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『069:片足』 …………………

 *『008:パチンコ』と対になっています。そちらを先にお読みください。




「ソイツの事、体中嘗め回して、突っ込んで犯しまくりたいっていうのは憎悪って事だと思う?」
 セックスの後、そう言ったら篝(かがり)先輩は目を大きく見開いて、それから、眉間に皺を寄せて、
「いや、それは憎悪って言うより恋に近い気がするけど」
 と淡々とした口調で答えをくれた。その答えに、今度は俺が眉間に皺を寄せる。
 『恋』だって? 俺が? あのメス猿に? 冗談だろう、と思った。
「っつーか、葛掛。誰の話だよ?」
 どこか面白がるように篝先輩は体を起こす。白いしなやかな体のあちこちには俺のつけたのと、どこの誰がつけたかも分からないようなのと、その両方のキスマークが散らばっていて酷く扇情的に見えた。しかも、この表情。上目遣いで、どこか人を誘惑するかのような笑み。普段は『氷の女王様』なんて呼ばれているけど、その実態はかなり小悪魔的な人だと思う。正確なところは知らないけれど、俺以外にも、セックスをする相手が何人かいるらしいし、本気で惚れてたらきっと泥沼だっただろう。けれども、何度セックスしても篝先輩に対して独占欲だとか、執着だとかは感じたことが無かった。「飽きたから、今日でやめる」と言われたら、素直に「はい、そうですか」と答えられるくらい。
 でも、むしろ、それくらい俺が冷めていたから篝先輩は俺をセフレとして選んだのかもしれない。
「……崎谷唯人(さきやゆいと)」
 言いづらそうに俺がその名前を出すと、篝先輩はふっと表情を無くして黙り込み、それから突然声を上げて爆笑した。
「王様のお稚児さんかよ!」
 俺は憮然とした表情で腐りながらも反論できなかった。きっと俺が篝先輩でも大爆笑しただろうから。何が悲しくて校内の『王様』と名高い寮長のお気に入りの恋人、俗称『お稚児さん』に懸想しなくてはならないのか。
 遊び半分で気軽に手を出すには危険すぎる相手だし、だからと言って本気で略奪しようとするにはもっと性質(たち)が悪い。だが、一度生じてしまった欲望を、見てみない振りをするには限界が近かった。

 そもそも、きっかけは、崎谷が弓寮長とキスしているところを目撃してしまったことだった。それまで、崎谷に対する俺の印象は『他人のもの』というフィルターが掛かっていたため、イマイチ正確ではなかった。妙に綺麗な奴だな、とは思っていたがそれだけだ。
 篝先輩もかなり綺麗だが、崎谷の綺麗さは少し種類が違う。線の細さと脆さを感じさせ、その癖、凛とした芯があって揺らがない。それが男の嗜虐心をそそる色気になっていた。
 入学して間もない頃、レイプ未遂事件に巻き込まれたと言う噂だったが、それも納得できないこともない。崎谷は、酷く蹂躙したいと言う征服欲を刺激する存在だったのだ。
 だが、その時まで、その存在がリアリティを持って俺の中に入ってくることはなかった。どこか遠い存在だとさえ思っていたのに。
 弓寮長に腰を抱かれ、随分と濃厚なキスを施されている崎谷の表情は犯罪的に色っぽかった。微かに漏れる甘ったるい喘ぎ声に、危うく下半身を直撃されるところだった。実際、半分ほど勃っていたけれど、それを鉄の自制心で俺は押し込めた。
 それ以来、何かにつけて崎谷が視界に入ってくるようになった。
 やたらと、その綺麗な顔が目に付く。そして、その隣には必ず『王様』が守るように立ち並んでいるのだ。それが俺に、どうしようもない苛立ちを与え、結果、顔を見れば俺は崎谷に嫌味ばかりを言うようになってしまった。
 崎谷はどちらかというと、感情があまり表に出ない。多分負けず嫌いなのだろう。俺がどんな嫌味を言っても気にしてないように見えた。でも一瞬だけ、その瞳が揺れる。傷ついたように微かに表情が歪む。その一瞬の顔が見たくて、俺は大概酷い言葉ばかりを崎谷に投げ続けた。だから、多分、崎谷は俺のことを嫌っているだろう。




「つーか、お前がそこまでガキだったてのは意外だ」
 ひとしきり笑った後で篝先輩はそんな風に俺を馬鹿にした。
「どういう意味?」
「お前のは、ほら、アレだろ? 小学生が好きな子をついいじめてしまうっていう。その延長行為」
 自分でも自覚していなかったことを、篝先輩はそんな風に的確に表現した。
「憎悪だって? そんな風に勘違いしちまうトコもガキだなあ。いや、笑わせてもらったワ」
 シャツを羽織ながら篝先輩は、そんな風に情け容赦ないことをズケズケと言ってくれた。
「好きな…って、むしろ、俺は崎谷が嫌いだと思うんだけど。第一…崎谷のこと見ると、いつだって苛々するし……いつも弓先輩の金魚の糞みたいにくっついて、所構わずサカッてるの見たりすると、ホントむかつく」
 俺が吐き捨てるようにそう反論すると、今度は馬鹿にするのとは違う、苦笑いみたいな笑みを篝先輩は浮かべた。
「どうなんかな。崎谷が弓にくっついているっていうより、弓が崎谷を離さないって感じだけどな。それに……お前のそれはどう考えても嫉妬だろ」
「嫉妬! ? 俺が! ? 冗談はやめろよ」
「ははは、ホント、お前ガキだな。じゃ、ちょっと想像してみろよ。頭の中で弓と自分を入れ替えて。それでも崎谷に腹が立つか?」
 言われたとおりに俺は想像する。崎谷の男にしちゃ随分と細い体を抱き寄せる。頭の後ろを支えて、キスをすると崎谷は気持ちよさそうに目を閉じた。キスをしている相手は弓先輩じゃない。俺だ。無防備な色っぽい表情を浮かべて、崎谷は「ンッ…」と甘ったるい声を漏らす。それに対する不快感は残念ながら、スズメの涙ほども感じなかった。あるのは否定しようのない充足感。
「……マジかよ」
 愕然とした表情でベッドの上にゴロリと寝そべった俺を、篝先輩は楽しそうに見下ろした。
「略奪愛するか? 本気出すなら、協力しないこともない」
「略奪愛? …あの王様みたいな人に楯突くって?」
「ま、今後、平和な寮生活は送れなくなるかもな」
 それでも、それを引き換えにしてでも本気で崎谷を奪いたいのか、と篝先輩は問うた。どこか事態を楽しむかのような悪魔みたいな綺麗な表情で。
 いつもは無表情を装っている人だけど、本性は、多分、こっちの方なんだろう。つくずく、こんな人に惚れなくて良かったと思ったけれど、他人のモノ、しかもとんでもなく手ごわい人間の所有物に惚れるのとどっちがマシかと考えたら、五十歩百歩だと馬鹿馬鹿しくなった。
「別に、最初から平和な寮生活なんて望んでないけどね。むしろ、四面楚歌、位の方が刺激があって良いんじゃない?」
 どこかやけっぱちな笑いを浮かべて俺が言うと、篝先輩は軽く肩をすくめて見せた。
「了解。せっかく相性の良いセフレだと思ったんだけどな。また最初から探すの面倒臭ぇ」
 それは褒め言葉なのかどうなのか。
「そろそろ暇つぶしでもふっかける予定なんだよ。その時に仕掛けてやる。でも俺がするのはお膳立てだけ。あとは自分で落とせよ」
 篝先輩は楽しそうにそれだけを言い残すと、きっちりと服を調えて部屋を出て行った。出て行った後で、嗚呼、これが最後のセックスだったのかと少しだけ感慨に浸ってみたけれど。それも長くは続かない。
 想像したとおり、あまりに綺麗な引き際に、寂しさや悲しさは少しも沸いてこなかった。むしろ、その潔さが妙な爽快感を与える。あの人が、本気で惚れる相手ってのはどんな人なんだろうかと思ったけど。
 学内で、対等に張り合える相手なんて弓先輩くらいしかいないだろうなと、すぐに思考を放り投げた。



 篝先輩の言う『お膳立て』は、それから一週間後にやってきた。恒例の、寮内での馬鹿馬鹿しいお遊び。
 ゲームのルールを弓寮長から聞いて、なるほどなと思った。
「ま、聞くだけ無駄だとは思うけど、葛掛はどっちのチームに入る? 俺か、篝か」
 一応、表向き、寮内では俺と篝先輩は付き合っていると思われているらしいから、弓先輩のその言葉は当然といえば当然だった。
 でも別に、俺は弓先輩を嫌っているわけでも、特別、篝先輩の味方というわけでもない。弓先輩の器の大きさはちゃんと尊敬している。客観的に見て憎たらしいほど良い男だとも思う。だから、今回が特別なゲームでなければ、正直、どっちのチームだって良かったのだが。
「篝先輩のチームに入ります」
 よんどころない事情により俺がそう宣言すると、弓先輩はフンと鼻で笑って、
「だろうな」
 と言った。どうも、俺は余り弓先輩には好かれていないらしい。

 もしかしたら。

 もしかしたら、俺が篝先輩と(表向きは)付き合っているから、なのではないかと思ったこともあるけど、正確なところは分からない。第一、弓先輩には崎谷がいるし、弓先輩と篝先輩は犬猿の仲だと言われるほど仲が悪いのだ。
 それに、他人の心配より自分の心配だ。せっかくのお膳立てを無駄にするわけにはいかない。




「お前と崎谷がぶつかるように細工してやるよ。崎谷は頭も良いし運動神経も良い。きっと弓はエースナンバーをふるはずだから。お前にも同じ数字をふってやる、弓がお前を指名してきたら俺も崎谷を指名する」
 そう言って篝先輩が俺に渡したのはクラブのエースだった。これで、俺は崎谷と直接対戦できる。対戦して勝ったほうが負けたほうを奴隷に出来るという素晴らしい景品付きのゲーム。
 俺は絶対に勝ってやる、と思った。勝って崎谷を奴隷にする。奴隷にしたら体中嘗め回して、突っ込んで犯しまくってやる、と甚だ物騒なことを密かに決心した。



 俺たちに課せられた種目は『パチンコ』だった。だが、当然、パチンコ屋のパチンコじゃない。シューティングゲームの『パチンコ』。俺にはかなり有利な種目だった。もしかしたら、その辺も篝先輩の小細工だったかもしれないけど、そんな細かいことはどうでも良い。
 運が良い事に、狙うほうと狙われるほうを決めるジャンケンは俺が勝った。これで勝率は8割方俺に傾いただろう。だが、崎谷の目は決して戦意を喪失してはいなかった。むしろ、何か強い意志を感じさせるような、覚悟を決めたような凛とした表情をしていた。その表情が俺の欲求に火をつける。捕らえて、押さえつけて屈服させたいという征服欲。
 逃げる崎谷を追う、という行為に俺はどこか常軌を逸するほど興奮していたのかもしれない。崎谷は酷くすばしっこいが、その細い体に見合った持久力しか持っていない。だから、じわじわと追い詰めて、後半に勝負をかけようと作戦を立てた。


 崎谷が出発した三十秒後に俺も出発する。多分、崎谷は北寮に向かっただろうなと思った。理由なんてない。ただ漠然とそう確信した。それから、この勝負は俺が勝つだろうな、とも。本能的な予感というか、直感というか。そんなものだ。
 勝負事をする時に、まれに、こんな直感が訪れることがある。たとえば、弓道の試合の時とか。そういう時は絶対に負けない。
 崎谷は、頭を使って、障害物の多い場所をちょこまかとすばしっこく逃げ回っている。身体能力で負けているとは思わないが、反射神経だけを比べるなら崎谷のほうが僅かに上だろう。俺は、7割くらいの力で崎谷を追いかけ続けた。前半はとにかく崎谷の体力を削ることに終始する。体力を温存しつつ、崎谷をじわりじわりと追い詰める。それは奇妙な精神的快感を俺に与えてくれた。
 多分、猫が捕らえたねずみを玩具にしていたぶっているとき、こんな気分になるんじゃないだろうかと思った。
 『狙撃手』と『獲物』、と弓先輩は言ったけれど、まさにその通りだ。崎谷は俺にとっては『獲物』だった。捕らえたら、きっと骨までしゃぶりつくす勢いで貪ってしまう、そんな気がした。
 クールだとか、ドライだとか、冷めているだとか。感心したように、あるいは呆れたように、あるいは驚いたように様々な人に言われてきた。篝先輩はそこが良いんだと、俺を選んだりもした。自分自身でも、そういう人間なのだと自覚していたのに。
 崎谷はそれをいとも容易く破壊する。この切望と執着は一体どこから来るというのか。理屈ではない。本能の部分で『アレは俺のものだ』ともう一人の俺が訴える。本当は他人のモノだってのに、そんな自分に呆れつつも、それでも、もう、自分を偽ったりしないと決めた。

 先を行く崎谷の靴音がかなり近い。大分差が縮まってきたのだろう。チラリと白いシャツの背中が見えて、その後を追うように廊下に躍り出た。駆けていく綺麗な背中。捕らえられる、自分のものになる、と思ったら実にらしくもなく平常心を失ったらしい。絶対に当たると思った弾は僅かにそれ、廊下の壁を真っ赤に染めた。
 崎谷は一度だけ振り返り、その距離の近さに焦ったのだろう。迷わずすぐ近くの階段の手すりに手を掛けるとヒラリと身を翻してそこから階下に飛び降りた。その直後に、上手く着地したとは思えない、ドサリという音。もしかしたら怪我をしたのかもしれない。
 だが、その時の俺には崎谷の怪我や体を慮るような思いやりは塵ほども無かった。ただ、都合が良いとしか思わなかった。
 どうやら、崎谷は片足がイってしまったらしい。立てないほど重症だったけれど、俺はそのままの方が良いとさえ思った。片足だけなら、俺から逃げることが出来ないだろうと。
 自分が優しい人間だなんて思ったことも無い。どちらかと言えば冷たい人間に分類されるのだろう。それにしても、この嗜虐性はなんだ。俺は、このまま崎谷を引き裂いてしまうのではないかと、我ながら一瞬不安になったが。
 階段の下で壁に背を預け、諦めたように座り込んでいる崎谷を見た瞬間、その不安は解けた。奇妙な充足感と爽快感。嗚呼、そうか、と今更ながら自覚した。
 俺はただ、誰に憚ることなく崎谷を追いかけたかっただけなのだ。俺のものになれと、大きな声で訴えたかっただけなのだ。
 怪我をしてしまったことが相当不本意なのか、崎谷はムスッとした表情で俯いている。そんな表情も嫌いじゃないけど。
 別の表情を、もっと見たいと思った。
 崎谷の傷ついた顔や歪んだ表情が見たかったワケじゃない。ただ、いつもと違う、俺の知らない色んな崎谷が見たかっただけなのだ。篝先輩の言うとおり。そんなことも自覚できていなかったなんて本当にガキだ。
 俺は頭の中で素早く策略を張り巡らせる。たった二十四時間だけじゃなく、この先もずっと崎谷を手に入れるにはどうしたら良いのかと。弓先輩は半端じゃなく手ごわい相手だ。その人から、無理やり崎谷を奪うのだから、当然、ただじゃすまない。それでも、俺は一歩も引く気にはならなかった。
 いくつかのパターンを考えて、それを実行するべく崎谷の前に立つ。今まで抱いていた邪な欲求を飾ることなく崎谷にぶつけたら、崎谷は何を言われているのか分からない、と呆気にとられた顔で、ポカンと俺を見上げた。その表情がどこか子供っぽくて、不覚にも、俺は撫で回したいほど可愛いと思った。思わず笑いが零れてしまう。きっと、俺は今、欲しかった玩具を手に入れた子供のような顔をしているだろう。
 それはともかくとして、さっさと勝負は決めなくてはならない。
 パチンコを構え、崎谷の心臓を撃つと、その白いシャツが真っ赤に染まった。まるで俺のものだとマーキングしたようで、どこか気分が良い。
 だが。






 仕返しのように崎谷が返して寄越した返事は、俺が予想すらしていなかった事実だった。














 ゼエゼエと呼吸も荒く喘いでいる白い胸を誘われるように撫でると、過剰なほど崎谷の体は跳ね上がった。
「うっ……ンッ……」
 逃げるように体を捩る、そんな他愛の無い仕草にまで煽られて、俺はそんな自分に苦笑いを零した。
「ヤッ……もう、ダメ………ちょ……待って……」
 本気でお願いしたいなら、涙に潤んだ目で縋るように見つめてくるなんてことはよしたほうが良い。だが、きっと、崎谷にはそんな事も分からないのだろう。そのまま、もう何度目になるか分からない行為に突入したいという衝動を、俺は何とか押さえ込んだ。さすがにこのまま続けたら、崎谷が酸欠で死んでしまう。それでも今この時だけは俺の自由になる崎谷が勿体無くて、なるべく体には触れないように、その唇にそっと口付けた。でも、それさえ過敏になっている崎谷の体には刺激になってしまったのだろう。
「ンッ…ふ…ぅ…」
 と、崎谷はこれ以上はないというくらい甘ったるい声を漏らした。いつか見た、弓先輩とキスしていた崎谷と同じ声、同じ表情。否。あの時よりも、もっと色っぽくていやらしい。あの時の崎谷は、こんなふうに切羽詰っていなかった。
「待って…ちょっと休ませて……」
 お願い、なんて掠れた声で言われてしまえば男は条件反射のように臨戦態勢に入ってしまうもんだけど。ビギナーには、そうもその辺のことが全く理解できていないらしい。
 崎谷の言葉の通り、崎谷の体は全くまっさらなものだった。だから、一番最初の挿入には酷く苦労したけど。さすがに半日もベッドに貼り付けられていたらいい加減、体も慣れてきたのだろう。
 例のゲームの景品として、崎谷はめでたく一日俺の奴隷と相成った。当然、それをありがたく享受しないほど俺は聖人君子なんかじゃない。崎谷に告げた言葉の通り、崎谷の服を剥ぎ、全身嘗め回して『お願い、イかせて』と言わせてから、ビギナーに施すには濃すぎだろう、と言うセックスを与えた。お陰で、崎谷も途中からはすっかり開き直ってしまったようだが。

「……なあ。そう言えば、お前、篝先輩と付き合ってるんじゃないの? 俺とこんなことして良いわけ?」
 親切にも、少しの間休ませてやったら、やっと息が整ってきたのだろう。落ち着いた呼吸の合間に、崎谷はそんなことを聞いてきた。俺を見上げる瞳はどこか不安に揺れていて、そんな表情も可愛くて仕方がないと思った。
 どうしようもない。完全にヤられている。はまりまくっている。俺がクールでドライだなんて言ったのはどこのどいつだ。
「…別に付き合ってたわけじゃない。まあ、セックスはしてたけどな。セフレって奴? 俺も篝先輩もお互い好きだとか、そんな感じじゃなかったんだよ」
 少し言い訳じみているなと思いつつも、事実を正直に伝えると崎谷は微かに傷ついたような表情を見せた。だから、俺は慌てて言い足す。
「もう絶対、お前以外のヤツとヤんねーよ。その代わり、お前が俺の相手、きっちりしろよ」
 言いながら何だか横柄だと思ったが。崎谷は気にした風も無く、頬を微かに赤く染めて、こくんと頷いた。その仕草に火がつく。言葉も無く、おもむろに崎谷の体に覆いかぶさると、崎谷は驚いたようにパチパチと瞬きを繰り返した。
「続き」
「……本気で?」
「本気。っつーか、まだ12時間しか経ってない。あと12時間は俺の奴隷だろ?」
 からかうように俺が言ってやると、崎谷は小さな溜息を一つ零し、
「俺、もうちょっと体力つけよう」
 と真面目な顔で言った。
「そうしてくれ」
 と切実な表情でお願いしたら。







 崎谷はケラケラと笑いながら、俺の頭をポカンと殴った。




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