あんなの乗りたいとか言ったら、またガキ扱いされんじゃねーかと思ってた。
「船遊びか‥‥楽しそうだね」
「んじゃ、乗ろうぜ!?」
だけど解っちまったんだ。
大人げもなくとか、また余計なこと考えながらオマエがソワソワしてるの。
「いや、私は‥‥」
「オレが乗りてーんだよ、付き合え、友雅!」
「‥‥やれやれ」
不承不承と言いたげに付いてくる友雅の足取りは軽い。
子供の付き合い。
君が乗りたいのなら。
そんな言い訳がオマエに必要なら、そんな時くらい子供でいい。
「なっ、楽しいだろ?」
こんな形の船は、初めて漕いだ。
あっちの世界の船なら漕ぎ方くらい知ってるけどさ。‥‥友雅だって、同じだろ?
だから係員のおっちゃんが笑うのも聞かずに「オレが漕ぐ!」って宣言して、友雅を向こうに座らせた。
まぁ漕ぎ方を知ってたとしても任せるつもりなんかねぇけど。
「‥‥気を、使わせたね」
「何の話だ?」
すっとぼけて見せたけど、気付いてくれたのは少し誇らしい。
他の誰に「ガキだ」と笑われてもいいんだ。
オマエが、オレのこと‥‥ちゃんと見ててくれる。
それだけで。
「んなこといいから、見てみろよ。ほら」
桜の木が、湖に突き出るように伸びてる。
その下に入って船を止めると、友雅の目が輝いた。
「絶景、かな‥‥‥」
「だなっ」
さーすーが、元貴族。
サラサラと呟くように歌なんか詠んじまう辺りが、カッコ良いつーかワケワカンネェけど。
水面に落ちた花びらを拾ってご満悦な友雅は、なんか可愛い。
「青空に桜が映えて、美しいね」
欲しがるように手を伸ばす友雅の方が、よっぽどキレイじゃん。
そんなこと言えねーけどさ。
「あっちの方の木も見に行くか」
ここまで来れば、ちょっとくらい船が揺れても岸から見えないだろ。
オレの前でくらい『大人のフリ』やめてもいーんだぜ?
「‥‥代わろうか?」
「ん?オマエがどーしても漕いでみたいって言うなら、代わってやらないこともないけど?」
だから言えよ。
ここまで来てカッコつけてないで。
「ふふ、君には敵わないねぇ。‥‥船酔いなどさせぬように善処するよ」
「んなもん、するかよっ」
ほら、と明け渡した席に座った友雅は、子供みたいにワクワクした顔で水しぶきをあげた。