[分岐ネタ]譲くん、究極の選択!
から続いています。こちらは景時ルート。
元ネタを読んでいない人は、上のタイトルから入ってください。
その優しい引力にフラフラと吸い寄せられた俺を、強い腕が引き寄せる。
「‥‥‥行くな、譲」
絞り出すような気弱な声に、胸の奥が締め付けられる。
俺の迷いを悟った人が、何かを手放すような空虚な風を纏った。
「嫌だ。‥‥離さないでください。そんな簡単に、捨てたりしないで‥‥っ」
狡いかもしれない。
即決できなかったのは、俺なのに。
名前のない情という情に雁字搦めにされて、身動きすら取れなかった自分が恥ずかしい。景時さんは‥‥その存在の全部で、俺を守っていてくれたのに。
「景時さんが、好きなんです‥‥っ」
失うことを悟った途端、俺の全てが凍りそうな心地になった。
身も心も、過去も‥‥未来も。
貴方が居ない未来なんて、考えられない。
「あんまり甘やかすと調子に乗っちゃうよ?」
頬に上がった朱色の血を、こそばゆそうに撫でる指に‥‥触れたい、なんて。
どうかしてる、かな。
素直に伸びた手を不思議に思いながら、その指に絡みつける。
「譲くん‥‥」
強く絡んだ指先から、僅かな気恥ずかしさと、大きな安心感が流れてきた。
貴方にならワガママを言いたい。
俺が俺に戻れる場所があるとするなら、それはこの人の腕の中。
今は本気で、そう信じられる。
「返事を聞かせてください。俺は貴方が好きです。貴方と生きたい」
顔が熱い。
こんなことを口走るなんて、どうしたんだろ、俺。
もしも景時さんが否定したら。
そう考えれば、言葉はとても怖ろしい意味を持つのに。
不思議、ですね。
貴方に言葉を投げるのは、ちっとも怖ろしいコトじゃない。
「譲くんっ」
答えの代わりとばかりに俺を抱きしめる腕の強さは、その確信をまた強固なものにする。
貴方は、俺の帰る場所。
可笑しいですよね。出逢うはずのなかった存在なのに‥‥貴方の引力は、俺にだけ、強烈な意味を持つ。
「ホントに、いいのか?」
苦笑いする兄さんが、俺を現実に引き戻した。
だけど‥‥この腕から逃れる気分にはなれなくて。少し弛んだ腕を、引き戻すように抱きしめる。
「ゴメン。俺は、この人の傍にいたいんだ」
「‥‥そっか。ま、いんじゃねーの?お前が本気で選ぶものに、口は出さねぇよ」
遠ざかる後ろ姿を見送りながら、ホントにいいの?なんて、苦しそうに呟く景時さんは、たぶん俺を信じていないワケじゃない。
それを素直に信じられるほど、幸の多い生き方をしてこなかった。
そういうこと、ですよね。
確認するまでもない。だけど‥‥だからこそ、いつか。
「行きましょう?」
貴方が心から笑ってくれるように。
そのために俺は生まれてきたんだと、信じてもいいですか?
いつかきっと、貴方が無条件に信じられる『幸せの形』になりますから。ね、景時さん‥‥。