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[分岐ネタ]将臣ルート

[分岐ネタ]譲くん、究極の選択!
から続いています。こちらは将臣ルート。
元ネタを読んでいない人は、上のタイトルから入ってください。


「‥‥‥行くな、譲」
 絞り出すような気弱な声に、胸の奥が締め付けられる。

 狡い。
 こんな場面で、そんな‥‥今まで一度も見せたことがないような弱さを晒すなんて。
「なんで俺が兄さんに引き止められなきゃならないんだよっ」
「‥‥‥っ」
 こんなの酷い。
 幼い頃からずっと大嫌いだった。
 むやみやたらと俺を守るアンタも、気付かないうちに庇われてる自分も、反吐が出るほど嫌いだった。
 どれだけ足掻いても掌の上にいるようで、いつだって苦しくて。
「守りたい、から‥だ‥‥」
「兄さんに守られるほど弱くなんかないっ!」

「わかってる!!!」

 傲慢なはずの叫び声に、なぜだか息が詰まる。
 何か言いたい。
 なのに、言葉が何も出てこない。
「弱いのはお前じゃない。‥‥俺が‥‥‥もう、堪えられないんだ」
 兄さん?
「なんで、泣いて‥‥」
 その涙は重すぎて。
 いっそ見なかったことにしてしまいたくて。

 逃げ道を求めて揺れた身体を、そっと景時さんが支えてくれた。
「ここで逃げたら、死ぬまで囚われちゃうんじゃないかな?」
 どうして貴方はそんなに、優しい‥‥。
「‥‥‥‥はい」
 心が凪いでいく。
 兄さんの手を取ることは、この優しい手を離すこと。
 解っているのに。
 項垂れたままで動かない目の前の小さな影が、どうしても愛しくて。
 そっと近づいて、触れたら。
「譲‥‥っ」
 息もできないほどの力で抱きしめられた。

 キツク回された腕が、僅かに震えてる。
「こんなの、みっともねぇよな。‥‥自覚はしてんだぜ?」
 耳元で響く切ない声色が悲しくて。
 胸が痛い。
 こんなに‥‥目が覚めるほど明確に痛みを感じるのは、初めての経験だった。
「けど、お前が居ない3年って、長すぎだろ」
 その割には、再会した時の態度が冷たいんじゃないの?
 人の気も知らないで。
「殺されかかったり飢えて死にかけたりしたけどな。どんだけ酷い目にあっても、お前と会える日が来るかもしれねぇ‥‥って思ったら‥」

 死ヌニ死ネナイ。

 途切れた言葉が、胸に響く。
「もういいよ」
 これ以上聞きたくない。
 兄さんの気持ちなんか知らない。知りたくもない。
 どうせ‥‥離れられないんだから。
「よくねーだろっ。やっと会えたと思ったら相変わらずお前は平和そうなツラ下げて望美の腰巾着だしなっ。もう、お前の顔見た途端、発情期の犬みてぇに腰振って抱きつきそうになった俺の気も知らないで」
「知るかっっっ」
 ワガママな腕の中に閉じ込められて、髪をグシャグシャと掻き回されて、汗臭い匂い嗅いで‥‥ホッとしてる自分が、情けない。
 情けなくて、涙が出る。
「知るか。‥‥‥‥それならそうと、会った時に言え。クソ兄貴」
 どうせ自分は取るに足らない存在だと落ち込んだままの、ここでの暮らしは最悪だった。
 全部兄さんのせいだからな。
「そう、だな‥‥悪ぃ、バカな兄貴で」
「まったくだ」
「会いたかった。離れたくない。傍に‥‥‥いさせろ」
「‥‥当然だろ?」
 もう二度と、この手は離さない。

 不毛な情だと人に笑われても。
 死ぬわけじゃ、ない。
「譲っ」
「バカ、苦し‥‥っ」
 離れることが死ぬより辛いなら、もう‥‥傍にいるしかない。
「調子に乗るなよ、コラ、離れろっ」
「どこにも行かないって約束したら、離れる」
「‥‥‥じゃ、離さなくていい」
「おいっ」
「不安なら捕まえてたらいいだろ。もう二度と離すなよ」
「‥‥‥ああ」

 もう二度と。


 もう二度と。