「景時さん、今日も朝ご飯食べないんですか?」
「あ、う、後で食べるから」
ここ数日、景時さんの様子がオカシイ。
前はあんなに大喜びして食べていた朝食を、忙しいから、あとで自分で食べるから、なんて口にしなくなって‥‥夜も、なんだか小食で。
「もしかして‥‥美味しく、ないですか」
だってそれ以外考えられない。
「まさか、そんなっっ、譲くんのご飯は美味しいよっ、そりゃもー怖いくらい美味しいよ‥‥怖い‥‥」
小さくなった声。
怖いって、どういうことですか!?
問い質そうにも、景時さんが泣きそうな顔をしてるから、なんだか気が引ける‥‥。
静かに深呼吸をして、なるべく優しく問いかけた。
「怖いんですか?」
何が?なんで?どんな風に?
追い詰めそうな言葉は口にせず、言葉が返ってくるのを待ってる。それでも景時さんは声を出すことすら怖がるように、臆病な視線を返してきた。
ふふっ。
まるで飼い主に叱られた子犬みたいですよ。
笑いを堪えながら唇を重ねて、じっくりと絡みつく。
景時さん、何を悩んでいるんですか。
俺は貴方のことなら、何でも知りたいのに‥‥。
長いキスの後でそっと顔を寄せると、困り果てた顔でボソボソと呟いた。
「譲くんに‥‥嫌われたくないよ‥‥」
はい?
「譲くんの料理は美味しすぎて、つい沢山食べちゃって‥‥その‥‥体重とか、体脂肪とか、そういうの‥‥あっちじゃ考えたこともなかったけど‥‥前みたいに、う、動かないし」
プッ!!!
とうとう堪えきれなくなって、腹を抱えて笑ってしまった。
「笑っちゃうよね‥‥」
「いえ。いえ、ゴメンナサイ、景時さん」
まさか貴方がそんなことで悩むなんて!!
そういえば最近、お腹の開いた服を着なくなったなぁ、とは思ってたけど。
「全然太ってなんかないですよ」
「そんなことないんだよ。あっちにいた頃着てた服、もう入らないしっ」
そうなんですか?(笑)
「言ってくれたら、ローカロリーな食事に切り替えたのに」
「そんなっ、毎日美味しいご飯作ってくるだけで嬉しいし、申し訳ないくらいなのに」
まったく。
「困った人だな。俺は貴方に美味しく食べてもらいたいだけなのに‥‥貴方の箸が途中で止まったら、その方が虚しいですよ?」
どうせまたTVなんか見て、メタボリックだなんだって踊らされちゃったんでしょ?
こんな所が、可愛くて仕方がない。
「そっか‥‥そうだよね‥‥ゴメン‥‥」
「それなら尚更、朝食は抜かないでください。余計太りやすい体質になりますからね」
「そうなの〜っ!?」
「はい」
ニッコリ笑うと、ぱああああっと明るい顔をして、いそいそとテーブルに着いてくれた。
「今日の朝ご飯はっ!?」
「ホタテの中華粥ですよ」
お腹の具合でも悪いのかと思って、優しいものを作ったんだけど、必要なかったかな。
「嬉しい〜〜〜〜〜っっ、お腹空きすぎて胸が焼けて、重いものを消化できる気がしなかったんだけど」
変なこと考えるから、ストレスで胸焼けしたんじゃないですか?
頭の中で突っ込みながら、土鍋をダイニングテーブルの真ん中に置いて蓋を取ると、ふわ〜っと良い香りが漂う。
グウウウウウウウウウウッ
聞くまでもなく、景時さんのお腹の虫。
「まったく‥‥どれだけ我慢していたんですか」
「え、えへ」
「ドカ食いはダメですよ。ゆっくり食べてください」
「はーい」
手まで上げて返事をしてから、レンゲで一口。
「う。‥‥‥うまぁいっっ」
なにも泣かなくても。
熱いお粥を『はふはふ』しながら、涙目で頬を押さえて‥‥幸せそうな顔をして。
「よかった」
「おいひぃよ〜〜、譲くん大好き〜っ」
俺も貴方が大好きですよ。
幸せで幸せで、自分で作った料理なのに、世界一美味しいご馳走を食べてるような気分になる。
貴方が喜んでくれるから。
「譲くんの料理は世界一だねっ!!」
誰に認められたいとも思わない。
貴方にとって、いつまでも世界一の料理を出せる俺でいられたら、それだけで。
「美味しくてローカロリーな献立、考えますからね」
「譲くん‥‥‥‥ありがと」
いつまでも、大好きな貴方の世界一であれますように。
景時が可愛すぎるとか、そういうクレームは受け付けておりません(なんですとっ!?)フハハハハ