自分の身を自分で守るためだと叩き込まれた修行は、師匠の命数を量るようで嫌いだった‥‥‥まさかそれに縋ることになるなんて、あの時は思いもせず。
今はただ、たとえ僅かでもアイツの肩代わりをしてやれる力を持つ自分が、誇らしくてたまらない。
この世界に来てすぐの頃は、千尋を守るためならどんなことでもしかねないアイツが鬱陶しかった。その力を僅かにも僕のために使う瞬間が、惨めでならなかった。
守られてなんかやらない。
一人で背負い込むなんて許さない。
風早が僕を庇うような素振りを見せるたび、子供扱いをされている自分が腹立たしくて。封印したはずの力を惜しまずに見せつけた。
「千尋は僕が守る」
風早は、僕が。‥‥そんなことは口が裂けても言えないけど。
風早の背中を守れるのは僕しかいない。
嘘でもよかった。そう信じるために必要なものは全て与えられて、僕なりに満足してたと告げたら、またあの寂しそうな顔で笑うのかもしれないけど。
「・・・また怪我したの?」
「那岐・・・いえ、たいしたことはありませんよ」
「よく言う」
僅かに感じる神域の気配。どうあっても秘密をあかそうとしない風早は、どこか神がかりな能力で傷を癒して笑うけど。
それでも残る傷。
どれだけの無茶をすれば、こんな有様になるのか。‥‥僅かなりとその力を知る以上、見えてしまうものはある。
同情はしないけどね。
「それなら隠すことないだろ。早く脱ぎなよ」
「お手柔らかにお願いしますよ」
躊躇いがちに晒された傷に癒しの力を注ぎ込む。風早の気を乱さないように、細心の注意をはらって。
消えた傷口を確認するように唇を寄せると、それをこそ待っていたように柔らかな溜息を吐いた。
もしかすると‥‥‥まさかこの為に、わざと傷を癒さぬまま、ここへと帰ってくるのかと、唐突にそんな考えが浮かんだ。
そんな筈があるか。
期待してしまいそうな自分を持て余しながら、その肌に手を伸ばす。
「風早‥‥」
息を吐くように名を呼べば、透き通るような笑顔が浮かぶ。
「那岐は、綺麗ですね」
「ばか」
綺麗ってのは、アンタのためにある言葉だろ。
このままずっと、世界が終わるまで‥‥終わっても、ずっと。
この腕の中に閉じ込めておけたら。
叶わぬ願いは、風早の笑顔のように綺麗だと、思った。