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[イノ友]月光

 心がざわめいて寝付けない。
 息苦しい部屋の中に風を通すために上げた御簾の向こうでは、憎らしいほど明るい月が手をかざしていた。
「君が呼んだのかい」
 届くはずもない相手に声をかけるように、長く焦がれ続けた空の玉を見上げる。
 しかし、いつもと様子が違う。
 あれほど恋い焦がれた夜空の真珠が、今夜はまるで寂しげな己の姿を模しているように思えて、苦い笑いが込み上げる。

 神子殿の世界では、あの月は日の光を受けて輝いていると思われているらしい。月自体が光るわけではないから、満ち欠けを繰り返すのだと。ならば朔は日の光を見失った沈黙の時なのだろうと、妙に得心がいく。
 やはりあの月は私自身の姿とも言えるだろう。
 日の光を求めて、焦がれて。
 それでも自分で近づこうとはせずに、付かず離れずを繰り返す。
 温かい光に心を溶かされて、また見失って凍り付いて。懲りもせずに次を待ち焦がれる。
 もどかしく日々を繰り返すだけの‥‥。

 今は、朔か。
 こんなに君が遠い。

 凍てつきそうなほど、心が闇に支配される。

 明日は逢うことが叶うだろうか。
 もう、他の誰にも溶かせない、この心を‥‥君に気付かれないように暖めて、いつまで保つことができるだろう。
 いっそ消えてしまおうか。
 気を抜けば絶望に食われそうな想いを断ち切るように、御簾を下ろして淀んだ空気を抱きしめた。