八葉の役も終わり息を付いた頃、ふと気付く。
内裏の穢れが祓われ、清浄な空気を取り戻しても……依然変わることなく取り巻くのは、帝を核に回る、私怨や怨望の念。
出世欲などの男臭いものには蓋をできるが、女人の絡む後宮の絡みは、どう扱っても平穏にはいかない。誇張無しに、どう扱っても治まるはずのないものなのだ。それは『どうにもならぬもの』として扱えばよい話だというのに。
気を揉むのならば解るが、気をかける類の話ではない。
ましてや、それが元で心を壊すようでは、本末転倒も甚だしい。
厳重な人払いをものともせずに辿り着いた部屋。
声をかけずに傍へひかえると、この姿を確認して、緊張が解けていく。
「友雅か……」
すっかり怯えきった肩を、何も言わず抱き寄せる。
彼の人は抵抗をする様子もみせず、どうでも良いことのような顔で身を寄せた。
「皆、私に何を求めているのだろうな……私は仏でなく只の人だ。位があるというだけの、只の人だ。…誰を救うことも叶わぬ、俗な人間だ」
打ちひしがれる心に触れるように、そっとその瞳を覗き込む。
世の儚さをこそ愛するような柔らかく温かい眼差しが、今宵は輝きを失い光を閉じている。
貴方は……優しすぎるのです。
「今さら何を仰いますか。……誰も貴方の愛などを求めてはいない。そんな解りきったことを」
悲しみに閉じた光が少し戻って、皮肉気な笑みを浮かべる。
「……手酷いな」
何も解っていないくせに、言葉の端から人の心を量って勝手に傷つく。そんな貴方に苛立つ私を、それでも傍に置きたいなどと我が侭ばかりを言う。まったく……この人を評価する全ての人間に聞かせてやりたいほどの…。
いや、誰にも言うことはするまい。
貴方の弱さは、貴方の狡さは、私だけが知っていればよい。
「事実を申しただけですよ。皆が求めるのは『帝の寵愛』なのです。貴方という人ではない……貴方は怯える相手を間違えておいでなのですよ」
そこまで言葉にしてから、その身を組み敷く。
抗いもせずに、しかし手を出すこともせずに身を投げる、貴方の狡さを責めはしない。
貴方はそれでよいのです。
私だけが貴方を求めているのだと、ご自身への言い訳をやめてはいけない。
「では私は、何に怯えればよいのだ?」
少しばかり戻った顔色が、生真面目に問うてくる。
その胸を優しく滑りながら、熱を煽る。……貴方の言い訳を助けるように、少しばかり強引に煽っていく。
「さあ。…解らないのならよいのです。帝の寵愛を求める者には、帝としての心遣いを差し上げればよいではないですか」
煽られて上がった息が、皆まで言わせようと足掻いてくる。
「では私は、私としての心を何に差し出せばよいのだ」
熱に浮かされて、選ぶ言葉を間違えていますよ。……笑いを噛み殺したまま、その身体に沈みこむ。
完璧では有り得ない人。
腕の中で全てを晒し、ただの人と成り下がる、愛しい人。
「貴方は私に怯えていればよいのです。帝の寵愛などという言葉では決して満たされることのない、貪欲なこの男だけを恐れておればよいのです。……私が欲しいのは、貴方だけなのですよ。美しい飾りも衣も、全てを取り払って、生身の貴方だけを求めているのです……怖ろしいことでしょう」
貴方が欲しがるものは全てあげよう。
その身を求める熱い腕も、愛を乞う言葉も、不誠実で欲深い私の全ても。
「………………友雅……」
だから、ゆっくり眠ってくださいますね。
あまりにも大きなものを抱える貴方の身も心も……私の腕で支えてみせます。
私の生の、全てを賭けても…。
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突発で、友雅×帝。当然ですけど【酔恋譚】とは完全に別モノ。 譲葉と一緒に「帝×友雅か、友雅×帝か」という話題で盛り上がってしまったので、私の中にある二人の関係を出力してみました。譲葉は「帝×友雅」をプッシュ。間逆を行くオイラは当然「友雅×帝」です。別に反抗してるわけじゃないよっ(笑)お疲れの帝には優しく激しい愛情に絆される時間も必要かと思うので、そんな時くらい友雅が積極的に癒してやれよと思うわけです。攻はサービス精神。 |