と言い返すから、飛田までゲラゲラ笑いだしてしまった。
「まーまー。脱線すんのはそれくらいにしろよ。で? 名波は紅葉の何が知りたいんだって?」
 飛田が話を本筋に戻すと、アカネと鈴置も、不意に表情を変えて、神妙な面持ちになった。
「取りあえず、なぜ、彼が自殺なんてしたか。かな」
 同じ質問を僕が繰り返すと、三人とも口を噤み、誰かが口を開くのを待っているようだったが。
「…分からないわ」
 と、力の抜けたような声で結局アカネが答えた。
「分からない?」
「…紅葉って、そう言うところ変に頑固って言うか。あんまり、人に悩みとか相談する奴じゃ無かったから」
 アカネは、ふと目を伏せて少しだけ淋しそうな表情になる。
「そうなんだよな。どうでも良いことは言う癖にな。肝心のことは言わなかったりするんだよなー」
「…水くさいやっちゃ…」
 不満そうな表情で、鈴置がぽつりと漏らした。
「ただ……」
 アカネが言いにくそうに言い淀む。
「ただ?」
「……前から、お父さんと上手く行っていないってのはみんな知ってたわ」
「ん。あんまり、仲が良くないんだよな。親父さん、殆ど家にもいないみたいだし」
「昔はそうでもなかったんや。紅葉のお袋さんが死んでから、な…」
「彼の母親って死んでるのかい?」
「ああ。事故でな。紅葉が幾つの時だっけ?」
「五つやったか、六つやったか…六つやな。夏祭りの直後やったから紅葉は六つになっとった」
 鈴置の言葉に僕はピンと来る。以前、アカネに見せてもらった夏祭りの写真。彼が子供の形で僕の前に現れた事。そして、誰も迎えに来ないと青くなると言った訳。
「じゃあ、彼と彼の父親はそれからずっと上手く行って無かったって事なのかい?」
「上手く行ってなかったって言うか…紅葉のお父さんって仕事でずっと都会の方に行ってるから、殆どほったらかし状態だったのよ」
「それだったら、急に親子不和が理由で自殺するってのはおかしいんじゃないのかい?」
「それが、最近、色々あったみたい。お父さんが都会の方に紅葉を呼ぶとか何とか言ったらしいわよ。ホントに勝手な父親」
 呆れたような口調でアカネが言い捨てる。
「紅葉は行きたく無いって漏らしてたことあってさ。それで、親父さんとやりあってる、ってのはちょっと聞いた」
「普段は、父親らしいこと何もせえへん癖に、こっちの言い分も聞かんで勝手に自分の都合押しつけてくるてボヤいとったな」
「…なるほど。何となく分かった」
「分かった? って? 何が?」
「んー。僕と同調してしまった理由、かな」
「同調? ?」
 三人が不思議そうな顔で僕をじっと見つめてくるのを、軽く手を挙げて制する。こういうことを言葉で説明するのは難しい。きっと、葦原レナなら理解できるんだろうが。
「何でもない。こっちの話。で、どうして自殺してない彼が自殺したって話になってるのかを聞かせてもらえるかい?」
 含みのある口調で僕が尋ねると、三人は三人とも訝しげな表情を浮かべ僕を見た。
「…自殺じゃないって何で分かるのよ」
「せや。大体、何で、お前は全部分かっとるみたいな顔しとるんや? なんや、気に食わん」
 これも説明するのは難しい。僕は、つくづく自分の持つ特殊な能力は厄介だと思わず苦笑した。
「説明するのが難しい。きっと、葦原レナに聞けば分かる。彼女に聞いてくれ」
 僕が、そう言って逃げを打つと、鈴置とアカネは眉を顰め、面白くなさそうな顔をした。賭けても良い。きっと、二人は葦原レナに尋ねたりはしないだろう。本当に、彼らの関係は面白くて飽きない。
 こんな風に、誰かに関心を持って、関わりたいと思うのは僕にとって初めてのことだった。
「逆に聞きたいけど、どうして君達は彼が『自殺』したと思っているんだい?」
「ワイは紅葉が自殺したなんて思ってない」
「でも疑ってる。だから、怒っているんだろう? 南も。
 彼が自分達に何も相談しないで一人で思い詰めたと。君達が怒っているのはそこだ」
 僕が指摘すると、二人は口を噤み、飛田はヒュウと口笛を鳴らした。
「素晴らしい洞察力で」
 からかうように茶化して飛田は言った。
「君もね」
 間髪入れずに言い返してやると、今度は戯けた顔で肩を竦める。彼らの中における飛田のポジションも面白い。
 きっと『石塚紅葉』に一番近い所にいるのが鈴置とアカネで、だから、この二人が一番引きずり込まれかけていた。飛田は僕みたいな能力はないけれど、鋭い洞察力があるから何かを感じ取って、一番近い外側から冷静に判断して彼なりに対処してきたのだろう。
「結論から言う。石塚紅葉は自殺なんてしていない。何で、自殺したと君達は思った?」
 アカネは、一瞬僕の目を見つめ、それからふと視線をずらして俯いた。
「……睡眠薬」
「え?」
「……紅葉が救急車でかつぎ込まれたとき、睡眠薬が転がっていたって」
 アカネは俯いたまま、らしくもなく小さな声で答えた。前髪が邪魔で彼女の表情は伺うことが出来ない。けれども、また、引きずり込まれかけている。本当に手間のかかる連中だ。僕は、苦笑しながら嫌な空気をパンっと右手で払う。その音に驚いてアカネは顔を上げたが、その瞬間に見えた彼女の瞳は揺れていた。
 虚勢のない、不安げな瞳。
 本当に、羨ましくなるような関係だと、僕は素直に思う。
「それで? 警察とか、病院の人間は睡眠薬自殺だって君達に教えたのかい?」
「いーや。階段踏み外して、頭を打って意識不明になったって聞いたぜ?」
 あっけらかんとした口調で飛田が漏らしたのを聞いて、僕は思わず吹き出してしまった。『彼』をからかう理由が出来たと内心ほくそ笑む。今度、あの生意気な口を、閉口させてやろう。
「じゃあ、その通りなんだろう。睡眠薬を飲んだのは単に眠れなかったからじゃないのかい?」
「せやかて! 普通、そんなアホなことするか?」
「するんじゃないのー? 紅葉、ドジな所あるじゃないか」
「…そうよね…今まで、いくらアイツでも、そんな馬鹿なことする訳無いって。きっと、本当は自殺したから、警察も病院もそれを隠すためにそんな馬鹿みたいな理由を作ったんだって思ってたけど…」
 アカネが眉を寄せて、難しそうな表情になる。普段は、頭が良い癖に仲間のことが関係すると冷静な判断が出来なくなるのかもしれない。思ったより、可愛い奴なんだと思った。
「第一、自殺だったら警察がまず最初に、イジメが無かったかとか学校に調べに来るとか、思わないのかい?」
 僕が苦笑いしながら指摘してやると、三人は一斉にはた、と顔を上げ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたが。
「…そうやな…ちょお、よお考えれば、分かるわ……」
「何で、自殺だなんて思いこんでたのかしら……。っていうか、普通、そんな馬鹿な理由で意識不明になるなんて思わないわよ! 馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど、ここまで馬鹿だとは思わなかった! 何か腹立ってきた! バカ紅葉! !」
「っかー…ホンマや! …なんで、アイツはそないにドジなんや……」
 二者二様の反応を示している二人を苦笑いしながら見ていたが、ふと、飛田が何か考え込んでいる様子なのに気が付いた。
「何か気になるのかい?」
「……自殺はともかく、紅葉が起きない理由が分からない」
「起きない理由」
「紅葉が起きないのは物理的要因ではなく精神的外傷による。って医者は言ってたぜ?」
「精神的外傷?」
「そ。つまり、『起きたく無い』って現実を拒絶してるから起きないって事。
 南もタケルも安心したみたいだけど、自殺じゃ無かったって分かっても何の解決にもならないだろ?
 紅葉が目を覚まさないことには変わりないんだぜ? 大体、論点がズレてる。南とタケルが怒ってたのは、紅葉が『現実を拒絶』するほど何かに悩んでいたのに、何も話さなかったって事だろ? 未だに、俺達は紅葉が何に、そんなに思い詰めていたのか分からないんだぜ?」
 切り捨てるような口調で飛田が言い、それを聞いた二人はまた、沈み込む。やれやれ、だ。冷静なように見えても、やっぱり飛田も「身内」だから、彼の所行には些か腹を立てているらしい。
「意外と、飛田も熱いな。もっと、ドライな奴かと思ってたけど」
 僕が苦笑いしたまま言うと、飛田は怪訝そうな表情で僕を見上げ、眼鏡の端を軽く上げた。
「何で理由が分からないのか、そっちの方が僕には分からないな。答えは、君達がさっき言っていたじゃないか」
 僕が含み笑いを乗せた口調で告げると、三人は顔を見合わせた。案外、近すぎるから分からないのかもしれない。灯台もと暗し、とはこのことだ。
「父親と一緒に都会に行くのはイヤだ、って彼は漏らしたんだろ? つまりさ、裏を返せば、君達とずっと一緒にいたいって事じゃないか。でも、父親はそれを許さない。無理を通すにはどうしたら良いか? ずっと寝ていれば良い。そういう図式だろ?」
 僕が笑いを含ませて言ってやると、今度は三人ともが訝しげな表情になった。
「そんな単純な理由なワケないじゃない…」
「そうや、名波、お前、短絡すぎるんとちゃうか?」
「そうかな? 案外単純なもんだよ? 切羽詰まった人間の思考なんて。まあ、いずれにしても、僕としてはパズルが解けたから用事は済んだ」
 僕は、ゆっくりと、一人一人の顔に目をやる。アカネと鈴置はまだ疑わしそうな表情で僕を睨んでいたが、飛田だけは視線を上の方に向けて、何か思案しているようだった。
「石塚紅葉を連れ戻してやるよ」
 僕は確信を持って告げる。アカネと鈴置はやっぱり訝しげな視線を僕に向けていたけれど、何かを迷っているようだった。
「…アンタに出来るの?」
「僕には出来ると言っただろう? その代わり、君達には別のことをしてもらう」
「別のことて何や?」
「彼がずっとこの町にいられるように彼の父親を説得してくれ。多少、荒っぽいやり方でも構わないから」
「説得って、どうやれって言うのよ?」
「それは、君達が考えること。僕はこっちで手一杯」
 僕が笑って言ったら、ますます二人は眉間に皺を寄せた。
「ホンマにお前の言うこと信用してエエんか?」
「ホントのホントに紅葉は帰ってくるワケ?」
 詰め寄られて少しだけ身体を後ろに引いたら。
「ネタがいるな」
 と、飛田がボソリと言った。
「ああ?」
「何よ?」
「紅葉の親父さんを説得するネタがさ。よっぽどの理由じゃないと納得しないだろ?」
「啓、お前、名波の言うこと信用するんか?」
「良いじゃん。ダメもとって事で。俺は名波を信用するけどね? 紅葉が名波んとこに来たのはそれなりの理由があったんだと思うぜ?」
 ケロッとした口調で告げられたから、何気なく見過ごしてしまうところだった。気が付いたのは、鈴置が、
「何や? 紅葉が名波んとこ来たちゅーのは?」
 と、飛田に尋ねたからだ。
「……何だ、飛田も気が付いていたんだ」
 苦笑して尋ねると飛田は肩を竦める。
「オレ、基本的にはリアリストなんだよね。葦原とかおっかないしさ。ま、今回は特別って事で」
「だから、何のことや?」
「まーまーまー。タケルは気にしなくて良いんだって。それよか、ネタ考えようぜ、ネタ。南もウダウダ言ってんなよ。とりあえずやってみて、紅葉が戻ってこなかったら名波に文句言えって」
 飛田はそう言うと、半ば強引に二人を立ち上がらせ、背中を押して教室を出ていこうとする。二人とも、何か、まだ、くどくどと文句を言っていたけれど、結局、飛田に押し切られて教室を出た。
 僕が、その後を追いかけて教室を出た時だった。
「待って」
 不意に、背後から葦原レナに声を掛けられる。驚いて振り返り、前にもこんなことがあったような気がする、と苦笑した。
「あ…びっくりした。なんだい?」
「あ? なんや? 葦原やないか?」
 葦原レナは、何も言わずに、アカネの方に近づくと、手にしていた封筒をアカネに押しつけた。
「何よ? これ?」
「それ、石塚君のお父さんに送って。ばらまかれたくなかったら言うこと聞けって言えば聞くと思う」
 葦原レナはそれだけ告げると、踵を返し、呆気に取られている僕らを振り向きもせずに、何も言わず去っていった。
「……どういうこと?」
 僕に聞かれても……。
「多分、石塚紅葉の父親の説得に使えってことだろ?」
「…なんで、アイツがそんな事言うワケ? 何よ? アンタとアイツグルなの?」
「…そんな訳無いだろう? 何にも言ってないって」
 言ってないのに、なぜだか僕の行動パターンを読まれているようで、葦原レナに「特殊能力」があるのは十分承知しているつもりでも、流石に、少し怖くなった。
 僕が戸惑った表情で葦原レナの後ろ姿を眺めていると、飛田が後ろでボソリと、
「…出たよ、霊感少女…こえー…」
 と漏らしたけれど、結局、僕らはそれ以上は追求しなかった。




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