「〜〜♪〜♪」
ご機嫌に歌いながら、洗濯物に埋もれてる貴方。
シーツの影からそっと近づいて声をかけたら驚くかな・・・そんなガキっぽいことを考えながら、目の前まで来たのに。気付かない。後ろを向いて次の紐に洗濯を干し始めた貴方が、風に揺らめく布の隙間から見え隠れするのに。
・・・まさか、な。
気配を断ったつもりはない。音を、声を立てないだけで、俺は確かに此処にいるのに。まさか危険な戦場で生きる人が気付かないなんてことがあるわけがない。
庭中に張り巡らせた紐を埋め尽くすように、少しずつ遠ざかる貴方を見つめながら、ただ立ちつくす。
軽やかに俺の存在を無視し続ける貴方に、腹が立って。
こんな事で腹を立てる自分の身勝手さが惨めで。
揺れる布を掻き分けながら、すぐそこの貴方を捕まえた。
「え、譲く・・・・」
何も聞きたくない。何も言いたくない。何も見たくない。
気遣うような貴方の声も、貴方を責める心も、戸惑う瞳も・・・こんな、茶番のような午後は、全て夢だといい。
逃がさないように首に回した両腕を引き離すどころか、その腕で腰を抱いて、そっと引き寄せてくる。不自然に飛びついた姿勢を正すように、ピタリと身体が密着して・・・息が、上がる。
涙が出そうだ。
景時さん、貴方の優しさは残酷です。
突き放してくれたら、きっとすぐに諦められたのに。玉砕覚悟の暴走は、いっそ気持ちよく砕いてくれたら良かったのに。
好きでもないくせに、俺を許すんですか。
問い質したい。赦されたい。逃げ帰りたい。離れたくない。
絡み合う互いの熱に、何も考えられなくなる。
いつしか俺は戸惑うことも忘れて、夢中で貴方を求めた。
深く、もっと深く。
甘やかな吐息が頬にかかるたび、際限なく貴方が欲しくなる。
「ゆ・・ずる、くん。・・・待って・・」
息をあげた貴方が降参するように片手を上げて、反らした顔を肩に乗せる。
肩で息を付きながら、波が引くのを待つ。
これきりと知っているくせに、なぜだか満たされた気持ちになったのは・・・貴方が、本当に優しい人だからなんでしょうね。
「すみません、景時さん」
今更だろう。それでも何故か許してくれるような気がして。
長い沈黙に堪えかねて上げた視線の中、困ったように首を傾げた貴方の瞳は、柔らかく笑っていた。
「謝られちゃうと、どうしていいのか悩むよ。・・・嬉しかったって言ってもいいかな」
呆然と・・・無意識に抱き寄せた身体は、何の抵抗もなく。
「景時、さん・・・?」
夢でもいい。
こんなに幸せな時間をくれるなら、それが夢でもかまわない。
抱き返してくれた腕の確かな強さを感じながら、貴方の匂いで胸を満たして。
結局俺たちは、日が傾くまでそのまま・・・白い風の中で抱き合っていた。